「……」
『……』
静かで店内の音とカウンターからの食器のぶつかり合う音しかしない。
緑間くんも私も何一つ言葉を発しなかった。
コーヒーカップを置くと合図のように緑間くんは口を開く。
「お前は、まだ会っていないのか?」
『…………たよ』
「む?」
『今日、会ったよ』
「!そうか……」
どうしてそんなにも穏やかな顔をするのだろうか。自分の事のように喜んでいるのだろうか?
『ねぇ、緑間くん』
「何だ?」
『私はこれからも征に会うつもりないし、会ってと誰かに頼まれても会う気はないよ』
「……お前はまだ、引きずっているのか?」
引きずっている、その言葉に私はムッとした。
確かに私は過去に囚われてあのこと≠引きずっているのかもしれない。だけど、それは誰にもまだ踏み込んで欲しくない。
『引きずっているんじゃないよ。私は従ってるんだ』
「そんなことしなくともいいだろう。もうあいつは怒っていない、変わった。学校がわかってもお前の学校は他校生が勝手に入るのは禁止している。会うにも会えんといっていたのだよ。それに一番悔やんでいたのはあいつ自身だ」
『……嘘だよ。あの人は、征は来てくれなかった。違う人は来ても彼は来てくれない』
……実渕さんのことだ。どうして彼がきたのか。どうして君は来てくれなかったの、征。
そうか、私は落胆したんだ。あの日、あの時、どうして赤司征十郎ではなく違う人がいるのか、と。
『……会いたいんだよ。けど、怖い。また傷つけそうで、怖い』
自分を抱きしめてうつむく。きっと今私の顔は歪んでダメな顔になってるはずだから。
「あいつは、あの時確かに傷ついたかもしれん。だが、あいつが一番嫌がったのはお前、白銀を傷つける事だったのだよ」
『それでも、怖いよ。…………今度こそ見放されたらどうしようって。それ以前に私が残全向き合えてないからあったら逃げ出しちゃう』
現に今日もそうだった。
会いたいと、触れたいと、そう願っていたのにその思いとは反して私は正反対の行動をしていた。
私は征から逃げてる。
『わかってるんだ。逃げてるってことくらい。それをしちゃダメだってわかってる』
「当たり前だ。そろそろ向き合え」
『ありがと。……じゃあ、明日は部活で練習試合だよね、頑張れ』
「ああ。人事を尽くしてるのだ、勝つ」
『頑張れよ〜。何なら応援しに行ってあげようか?場所、洛山でしょ?』
「ああ。いいのか、来ても」
『うん。見ても緑間くんのだけだし』
「ふんっ、そうか」
『そーそー』
やっぱり緑間くんはツンデレだと思う。
……征には会わない。まだ向き合える気ないから。
その後ぬるくなったコーヒーを飲んで二人で店を出た。ホテルまでの道を教えてあげて別れた。
ポツリポツリと街頭に照らされた道を歩く。
『洛山、か』
征を見ることはないかもしれない。でも、目がおってしまうのは仕方が無いと思う。
****
『負けちゃった……』
練習試合は洛山が勝った。緑間くんは悔しそうだってけどスッキリしているような面持ちで征と握手を交わしていた。
私は緑間くんには悪いけど、何も言わずにその場を去った。
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