『……澪ちゃん?』
「お、起きた起きた!おはよーさん」
『んん……はよ』
ベッドから上半身だけ起こして伸びをした。背中の骨が鳴る。
『今、何時限目?』
「4終わって昼休みやで〜。起きれそうやったら食べる?」
ああ、そんなに私は寝てたのか。……澪ちゃんに訳を言う暇もなくこっちに来ちゃったからな。
『ごめん。何も言わずに……』
「あ、そうそう。心配しとってんで?私も、将生と部長さん……やろか、心配したはったわ」
『そか』
部長とは言わずもがな赤司征十郎、彼だ。
まさか会うとは思ってなかった。
『将生くんにお礼言っといてくれない?食べよっか、だいぶマシになったし……』
「おう、そう来なくちゃ」
その日、お弁当を食べて、英語と世界史を受けて帰った。
世界史は眠たかったけど大分保健室で寝ていたせいか舟を漕ぐことはなかった。
*****
―18:00
「白銀」
『わぁお……』
「なんなのだよ」
「お、可愛いじゃん!こんばんわー、真ちゃんの相棒の高尾和成でぇす!」
『白銀光です。み、緑間くんにも友達が……嬉しいっ』
「だまるのだよ!」
本当に六時丁度についた彼の後ろには後輩と同じ一年の高尾くんがいた。
緑間くんとは正反対の社交的な気さくな人のよう。相反するかと思いきや意外と合うみたいです。
「高尾、他は頼んだ。先にホテルに行っておけ。何かあれば連絡しろ」
「はいほーい!じゃね、光ちゃんっ」
『あ、はい!じゃあまた』
「敬語じゃなくていいよー」
そう言ってわしゃわしゃと私の頭を撫でて、チームメイトを連れて行ってしまった。会話の内容からして今日泊まるホテルだろう。
『よし、緑間くん。今日は……猫の写真?』
「ラッキーアイテムなのだよ」
『そっか。あ、会いたいってことは何か話あるんだよね?そこら辺の店入る?それとも私の家くる?』
「は?」
『へ?』
私は何か変なことを言ったのだろうか?
緑間くんの顔が何か、死んでる。うん、見たことないくらい死んでる。
「お前っ……はぁ。不謹慎、なのだよ。俺は男だ。お前は女だということに少しは自覚をもて」
『え?あ、ああ!ごめんね』
言っている意味が少しわからなかったけど時間が経てば律儀な彼が怒りそうなことを私は言ってしまったのだと理解する。
『じゃ、私の行きつけのところに行きましょう!』
仕切り直し、とでも言おうか。手を叩いて緑間くんの横に立つ。
行くのは歩いてすぐの店だ。
「ロココ調、か?」
『おお、さすが緑間くん!わかってるね』
シックにブラウンとダークパープルでまとめられたその店内には小さくジャズミュージックがかかっている。
「……綺麗だな」
『うん』
カウンターにたっているおじいさんにコーヒーを二つ頼むと好きな場所に座る。
「よくこんな場所を見つけるものだ」
『ふふ、私の趣味知ってるでしょ?』
「写真か?」
『そうそう。さまよってる時にこういういいお店見つけたりするのよね』
その綺麗な店に目を惹かれた。内装もだけど外装も好き。
ケーキは出てこないけど挽かれたコーヒーが美味しい。ほんのり苦くて、でもたまに苦って思ったりするのも楽しい。
この世には私が知らないことが沢山ある。それを見つけて、写真に残すのが大好き。
「いい匂いだな」
『でしょ?落ち着くの。ここで本読むのは凄く』
「だろうな」
『うん。…………で、話って何?メールで済ませられない話だったんだよね?』
「……ああ」
―赤司には会ったか?
私の世界に赤司という名が出てこないというのはないのだ。きっと、友達思いな彼らが聞きに来たり心配したりするから。
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