どうやら自分に向けられたそれは、世間でいう恋人に向けられるようなものではないことを、紫原はどこかでひっそりとわかっていた。ほど遠いのだと核心的ななにかに襲われてしまえば、悲しみだけが一気に積もってただ苦しい。だから、自分の好きなお菓子と一緒に全部飲み込んでどこかに流してしまおうと決めたのに、そうしていると赤司に怒られることが増えたので理不尽だなぁと思う。

「こら敦、食べながら歩くのはいけないと何度言ったらわかるんだ」
「いいじゃん、肉まんならこぼれないしー」
「そういう問題じゃないだろう。まったく…」
「赤ちんこわーい」

困り果てたような赤司の顔をみながら、紫原はいつもと同じように言葉をかえす。それでも赤司はいつも隣を歩いてくれるので、優しいなぁと思ってしまうのだった。しんしんと積もるようなそれを感じて、紫原は残った肉まんを一気につめこんで咀嚼した。もぐもぐ、ごくん。しかし、それはもうなくなってしまったと余計に悲しくなるだけだった。なんて短い期限付きなのだろう。このまま、なにもかも全部なくなってしまえばいいのに。

「どうした?」
「なんでもなーい。赤ちんご飯たべたの?肉まんあげればよかったね」
「いや、僕はいい。朝はあんまり欲しくないんだ。ほら、よく噛んだ方がいいよ。つめこむと消化に悪い」
「んー、どうせ消化しないんだけどねー」
「どういう意味だい?」
「べつにー。あ、峰ちんと黒ちんだ」

相変わらず赤司が困った顔をしている自分たちだけの朝に、見慣れた頭がふたつならんで見えて紫原は思わず声をかける。それからゆっくり、ああ、しまったなぁと思う。さっきまで紫原を映していた赤司の目はもう、しっかりと、ふたりを映しているのだから。

「大輝はまたテツヤに起こしてもらったみたいだな。寝癖がそのままだ」
「黒ちんも大変だね。保護者じゃん?」
「ああ…そうだね」
「赤ちんはさー、峰ちんよりだいぶ起きるのはやいよね」
「そんなの当たり前だろう。きっと僕はテツヤよりもはやいよ」
「そっかー」

紫原は鞄に手をいれてチョコレートを探しながら、ごそごそと気を紛らわすようにした。ならよかった、とは言えなかった。こうなってしまえばもう、その綺麗な赤色の中に透き通った水色が溶け込んでいくのを、こうして今日も黙って見ているしかできないのだ。

「あ、」
「…敦?先に行くぞ」

鞄の縁からこぼれ落ちたチョコレートはぱきりと砕けて、運命は待ってくれないなぁと紫原は思う。

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