カランコロンと口の中で2回転がした時に、緑間が不思議そうに見つめてきたので間髪入れずにいちご、って教えてあげた。なあ、だいぶ分かるようになったんじゃないの俺、真ちゃんのこと。にこにこしながら、目で訴えようとして逸らさずにいたけれど無理だった。たぶん癖なんだろう、きっちりと正座してるの。こたつに入っていても姿勢が綺麗なのが面白くてちょっと笑う。カランコロンが何度目かわからなくなった頃には眠くなってしまったので、俺はこたつにもぐるようにして小さくなってきた飴をガリ、と噛んだ。さよなら、飴をくれた女の子。

「あーなくなった、飴」
「だから何なのだよ」
「今チューしたら甘いぜ」
「くだらん事を言うな気色悪い」
「あはは、真ちゃん甘いの嫌いだもんな。変なの」
「変?お前に言われたくないのだよ」
「だってさー甘いの嫌いとか言うくせにおしるこは好きなんだろ?変じゃん」
「…ふん」

どうでも良いことはどうでも良いっていうあしらい方をしてくる緑間が単純で好きだ。今だってまるで何事もなかったかのように、もしくはそっぽを向くようにテーブルの上のみかんをむしむしと剥き始めた。この光景を見るのは何度目だろうか。冬が来たなぁと思う。神経質な緑間とは正反対に、俺は寝転んだままテーブルに手を伸ばしてみかんを取ろうとしたけれど無理だったので早々に諦めた。

「しーんちゃん、みかん俺にもちょーだい」
「自分で剥け」
「けち!こういうのは人から貰った方がうめーのよ」
「意味がわからん」
「な!良いだろ、一個だけ」

ちょっと冷やかな目が俺を見下す。そうそう、真ちゃん呆れたら左の眉が少し下がるの、わかりやすいから気をつけた方がいいよ。忠告しようと思ったけど、きっと俺だけ知っていれば良いからそのまま催促するように口をあけた。緑間が左の眉を下げながら、さらに舌打ちをしそうな顔をしてそのひとつを口に放るようにした。

「んあ、ちょっと酸っぱかった」
「俺はそっちの方が好きなのだよ」

左手から落とされたみかんを咀嚼すれば、少しだけ甘ったるく残っていたいちごの味はすぐになくなった。緑間は無愛想をそのままにしてちいさく割ったみかんのふたつ目を口に入れた。甘いものが嫌いなのも意外だったけれど、酸っぱいものがわりと好きそうなのも意外だ。顔に出ないから分からないけれど。

「真ちゃんもう一個」
「俺の分が無くなるのだよ。起き上がって自分でやれ」
「えーじゃあ起こして」
「いい加減ふざけるのをやめろ」

手を伸ばしてみても起きあがらせてはくれなくて、仕方なく俺は空気ばかり掴んでいる。相変わらず冷たいなぁって笑いながら、自力で起き上がってそのまま何事もなかったようにキスをした。本当に、何事もなかったように。真ちゃんっていつもこんな感じなんだよって言いたかったけど見事にそのまま固まっているのでやめた。今日のキスはすこしだけ酸っぱい。

「真ちゃん、甘いの嫌いだから」
「…な、」
「酸っぱいのが好きなんだろ?」

わざとらしく笑いながら俺は緑間の、みっつ目のみかんを口に入れる。この調子でいけば全部奪えそうだけど、それじゃあかわいそうだから新しいみかんを手にとった。あ、これも言ってないけど、恥ずかしいと耳が赤くなるのもわかりやすいから気をつけた方が良いよ、なんてな。

131201

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