緑間があまりにも遠くを遠くを見ていて、それに向かって迷うことなく進んでいくものだから、高尾はいつか追い付けなくなってしまうのではないかとなんとなくそう思っていた。しかしこうして一緒にいることで、幸い高尾は人を観察するのが得意だったので、緑間の表情や言動から、緑間が怠ることない努力の裏側には少なからず劣等感があり、それが原動力になっているのではないかとふと気がついた。根本的に考えれば緑間の今までの身近なライバルは、いつか高尾のはるか遠くを走っているようにみえたあのキセキの世代だったのだ。完璧に近づこうとする緑間のことなので、そう考えればなんだか緑間が占いとスリーポイントと勝利にこだわり続けている理由が見えてきたような気がして、高尾はなんだかすこしほっとした。

「ほんと真ちゃんて、なんか…」

こうなれば何故高尾の思考がここにたどり着いたのか、思い出すのも面倒くさい。いつものように、ふたりだけの体育館でただひたすらにシュートを打ち込む姿をぼうっと見ながら高尾はそんなことを考えていて、キュッと目が覚めるようなシューズ音にはっとしてみれば、怪訝そうな顔をした緑間がこっちを向いていた。

「…俺がなんなのだよ。お前はいつも主語が足りないと言っているだろう」
「あ、ごめん口に出てた?」
「はっきりな。まったく気色悪い、まぁいつものことだが」
「うっわーなんてひどい言い様なの。真ちゃんよりマシだわ」
「なにを言っているのだよ、俺の方が常識に長けているに決まっている」
「なーに言ってんだか」
「正論なのだよ」
「うん、俺の方がバスケ上手いし背も高いし頭も良いのだよ、って?」
「な、別にそんなことは言ってないだろう」
「でも真ちゃんおは朝信者だし、たまにずれてるし、俺の方が足速いし、あ、もしかしたら俺の方が力強いかもしんねーよ?」

なんつって。緑間が俺に劣等感なんか抱くわけがないか、と笑おうとして顔を上げれば、目の前に緑間の顔があったものだから高尾は瞬時に息を飲んだ。それから腕を掴まれてぐい、と押し倒されれば早くももう高尾のなす術はなくなってしまって思わず苦笑する。ベニヤ板だから背中が痛いとか、エース様は意外と単純だよなとか、緑間の指は意外にもごつごつしているなとか、悔しいけれどやっぱり力では敵わないのかとか、そんなことばかり思っていれば緑間が「だいたい高尾は細すぎるのだよ」だなんて、珍しくなんとも言えない笑いかたをしたので一気に恥ずかしい。

「いや、あの真ちゃ、」
「…高尾、お前を押し倒すのなんか簡単なのだよ。あまり俺を見くびるな」
「…見くびってねぇよ。俺さぁ、真ちゃんのそういうとこすき」
「…本当にお前は意味がわからん、」
「実はちょっと劣等感あるとことか、すき」

はぁ、と呆気にとられたように緑間が力を抜いたものだから、このまま沈んでしまえばいいのにと思ったけれど、苦しいのは自分だとわかっているのでおとなしくそのまま何もしないでおくことにする。なんだか距離がくすぐったくて笑ってしまいそうだった。その証拠に、だいたい高尾を黙らせようとこの体勢に持ち込んだのはいいけれど、これほど距離が近いなんてきっと緑間は思っていなかったはずだ。

「ふ、はは、真ちゃん、耳あかい」
「うるさいのだよ、黙れ」
「は、緑間のえっちー」

長い時間を一緒に過ごしているなんて言えないのかもしれないけれど、緑間とはこうしてなんだかお互いの劣等感を擦り付けるように生きても許されるような気がしている。緑間が自分と同じ不完全な人間だと実感するこの時が、高尾はひどく幸せだと思えるようになっていた。高尾と緑間にとって、もうすぐ2回目の春が来ようとしている。

130226

きっとこのふたりはこうしてお互いの成長の糧になっていくんだろうなぁと思ってる。
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テーマ「人外ファンタジー」
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