緑間は基本的に、高尾のことをうるさくてお調子者でその場しのぎのうまい交わしかたを身につけて笑うような、自分にはないものを軽々と身に纏っている男だと思っていた。しかしそれと同時に世話焼きで、信念のような何かを確かに持っていて、バスケのプレイ中は驚くほど頼れると、とても本人には言えないような印象も持ち併せていた。実際に高尾は、緑間をからかい笑うことはあっても、緑間のプライドやら、曲がらない確かな考えを折って踏みにじったり、馬鹿にすることは一度もなかった。だから高尾が「なあ真ちゃん聞いて」とけらけら笑っても、それは自分にとっては本当に害の及ぶものではないとわかっていたし、だからこそ緑間は、高尾のすること成すことに恐れや不安などは一切感じていなかったのだ。

「なあ…緑間、終わりにしよっか、全部」

だから、突拍子もなく珍しく「緑間」と呼ばれた時、なんとなく全神経を向けて身構えてしまった。しかし高尾の表情からして、それは間違ってはいないようだった。高尾の放った言葉のひとつひとつに、緑間は珍しくついていけずにじんわりと焦っている。そもそも何を終わらせるつもりなのだろう。だけど緑間がそれを問うことはない。有無を言わさないような高尾のその目に、完全に緑間は圧倒されていた。

「動かないで、そこにいて」
「…たかお、」
「なあ、あのさぁ」

変わらない威圧的な声のまま、高尾は緑間の襟元をつかんでぐい、と引き寄せる。思えば緑間はどこか見透かしているような高尾の目がなぜか苦手だと感じたことがあった。まるでずっとずっと、その先を見つめているようだと、半径何センチかの世界でなんとも暢気にそう思う。

「キスして、緑間」
「…な、おい、高尾…?」
「できねーんなら、いい。俺はもう、おまえとのこの距離を終わらせたいだけ」

なんとここまで理不尽なセリフが言えるものだと、緑間は息を飲んだ。この違和感に冷静さを取り戻しつつあるが、それでも至って高尾は真面目な顔を崩さないので、ああこれはどうするべきかと緑間は必死に考えて考えて、それから静かに息を吐いた。

「…わかった」

緑間にとって、それは賭けだった。高尾の言動ひとつを取ってみても、今までそれに対して緑間が肯定することは無いに等しかったからだ。さて、どう出るだろうと思いながら、じりじりとふたたび目線を合わせる。高尾が肯定されてどんな顔をするのか、緑間にはまったくわからなかった。しかしみるみるうちに高尾は表情が崩れ、しまいには「熱でもあんの?」と心配を浮かべるのだから、緑間はそのおかしさに言葉をなくしてしまった。

「おい、高尾…そこに座れ」
「え、おいおい大丈夫?なんでいきなりお父さんみたいなんだよ」
「おまえこそ…いきなりなんなのだよ!まったく呆れる!」
「真ちゃん、静かにして」

しい、と唇に指を当てて、けらけらとさっきまでの雰囲気をぶつりと切るように高尾は笑う。怒るなよ、と高尾は緑間の前に立って、それからへらりと頬をゆるめたまま首をすこしかしげた。まったくこういう仕草が似合うのはどうかと、緑間は一気に保護者のような気分になってしまった。

「真ちゃんてさあ、大事なことなーんも言ってくんないじゃん?」
「なんのことなのだよ」
「そりゃ、確かにいまの関係でとどまるつもりなんてなかったけどね。なんせガードかったいからさー」
「…おい高尾、日本語を話せ」
「ん?真ちゃんて俺のことすきだよなーってはなし。でもまさかあそこでうんって言うなんてなぁ。さすがエース様は予想の斜め上を行くねえ」
「…ちょっと待て、高尾。すまないがもう一度説明してくれるか…?」
「わー待って!怒んなよ?ほら、ちゅーしてくれるんだろ?」

いかにもいたずらが好きなこどもの顔で、高尾はにやにやと笑っている。緑間が無言でくい、と眼鏡を押し上げたのと同時に「俺さぁ、はっきりしないのってあんまり好きじゃないんだよね。もちろん真ちゃんは知ってるよな?」と含み笑いで言ったものだから、緑間はああくそ、と顔を歪めた。その見透かしたような目に自分がしっかりと映りこんでいる。まんまと騙されたのだと理解するのに時間はかからなかった。

130108

「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -