『なあ、真ちゃん知ってる?』


例えば中学の頃から、クラスメイトがざわざわと騒がしいと俺はいつものように遠くから見ているだけで、なぁ高尾はどう思う、だなんて名前を呼ばれた時には適当に笑って相づちを打てば、あっという間にどっちつかずの中間にいる人間になれた。だいたいどっちの味方、だなんてレッテルを貼られたところで集団の中での範囲は一気に狭くなるだけで、なんて息苦しい。俺はお前らの味方だよなんて肩を組んで笑って救ってやれるほど、俺は優しくなかったし周りの人間に興味はなかった。思えば、うまくやろうと考え始めたのは、部活の先輩達と一緒に過ごしていかなければならないあの時からだったような気がする。人間の面倒な部分に触れることなくするすると抜けていけばあっという間に、誰とでも仲良くなれる、お人好し、友達多いの三拍子の出来上がりだった。自分を中心に置くことはなんて簡単なんだろうと、すり抜けて笑いながらそう思っていた。
だから緑間みたいな奴は、そうやってうまいことすり抜けて生きている俺とは正反対だった。きっと緑間だってそう思っていたはずだ。あんなに周りと溶け込まずに、いつまでも自分の中の何かを誇るように綺麗に浮いているやつは初めてだった。中学の頃から忘れられなかった憎いライバルだったはずなのに、望まない偶然で再会を果たしてみればその生き方になんだか無性に近づきたくなった、とか、声をかけるようになったのはたぶんそんな理由だった。

「聞いているのか、高尾」
「え、うん聞いてるって。けどさぁ人間ってそんなもんじゃねーの?」
「…俺は時々お前がわからないのだよ。そんな答えを求めているのではない」
「なーにそれ。わからなくて結構。だいたい俺だって真ちゃんのことわかんねーもん」

だけど近づいていくほど、やっぱり自分以外の人間ってどうでもよくなって、たまに俺に向けられるその言葉にはいつもそう返して笑った。分かって欲しいだなんて無理強いしてるわけじゃなかったからだ。だってそうだろ?お前だって自分のことあんま話さないし分かってもらおうとしてねーじゃん緑間、なんてことはもちろん言わなかった。これは口にしちゃだめだと、今までのように越えちゃいけない線はきっちりと守って生きるようにしていたから。でもそれは、たぶん緑間だって。

「たまにお前は、別人かと思うほど冷たい顔をするのだな」

緑間だって、そうやって生きている。はずだと思っていたのに、そんな顔するなんて思わなかった。予想外だった。なあ、緑間。

「真ちゃん、どうしたの」
「…別に、なんでもないが」
「変なやつだね、お前」
「お前にだけは言われたくないのだよ」

どうでもいいはずなのに、俺はその時初めてなんとも言えない感情に襲われた気がした。だいたい何だよその言い方。俺の何を知ってんだって、馬鹿じゃねぇのって、そう思った。はずだったのに。

「…真ちゃんめんどくせぇ」
「人間は面倒くさい生き物なのだよ」
「そーかよ」
「お前が一番知ってるんじゃないのか」
「…ぶは、なんだかんだ真ちゃん、俺のこと分かってんじゃん」
「思ってないくせによく言うな」
「…思ってるよ、そう思った」


『ああ、緑間の中で俺って、どうしたって絶対にひとつなんだなって思って、真ちゃんとずっと一緒にいようと決めた日、のこと』

130305

高尾ちゃんて二面性あるよねって話がしたかったのになあ、って思ってる
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