※紫→氷



「なにそれもういいし。知らない」

なんだか今までに聞いたことのないようなその口ぶりに、黒子は思わずまばたきを繰り返した。それに気づくことなく紫原は電話を切って、ふん、なんて鼻を鳴らしてから黒子と同じバニラシェイクをずるずると飲み干すようにすする。こどものような飲み方が妙に紫原らしかった。黒子の手の中にはいまだ半分以上残っているそれが、紫原にかかるとあっという間になくなってしまうのでおもしろい。

「紫原君?どうしました」
「せっかく合流するって言ったのに、ストバスの知り合いに捕まったって」
「…氷室さんですか」
「うん、ほんと最悪」

先に紫原から名前がでていたわけではないのに、すぐにその相手が誰なのかわかってしまったのは、紫原の喋り方にあった。どちらかといえば黒子の中で、紫原は赤司といるというイメージがわりと強いのだがそれはやはり中学の頃の話であったし、紫原が先程のような、率直に言うなればすこし突き放したようなその喋り方を赤司にしているところなんて、まるで見たことがなかったからだ。

「…紫原君は、」
「なにー?」

首を傾げながらすこしだけもぞりと動くようにする。紫原にとっては、黒子が行きつけになっているここだってただの狭苦しいスペースに過ぎないのかもしれないけれど、相変わらずに語尾を伸ばしてすこしだけへらりと笑った。それを見て、よく笑うようになったなぁなんて、なんとも他人事のように黒子は思う。

「ああ、…なんでもないです」
「はー、やっぱ、黒ちんへんなの」

だからといって、氷室と赤司を比べてしまうのはどうも違うなと思い、黒子は言葉を濁した。黒子が先程の紫原の口ぶりに驚いたように、紫原の中でふたりに対するものはきっと違うのだ。たぶんそれは、黒子も同じだった。

「あ、黒ちん」
「なんですか」
「今、峰ちんのこと考えてるでしょ」

それに思わずはっとして黒子が目線をあげれば、紫原はいつものようになんとも興味のなさそうな目をしていたけれど、それすらどこか優しい気がしてくるからどうにもおかしい。紫原はたまに、誰にも気づかれないような黒子の表情をここぞとばかりに読み取ってくることがあって、相変わらずだなぁと黒子はいつもの変わらないはずの表情で、そう思う。

「…なんですか、急に」
「なんとなく、そんな感じがしただけ」
「なんだか昔も同じようなことを言われたような気がします」
「相変わらずだねぇ、黒ちん」
「紫原君もですね」
「んー、そうかもしんない」

黒子がやっとシェイクのカップを空っぽにさせたころ、紫原はまたなにかを読み取るようにそう言った。てっきりいつものように「そんなの自分じゃわからない」だとか、そういうことを言うと思っていたのでおかしいなぁと黒子は思う。なんだか急に、紫原の内側を知りたくなったような気がした。

「だけど紫原君は、今の方がなんだか楽しそうに見えます」
「そう?まー、でも俺は黒ちんみたいに一途じゃないよ」
「どういう意味ですか」
「そういう意味」
「氷室さん、まだですかね」
「相変わらず、峰ちんも黒ちんのこと好きだよね」
「はあ。それはわかりませんが、いろいろ知ってますね、君は」
「びっくりしてる?」
「してません」

本当にびっくりはしなかったけれど、黒子はなんだか悔しいような気分になった。それと同時に、紫原の大半を占めているのはもう赤司ではないのかと、安心したようなそうでないような気持ちになってしまって忙しい。落ち着こうとしていれば、それを増すように紫原の携帯が光った。

「紫原君、電話ですか」
「ううんメール。あ、室ちんだ」
「紫原君も、氷室さんのことが好きなんですね」
「…黒ちんの嘘言わないとこ、俺は好きだよ」

思い切るようにそう言ってみれば、思っていたのによりも紫原がこどものように笑うので、ああこんな笑い方もするようになったのだと黒子は思った。

「やっと終わったって。おそいし」
「良かったですね」
「…もちろん、赤ちんだって知らないからね」
「知ってたら逆にこわいですよ」
「…好きすぎてめんどくさい。なんか黒ちんの気持ちがわかったっていうか」
「…紫原君にそう言われると、なんか違うような気がしてきます」

ため息をつくようにもう一度めんどくさいなぁと紫原は呟いて、だけれどそれを大切にすることに関しては、紫原の性格にぴったりなのかもしれなかった。

130302

女子トークするふたりが書きたかった
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -