『っぅ……は』
胸が痛い。呼吸ができない。
「どうした、みんな揃って」
『!』
目の前には赤い人。
その容姿は紛れもなく私の大事な人。
「……僕だけ仲間はずれなんだ?ねぇ、光」
『……何?』
「どうして僕を避ける」
『っ……それは……』
わからない。でもきっと私の後ろにはカエル。目の前の……赤司くんは蛇だ。
私はいつしか食い殺させるのだと、そう思った。それくらい膝が笑っていた。
階段をものすごいスピードで駆け上がったかのような息の上がりよう。それだけ怖いのだ。目の前の赤司征十郎≠ニいう男が。
「二度は聞かないよ。どうして避ける」
『ぁ……』
「光ちゃーん!っ、どうしたの?」
『あ、さつきちゃん……』
さつきちゃんがきても現状は結局変わらない。でも一回だけでも彼を止めてくれたからそれで十分だ。
息をする時間をくれた。ギュウギュウに詰まった息を。
『あなたは誰?』
「……」
固まる彼は私の顔を見て目を見開く。その大きな丸い猫みたいな目。
左右違う、綺麗な瞳。でも私が好きだった瞳は違うんだ。あんなきつい目もとではなかった。優しげな目元だったのに。
「……何を言っている」
『誰?』
「僕が聞いていたんだが?」
『誰って聞いてんのよ』
こんな言葉征に使ったことはなかった。
征疎か違う人にでさえ。いや、さっき言ったか。みんなに向かってキツい言葉を投げつけたね。
「僕は赤司征十郎だ。頭がおかしくなったのか?」
『違う。違うよ!あなたは征じゃない!』
「!」
舌打ちが聞こえた。私に向かって歩み寄ってくる彼は腕を振り上げた。
「!赤司!止めろ!!!!!!」
『ぁ……ぃった……』
バチンッ
破裂音が聞こえたと思ったら頬に鈍い痛みが走る。怖くて動こうとしなかったその足は力を失って重力に従って崩れた。自然と膝立ちになった私は征をいや、赤司くん≠見上げた。
「何をしてるんだ、お前は!」
「うるさいよ、真太郎」
赤司くんを止めようと前に出てきた緑間くんを睨み一つで竦ませた。
ここは教師も通らない廃校舎に等しい場所なので静かで彼の靴の音が妙に響いてそこまで距離はないのに遠く感じた。
「お前も、僕≠認めてくれないんだね」
『……』
「信じてもくれないのか?僕は、僕は、誰といたらいい!なぜ認めない!僕は僕だ!」
胸ぐらを掴まれて目の前で話す彼は何て儚げだっただろうか。
泣きそうな顔をして、悲痛そうな声で話して、私は彼に言ってはいけない言葉を言ったのだとすぐにわかった。
『私が知ってるのはあなたじゃない!』
「うるさい!」
『っ!』
掴んでいた胸元をいきなり突き放したもんだから尻餅をつく。正直痛い。体が、心が。
でもきっと私よりも彼の方が痛いんだろう。体も心も全て。
『気づいてあげられなかった』
「……?」
『もっと話してあげればよかった。避けるんじゃなかったっ』
「……」
『ごめんなさい、ごめん。……ごめんね。だから、戻ってきて……いっぱい話しなら聞くから、ずっと一緒だって、居なくならないって約束した!』
この涙をもうあなたが拭ってくれることはない。
「……もう二度と」
―二度と僕の前に現れるな
『……ぁ』
「……白銀、俺が間違っていたのだよ。俺らが赤司を殺した。すまない。あいつはお前を殴りは絶対しない」
『みどり、ま、くっ……ぅあ……わぁああああああ!!!!!!』
泣いて泣いて泣いたのに、もう君は私を見てくれることはない。
向こうに、私のことを見ずに彼は歩いていってしまった。
「すまなかった……すまない」
『ひっ、ぅあああああああああ!!』
泣いても泣いても意味ないこと、知ってる。
その日私は学校を早退した。
昼休みのことだった。
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