宮地がカーテンを開けて、真っ暗な中に吸われていくようにベランダに出ていくのを、高尾はただ見ている。白煙がぶわりと上に消えるだけのその繰り返しを目で追いながら、宮地さんみたい、と呟いたら意外にも聞こえていたらしかった。煙草の煙を燻らせた宮地が振り向いて窓を開ければ、隙間からぬるい風が入ってくる。どんなアングルでも絵になるような人だ、と思ったらなんだかこっちが恥ずかしくなってしまって、高尾は目をそらした。

「なーに。意味わかんねぇんだけど」
「いやあ、ほらなんか、なんとなーく」
「煙みたいに儚そうな宮地サン、てか?」
「うーん、しつこそうな感じが。わりと匂い残るし」
「はは、テメェ轢くぞ」
「あは、こわいこわい宮地サン」

冗談混じりでこうして笑っていられるなんて、高校の時から考えたら随分変わったもんだと高尾は思った。煙草を持った、指先まで綺麗なそれを見ながら静かに近づいて開け放したままのベランダに出ると、外は思っていたより寒かった。もう秋だなぁ、と鼻から息を吸い込めば、タイミングを見計らったように宮地が煙を吐き出したものだから、高尾は噎せた後におもいっきり嫌な顔をしてやった。

「うっわ、もーあんた最悪!」
「おら、一本どーよ」
「んー、今はそんな気分じゃないです」
「そ。吸わねえよな、意外と」
「宮地さんが吸いすぎなんでしょ、ヘビースモーカーじゃん。高校の時はそんなじゃなかったのに」
「あー…緑間は吸うっけ?」
「真ちゃんは吸わないっすよ。ま、吸うとしたらアークロイヤルくらいが良いなぁ」
「それお前の願望じゃん」
「それ言うなら宮地さんも普通のやつ吸ってると思ってた」
「お前は意外にマルボロな」
「宮地さんはメンソールですね、可愛いなぁ」
「あ?ったくさっきから…減らねえ口閉じてやろうか」

ふたりで夕食を食べた後に、ゆるゆるとぬるい風に撫でられながらこうしてベランダに出るのがなんだか習慣みたいになってしまっている。気を抜けば同棲しているのかと思うくらいには、高尾は宮地と一緒にいることが多くなった。大学生になって、一人暮らしを始めて、バスケは辞めてしまって、煙草を吸うようになった。変わったことはたくさんあるのだけれど、隣に宮地がいて、大学に行けば緑間もいる。

「あーなんか、幸せ」
「なに、気持ちわりい」
「なんすか、メンソールのくせに」
「高尾クンは随分口が達者になりやがりましたね?」
「あは。ね、煙草やめてくださいよ」
「…おー、気が向いたらな」
「口寂しいんでしょ。ママのおっぱいが恋しい!って名残らしいですよ」
「それ言うならお前もだろ」
「うは、寂しくないの真ちゃんだけっすね」

別に依存しているわけじゃないけれど、きっとこういう時間がなくなってしまえば寂しいのだということは、高尾でも十分にわかっている。寂しいのはお互い様かぁ、と笑いながら高尾は宮地の持つケースから一本だけくすねて、口元から火を貰う。ちりちりとオレンジが灯る。

「貰っちゃった。成功」
「言えば普通にやるっての」
「ああうん、メンソールだ、宮地さんの」
「なに」
「キスの味する、これ」

なんつって、と高尾が笑う前に珍しく締まりのない表情で宮地が驚いているものだから、それを飲み込んでくつくつと笑った。白煙がゆるりと立ち込めて消えていく。

「ね、宮地さん、次会うまで新しいの買っちゃだめですよ。約束」

別に依存しているわけじゃないけれど、でもまだ離したくはないから、寂しがりなヘビースモーカーがすぐに会いに来るように口約束をとりつけた。

130923

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