ぼたぼたと落ちてくるそれを拭いながら、ついさっき雨に打たれたことを思い出す。ドリブルをひとつしながら、梅雨なんて湿っぽいだけだから好きになれないと言った高尾に緑間は、もうすぐ夏が来るな、と会話の糸を繋げる気もない返答ばかりをした。それはいつものことだけれど、高尾も今回ばかりはそうだな、と紙切れを小さく丸めたような閉じた返事を返す。緑間はもちろんそれを拾ってなどくれなくて、その代わり綺麗に綺麗に、そして高くボールを放った。なんだかやるせなくて体育館の鉄扉に座り込めば、横降りの雨がすこしずつ高尾を濡らしていく。そのまま、飽きることなくボールを持つ少し離れた緑間に高尾は声を上げた。

「そういえばさ、真ちゃんさぁ」
「…………」
「二組の女子と」
「…………」
「あれ、聞こえてねぇ?」
「…………」
「おーい」
「…………」
「…噂になってますよー緑間くん」
「くだらんな」
「…うっわ、聞こえてんのかよ」
「たまたまだ」

ちょうど、緑間の五本目のシュートが決まったところで何事もないように返事をされたものだから、高尾は思いっきり眉間にシワを寄せた。けれど、それは本当にわざとではないのかもしれなくて、上手く出来ているなぁと思う。いつもうまいところだけを拾うようにして緑間は立っているので、どうせこの噂とやらも、既に耳に入っているのだろう。けれどこうして高尾がひとつひとつを口に出さなければ、緑間の気持ちはなにひとつ分からないままだった。変なところだけわかりやすいのに、知りたいことはなにひとつ教えてくれなくて、なかなかどうして理解するのが難しい。

「…んで?真ちゃん何したの」
「そんなの知るか、別になにも」
「どうせ、傘半分こしたとか」
「………」
「そんなんだろうけど…」

緑間の指先からループが描かれるのを見ながら、図星だなと高尾は苦笑した。なんともまあ、知らないところで優しいのだから、緑間がいわゆる相合い傘なんてものをしていた噂なんてすぐに広まるはずだ。冷えていく汗が高尾をどこか冷静にしていく。あいにく高尾は緑間と相合い傘なんてしたことがないので、いくら考えたところで女の子の気持ちなんてわかったものではない。そう思えば早くて、高尾はすぐに考えることをやめた。

「なぁ、もう帰ろうぜ、雨だし」
「あと十本で終わる」
「俺が待つとでも思ってんの」
「ああ、そうだな」
「…聞いてねぇだろ真ちゃん」

それなりに常に一緒にいると言っても過言ではなくなってきたので、そういう、緑間の意外と面倒くさがりなところも知っている。高尾の声を掻き消すように放課後のチャイムが響いたので、思わず面倒くさいなぁと呟いたけれど、きっと聞こえていない。

「おら、真ちゃん、あと三本」
「…そういえば、実は今日、傘を宮地さんに貸してしまったのだよ」
「知らねえよ、傘一本しかないし」
「別に入れて欲しいとは言ってない」
「ツンデレかっての」
「黙れ」
「自業自得だろ」
「仕方ないのだよ、断れなかった」
「…そうだな。なぁ緑間」
「なんだ」
「嘘つくの、下手」

自然に出てきた言葉と一緒に、宮地の持っていた傘を思い出しながら、高尾は静かに笑った。きっと今日の朝、傘をさしている宮地を見なければ知らないで済むことだったのに、なんて運が悪いのだろうか。

「なんの話だ」

それでも何も知らないような顔をして、緑間は再びシュートを一本ずつ、丁寧に打っていく。きっとそのうち、もうすぐ知りたくないことが明らかになってしまう。今日ばかりは絶対に傘を半分ずつになんかしてやるものかと、高尾は唇を噛んだ。なんだかもう本当に走って逃げたくなってしまって、俯いたまま一度だけ息を吸い込んだ。雨の匂いがゆるゆると肺を回っていく。なぁ緑間、だから梅雨は好きじゃない。

「な、真ちゃん、お前のこと嫌いだわ」
「………」
「聞こえてんだろ、なぁ、」
「………」
「置いてくなよ、…好きなのに」

雨が強くなっていく。音もなく、緑間の十本目のシュートが決まった時、少しだけ震えた睫毛はどちらのものだったろうか。


どうしても分かりあえない  /130628

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