※なんか悲しい



寒い寒い、と呟きながら両手で紙のカップを持っている高尾はいつも通りに寒がりだ。有名なロゴが入ったその紙カップの中身は、今日も高尾の好きなキャラメル・ラテだった。確か一昨日も飲んでいたよなぁなんて思いながら、緑間にとっては久々の、おそろいの紙カップに口をつけてほろ苦いカフェオレをすこし飲む。ほろ苦いというのは一度だけ高尾と交換して飲んだ時に高尾がそう言ったもので、別に緑間にとっては普通なのだけれど、その日からお互いに交換することはなくなった。高尾とは味の好みがあまり合わなかったなぁとしみじみ思う。そういえばあれもこれも、とするする頭に浮かんでくるくらいには一緒にいたのだと実感して、なんだかよくわからない気分になった。だから緑間は夜道に沈んだ足下に目を落としてみたけれど、特に視界は変わらなくてやっぱりなんとも言えない。

「うぇー…あっつー…」
「まったく…高尾も懲りないな、またか」
「だってさ、真ちゃんが普通に飲んだからいけるかなーって」
「ばかめ。いつもそうやって火傷するだろう、猫舌のくせに」
「いってー…いたいよー真ちゃんー」
「俺は何もできん」

猫舌な高尾が今日だって緑間の真似をして舌を火傷したものだから、緑間は何度目かわからないようなため息をついた。それからなにか言い表せないような気持ちが込み上げてきたものだから、静かにごまかすように笑う。しかしすぐに、ああ、らしくないと思って、現に高尾がなんだか複雑な表情を浮かべたのだからしまったなぁと舌打ちしたくなってしまった。しかし後悔したところでもう、どうにもならない。


もうこんな時間かぁ、と呟いた高尾のスマートフォンは、すでに22時を表示していて、緑間はそうだな、と言うしかない。それから高尾が、はぁ、と短く息を吐いてそれが白く消えたのが合図だった。お互いに方向を変えてから、なにも言わずに同じ方向へと歩き出す。それすらいつもと何も変わらなくて、慣れるというのも嫌なものだと、緑間は初めてそう思った。

「真ちゃん、なんか喋ってよ」
「…ああ、そうだな」
「ふっ、ははっ、何それ!」
「お前こそ、いつものようにくだらん話を並べたらどうなのだよ」
「へ?ひでーの!真ちゃん俺の話そんな風に思ってたのかよ」
「知らなかったのか」
「んー知ってた、かも」

しばらくしてそう言ったと思えば、口をとがらせて本当に拗ねる表情をするのだから、緑間はもうどうしようもなくなって思わず高尾をゆっくりと抱きしめて笑った。そうすれば真ちゃんくすぐってぇよ、と高尾も笑う。抱きしめた時にちょうど高尾の耳に息がかかってしまうので、高尾はいつだってそう言ったものだ。いつの間にかもう、ふたりが別れるいつもの分かれ道まで来ていた。

「真ちゃん、なぁ、」
「なんだ」
「いい、離さないでいいから、そのまま聞いてよ」
「…ああ、」

深々と寒さが染みるような夜だけれど、冷たいのは指先だけだった。ぎゅう、と緑間の服に埋もれるようにして高尾はそう言ったけれど、緑間には高尾のひとことずつがしっかりと聞こえたので、なにも言わずにそのままにする。高尾の息がじわりと服越しに染みて、そこだけは妙に熱い。まばたきの音さえ聞こえてきそうな夜に、なんだからしくないけれど、ふたりだけだとそう思った。

「真ちゃん」
「なんだ」
「…真ちゃん、むかつく」
「なにを言ってるのかわからないな」
「カフェオレ苦いし背高いし大人ぶってんじゃねーよ、緑間…」
「相変わらずムードがないのだよ、お前は」
「ん、ふふ、うっさい…よ、」
「…高尾」
「もう、ほんと、真ちゃんさ…すきだわ、っ」
「…たかお、」
「なんかもっと、言いたいことあったはずなのに、っ…いつも、通りすぎて、あぁ慣れってこぇえなって…さっき、そう思った」
「…ああ、俺もだ」
「…っも、う、真ちゃん、しんちゃ…っぁ、あ、おれ、なっさけな…ふぅ、っはは、」
「たか、お」
「……っ、うん、」
「…おまえが、大切だった、お前の話に付き合うのも、悪くなかった、な、」
「っふ、知ってる…って、」
「…ああ、そうだな…」

とうとう込み上げてくるものが溢れてこぼれていく。さみしいだなんて、いとも簡単に広がっていく。なにもかもが本当で、じわりと服に滲んでいくそれも、すべてが温かい。

「さよ、なら」

聞きたくなかった言葉をなくすように、苦しいかもしれなかったけれど、力いっぱいに抱きしめなおす。もうそれだけでよかった。なんだかすべてが埋まっていくようだった。今度こそ、本当に世界にふたりだけだと、そう思った。

「…さよなら」

明日にはもう、隣にはいないと言い聞かせるように口にする。それが最後だった。

130228

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