「……光」


『ん?何?』


「また、伸ばしてね。また結ってあげる」


『ありがとう』


「それと、今日早く行ってごめん」


『ううん、大丈夫』


「気づいてたのに、対処してなくてごめん」


『いいってば』


ごめんごめん、と何度も何度も言われたのを覚えていて、不思議な気持ちになっていた。


『……ねぇ、征?』


「何だい?」


『いなく、ならないでね?』


一瞬見えたんだ、君の瞳が片方だけ金色で怖かったと。初め見たとき、誰かわからなかった。


『約束、だよ』


「フフッ、変なことを言うね光は。俺が居なくなるわけないだろう?君の前から」


『だよね、よかった〜』


金色に見えたその瞳のことは私はこれは気のせいだったと、何もなかったと、自分の心の中にしまった。
何もなかったんだとこの時本当に思ったから。


『部活、するんだよ。緑間くん、心配してたよ征くんのこと』


「フフ、そうかい?じゃあビシバシ放課後、迷惑をかけた分やらなければならないね」


『え……び、ビシバシはちょっと、ね?』


「大丈夫さ」


その後、部活は終了。
私は一緒に征と教室に向かった。


『征は……いなくならないよね』


今の、赤司征十郎という人物が居なくなることを私は恐れていたんだ。どこかでずっと、彼が消えてしまいそうな気がしていたから。儚くて、寂しそうな、遠い目を時たま見せるあなたが。


「え?何か言った?」


『ううん、大丈夫』


****


『その後、さつきちゃんと、私を殴ってきた女子生徒は何もしてきませんでした』


きっと大体は想像がつく。


「そう……ねぇ、征ちゃんの目って……」


『あの目は、私の嫌いな目。あれは赤司くん≠フ目です』


「え?」


『征≠奪った赤司くん≠フ目。今の彼は完璧を求められすぎた彼が作り上げてしまった人格、だと私は思っています。……バスケや、学業面。父親、チームメイトから求められた物は彼が作り上げていたものを安易に壊してしまった』


「作り上げていたもの……って」


『赤司征十郎というヒトです』


難しいかもしれない。実渕さんにはわからないかもしれない。
だって、私だって初めは分からなかったし、何でああなってしまったのかわからなかった。


でも知ってしまった。
青峰くんが、紫原くんが、黄瀬くんが、緑間くん…………それに黒子くんも。
みんな変わってしまった。いや、黒子くんだけは違うかもしれない。変わってしまった彼らを見ていたから、きっと彼も変わらざる得なかったんだ。


『私には征のことが全てわかるなんて、そんな偉いことは言えません。でも、変わってしまったのだけは誰だってわかる。ううん、代わってしまった、か……』


「え?」


『……そばに居たかったのにいれなかったときってもの凄くもどかしいですね』


「そうね」


笑いかけるときっと無理して笑ってるって分かったんだろうか、実渕さんは苦笑いをして机の腕組まれている手に力を込めた。


「それを聞いている限り何かあったのね?」


『それはまた今度にしませんか?今日は暗くなるのが早い……帰ります。すみません』


「いいのよ!ごめんなさいね、無理言って」


『いえ、大丈夫です』


「あ、そうだわ!言わなきゃいけないことがあったのよ!行く人数、あれね6人よ。いける?」


『6人……いけます!頑張るので見ててくださいね。個人の方がいいですよね?』


「ええ、その方が助かるわ」


カバンに入っているチケットを取り出す。今日たまたま渡された。多いに越したことはないと思ったので十枚貰ってきてしまった。
本当は1人五枚までと言われたのに余ったから十枚と言えたんだ。よかった、5枚では足らなかった。


『1枚、余分に渡しておきますね。増えそうだったら言ってください』


「はーい、了解よ!」


『じゃあ、すみません』


「うん、また送っていってもいいかしら?」


『あー、今回はいいです』


「本当に?」


『ええ、毎度すみません』


「いいのよ、アタシが最後まで聞きたがるのが悪いのよ」


頭を下げて机にお金をおいた。
実渕さんは笑っていたんだ。ニコニコ。私に笑いかけてから一言行った。


「征ちゃんのこと、異性として好き?」


その答えは…


『―――』


「!!……そう」


ええ、そうですよ。じゃあ。


またね。歌、楽しみにしてるわ。


そんな言葉を交わして、店を出た。暗くなり始めている空はまるで、私の心の中のようにいろいろな色が混ざって、汚かった。


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