紫原がひとり暮らしの赤司の家に上がり込んでから、早いもので二週間が経った。赤司の家は、そのイメージをひとつも崩さないといっても過言ではくて、淡々としているという言葉がぴったりだと紫原は思う。その寂しいような空間に紫原がいることで、赤司は「家の中が狭くてなんだか嬉しいよ」と言うので、紫原は帰りたくなくなってしまった。幸いなことに紫原の通っている大学からも赤司の家は近くて、自転車を使って15分ほどだ。それは、朝起きられないために選んだ徒歩5分の自分の家に比べれば遠かったのだけれど、赤司が毎日起こしてくれるのでむしろ遅刻の心配はなくなった。自転車をわざわざ買いに行ったのと、何度か必要な物を大学の帰り際に取りに帰っただけで、紫原はその他、食事も洗濯もすべて赤司の家で行っている。

寒くなってきたのでこたつを出そうかと赤司が提案したので、紫原はいそいそと押入れからそれを取り出して組み立てた。赤司がホットココアとコーヒーを出してくれた時には、もうすでにこたつは出来上がった後だったので、紫原はすこしちいさいなぁと思いながら、のびのびとぬくまっていた。テーブルに並んだふたつのマグカップから、湯気と一緒にあまいのとほろ苦いのが合わさって、紫原をくすぐった。

「ありがとう敦。助かったよ」
「いいよー。ココアおいしいし」
「ならよかった。足は伸ばしたままでいいよ。曲げているのもきついだろう」

赤司のその言葉に甘えて、紫原は足を十分にのばしたままにした。赤司は紫原の足の間に収まるようにして足を伸ばしたので、すぐにふたりだけでいっぱいのこたつになった。あったかいなぁと紫原がうとうとし始めた頃、赤司は気づいたように笑った。

「今日はこのまま寝ようか」
「うん、そうしよーよ」
「枕がいるかい?」
「いらない。赤ちんが使っていいよ」
「そうか。ありがとう」

いそいそとちいさく動いて赤司が枕を取ったのを見て、今日こそぐっすり眠れるかなぁと紫原は思った。赤司は眠りが浅かった。いつも夜中に何度か目を覚ましていることを、紫原は知っていた。そのくせ紫原を起こしてくれる頃には軽い朝食だって出来ているし、さらに赤司はきっちりと服を着替えているので、紫原はいつも赤司が寝不足で倒れてしまうのではないかと思っていたのだ。

「そろそろ電気消すから、テレビも消してくれるかい」
「うん」

ぱちりと短い音がして電気が消えると、紫原の意識もうつらうつらと底に落ちていく。だけどなんだか隣がすうすうして、さらに赤司の足が静かにこそこそと動いたものだから、ああ眠れないのか、なんだか寝床を整える犬みたいだなぁと思い、おかしくて目が覚めてしまった。

「ねえ、赤ちん」
「…なんだい?眠れない?」
「うん、そう。だから一緒に寝よう。そっちいってもいい?」
「ふふ、うん、僕がいくよ」

すこししてぎゅうぎゅうと赤司がもぐり込めば、紫原はもう寒くなんかなくなった。いつもより近い距離に、どくどくと聴こえる心臓はどっちのだろうか。

「おやすみ、敦」

すこしだけ息を吐くようにして、赤司が夜の終わりを告げた。改めてこうしてみると赤司はちいさい。なんだか壊れてしまいそうだなぁとか、枕は結局いらなかったのかとか、そういうことを考えていると、いつの間にか赤司の規則正しい呼吸が聞こえて、紫原はなんだかほっとした。

「…おやすみ赤ちん。明日もちゃんと起こしてね」

そっと、壊れないように、自分の中におさまるように抱き寄せると、赤司はしっかりとあたたかかった。

130112

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