やっぱり、そう思っている自分がいた。
好きな人の隣にずっと女が立ってたら誰だって嫌だと思う。その矛先が私に向いただけだ。
それは同じバスケ部で青峰くんの幼馴染み、さつきちゃんみたいに。
でも、私は……昔のことを思い出してしまうから。怖くなかったと言えば嘘になる。
でも、幼い子はやはり母親の愛を求めてしまうものだと心理学の文献にも多く書いてあることだ。
例え、どれほど怖いことをされていても愛を求めるが故に母親に必要以上に構ってしまう。それが私だった。
殴られたりするのは、昔のこともあって慣れているとそう思った。痛みなんか、大丈夫だと。でもそれは思い込みだった。
当たり前だけど、痛いものは痛かった。
『っ、やめっ』
「赤司くんから離れてよねッ」
微かに記憶に残っている両親の顔が浮かんで、殴られているのが昔みたいで、抵抗出来ない自分に嫌気がさした。
****
「……光?何かあったのか?」
『へ?何で?』
「浮かない顔をしていたからね」
『そうかな?』
一般人と比べると征はやはり鋭いと思う。それは黒子くんも同じ。
黒子くんは征が三軍から引っ張ってきた凄い人。それしか頭になかったけど黒子くんの趣味は人間観察だったからか鋭いのだ。
「何かあったんですか?最近桃井さんと呼び出されたりしてませんか?」
『ん?さつきちゃん?ああ、先生がよく呼ぶの。ふたりとも仲がいいし働き者だから手伝って欲しいって!ふふ、鼻が高いね』
「へぇ、そうかい?」
『うん』
こうやって私とさつきちゃんは嘘を重ねていった。じゃなきゃ、大切な人たちに迷惑と心配をかけてしまうと思ったから。
「白銀!」
『あ、緑間くん。どうかした?』
「これが落ちていたのだよ」
緑間くんの手にあったのはピンク色の手紙。気まずそうに渡す彼が可愛くてクスリと笑うと笑うなっと照れて言われてしまった。
緑間くんはツンデレだと思うのは私だけかな?
「光ちーん、ラブレター?」
「!光、相手は誰だ?」
その時の征の顔は怖かった。
嫌なんかブレザーから見えたらいけないものが見え隠れしてたからね?
『ざんねーん、これはラブレターじゃないよ。お友達!』
今の御時世、携帯とかあったから不思議に思われたかもしれない。そう思って急いで付け足した。
『その子、携帯持ってないの』
「今の時代んなやついるんだな、さつき」
「う、うん!凄いね、不便じゃないのかな?」
「まぁ、本人が持ってない限りそうではないんだろう。さて、昼休みがもう終わる。ああ、そうだ。今日は新入部員を紹介するから早く来るように」
私は征についていく様に急いでお弁当を片付ける。相変わらず大きな赤司家のお弁当箱は少々邪魔と言ってもいいと思うような大きさだった。
『ばいばーい!』
ツキン……腹や体がもう悲鳴をあげているのに私はまだ笑う。笑わなければみんなに心配をかけてしまうから。だから私は、さつきちゃんと笑うの。
でももっとこれが酷いことになるのは部活に入ってきた新入部員の人だった。
。。。
「黄瀬涼太っス。よろしく」
入部希望は青峰くんに憧れて、だそうだ。
何でも自分で全てこなせてしまうからつまらないと言っていた。でも、バスケはそんなことない。だから黄瀬くんも打ち込めたんだと思う。
「光っちー」
『ぅわ!き、黄瀬くん……抱きつかないで』
「いいじゃないっスか」
さつきちゃんに教えてもらったけど、どうやら黄瀬くんはモデルをやっているようだ。雑誌を見せてもらうと確かに黄瀬くんが載ってた。
バスケをやっている時の純粋な笑い方じゃなくて世渡りする時のような上辺だけの笑い方。
他のモデルもそう。上辺だけ。私はこの職業が少し苦手だった。
『黄瀬くんー、おーもーいーっ』
「黄瀬。光から離れろ。重たいと言っているだろう」
「ええー、でもっ」
『きーせーくーんー!怒るよ!』
「わわっ、ごめんってば」
それが余計にダメだった。
黄瀬くんと私は一緒にいたらいけなかったらしい。その証拠にまた呼び出されたんだから。
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