いつも通り帰って、普通に生活した。
違うのは歌の練習より歌詞を覚えることに専念したこと。
それからそれが終わり次第歌の練習もした。
その日は疲れていたのかベッドに入って直ぐに寝た。


『よし……頑張ろう』


自分を元気づける。少しは緊張しているのだから。
昨日とは違う一人で会場の方に入った。


****


玲央に言われた。髪の色が目立つと。帽子を渡されてそれをかぶった。それは昨日のことだ。

そして久々に光を見ることができた。
こないだは顔までは見れなかったからね。日傘もさしていたし、でもあれは光だとすぐにわかった。
髪の毛を伸ばしていることも。


「玲央……」


「なぁに?」


「綺麗だった、思っていた以上に」


そう言っては失礼かもしれない。
まるで全身が雪で包まれているかのようにたって歌っている彼女は美しかった。


「玲央……僕は」


「ん?」


「お前が羨ましい」


「え?」


何度でもいうよ、思うさ。


「話せて、触れれて。羨ましいんだ」


ずっと前までは僕と一緒だったのに。今では玲央が近いんだ。きっと男の中では君が一番だろうね、玲央。


「……大丈夫よ。きっと……また二人で笑いあえる」


どこにその自信があるんだ、君は。


「ほら、行くわよ。光ちゃんに会うんでしょ?」


玲央は大学の友人を電話で呼んでいるようだ。
僕はそのまま会場に向かうために早足であるいた。


****


自分のナンバーが呼ばれるまで違う部屋で待つ。そこには化粧をしている子、着替えを済ませている子が集まる。
布がこすれる音などしかしないため、静かだ。


「……失礼します。白銀光さん。どうぞ」


『はい』


白地に小さな花が裾の方に散りばめられるかのように刺繍されているドレス。旦那様から送られてきたものだ。
綺麗なドレスで前が短く後ろが長い。ドレスというよりもワンピースに近い形だった。


「エントリーナンバー15、京都国際音響高等女学院の白銀光さんです。歌う歌は二つです。では、どうぞ」


ピアノ奏者は同じ部の子に頼んでおいた。司会者がステージから降りると静かに始まるピアノ。
その子は驚いたろう。一週間前に曲を増やされて。でもその子は快く笑顔で了承してくれた。
私が先輩だからかもしれない。でも、ありがとう。



ねぇ、見つけたよ。少し離れた席のチケットを渡しておいたからわかる。
ねぇ、帽子をかぶっているあなた。征だよね?もう私のことを許してくれますか?旦那様の言いつけを破ってもいいって思えるようになってしまったから。
だから言いたい、この歌のように、好きだって。怖くてもいいたいの。
この歌で伝えることを許してください。私はそんな勇気はないからだから、ごめんなさい。
私の気持ちは本当だから。
それにこの歌詞の中には千の夜、と出てくる。大体千の夜は三年ほど。
ちょうど、離れた年くらいなんだよ?


歌い終わるともう一曲始まる。ゆっくりそれはピアノによって奏でられる。
洋楽、だった。実際は日本人の方が歌っているから洋楽とは言えないのかもしれない。ゆっくりとした、悲しい英語の曲。
元々このために歌う曲だった。これはよくわからずに選曲した。

朝が来るとき、優しい声は私を光の方へと導いてくれる。

この優しい声とは征のことかもしれない。
幾度と泣く征は私を光の元へと導いてくれたから。
見たとき直感したのかもしれない。

征の歌だと。


『……ありがとうございました』


パチパチと拍手が響く中、立ち上がった人が二人いた。遠くて顔は見えないが男女で夫婦かもしれない。


『?』


見たこと、ある気がした。
思い出しては、いけない気がした。


実渕さんがお花を持って歩いてくる中、その二人は私の知らない人のはずだった。


見たことのある笑。


『あ……あぁあ……わ……たし……』


「「やっと見つけた。お前の利用価値」」


『いや、だ……いや、嫌嫌嫌嫌!!!!!!!!!!!!!!!』


「……光ちゃん!」


『どうして、あんたたちがいるのよ……』


実渕さんの悲鳴、それに会場の人達の悲鳴。
それに征の声も聞こえた気がした。


その人達の声を耳にしながら私の意識は暗い闇に沈んでいった。


お父さん、お母さん……


「あんたはいらない。だって存在価値もない気持ち悪い子供だから」


ああ、そう言えば私は眠っていたんじゃない。殴られて気絶していた時に捨てられたんだった。
全部私の思い違いだったんだ。


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