これの続きっぽいもの


それに気づいてもらえたのは小学生の頃だったらしい。何気なく両親に「見えなかった」と溢したのがきっかけだったと。傷だらけでそう言ったのだと。妹は高尾の姿を見て泣くし、自転車は後ろがへこんで耳障りな音を鳴らしていた。妹を宥めて手を握ったまま、ごめんなさいと謝ったそうだ。ただ転んだのだと、そう言って。その時、高尾が泣いていたのかはわからない。
小学3年生の時のことらしい。近所の公園で遅くまで遊んでいたのがいけなかったと高尾は言うけれど、そういう問題じゃないのに、と緑間は思った。いつもは人をからかっていろんなことを擦り付けて笑うくせに、こういうときにはしっかりと自分のせいにして苦く笑う。緑間が嫌いな高尾の性分だった。それは、仕方ないのかもしれないけれど。

「自転車のライトついてたくせに、前に人がいるの、気づかなくて。前から自転車ごと手でとめられて、河原沿いに転がったわけよ。んで、まあ襲われたっつーか。小学生ながらに冷静になって、実際どうやって逃げたか覚えてねーんだよ。必死だったし」

自転車も曲がって変な音してんの家に帰るまで気づかなかったし、いろんなとこ擦りむいてんのもわかんなかった。人間って本当に身の危険察したら感覚鈍くなんの?
へらへら笑う高尾はいつも通りだ。さすがに時間が経っているからなのか、たぶん強がっているのだろうけれど。

「それが、夜盲症の発見でした」
「…そうか」
「他に質問は?」
「もういい」

ばたばたと雨が打つ透明な傘の中で、いつもよりも近づいてゆっくりと足取りを揃えて、緑間は高尾の話を聞く。どんな顔をしていたのかは、見なくてもなんとなくわかっていた。聞きたいことだって本当になくて、高尾が昔を思い出すことも、それが暗闇が怖くなったきっかけかと確認することも、緑間には必要なくてもうこれだけでよかった。だからそう言った。

「真ちゃん、そう言うと思った」
「なんの話だ」
「たまーに優しいって話」

なんだか特徴的な笑いかたが、緑間の耳に届いて静かにくすぐった。緑間を見上げる高尾は、もういつものようになにか面白そうな顔をしている。傘がないのも悪くないね、と笑う高尾に、緑間は何も返さなかった。

「暗くても、真ちゃんが俺の目になってくれるから大丈夫だって、最近は思ってるぜ」

頼むよエース様、とからかうようにそう言う高尾に、それでも緑間は何も返さなかった。ただ、馬鹿だなと思う。そんなのは言われなくても分かっていることなのに。

130324

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