なに元気なくしちゃってんの、と笑う高尾の指先がするりと鼻をかすめる。それはなんだか子どもをあやす母親のようなそれだと緑間は思った。真ちゃん寒いだろ?冷えてんじゃん。そうしていとも簡単にぎゅうぎゅうと手を握ってくるのだから、緑間はいつも戸惑ってしまう。高尾はさらさらと流れるように生きていた。緑間にとって、高尾のすることは優しさに満ちていると思えば、まとわりつくような面倒くさい人間関係や世間のことに対してはうまく聞き流して、むしろ一線おいて周りから面白そうに眺めているように見えた。けれどそうだと思えば、いとも簡単に心に入り込んでその隙間を埋めたりもした。現にこうして手を握られたことで、緑間は不思議な安心感に包まれる。なんとも理解の難しい。

「別に、何もないのだよ」
「そ?ていうか待ってくれてたの?今日部活ないじゃん」
「別に待っていたわけじゃない。雨なのに傘を持っていないのだよ」
「あらら偶然!俺もなの。じゃあお言葉に甘えて真ちゃんの傘で帰ろっか、ありがと」

こういうとき、高尾には緑間のそういう、繋ぎあわせて作ったような嘘がきかない。ちぐはぐのまま高尾に届いて、そして高尾はいつも、それを優しさと賢さと狡さでひとつの言葉にして緑間に返した。いつ緑間が傘を持っていたのを見たのかと言われれば、高尾はたぶん見ていないと平然と答えるのだろう。それほどに高尾は、緑間を、静かに理解していた。


「雨さぁ、降るの知らなかったわ」
「見ていないのか?天気予報で午後から雨だと言っていたのだよ」
「そーなの?見てねぇわ。まぁ俺は傘なくても帰れるけどなー、真ちゃんがいるから」
「…いつもそうだとは限らんだろう、ばかめ」
「んー?俺にはわかる。真ちゃん昔から世話好きだから」
「昔って…俺とお前が会ったのは今を除いて中学の時に一度きりだろう」
「あれ、そうだっけえ」
「違うのか?」

わかんないけど、なんか生まれ変わる前とか繋がってそうな気がしただけ、と高尾はまた軽く軽くいろんなものをすり抜けるようにして笑う。緑間はどうしたって高尾のようにはなれなくて、けれど本当にそうなら、こうして綺麗に繋ぎ止めておけるかもしれないな、と少しだけ肩を寄せるようにして歩く。

130223

高尾の無言のメッセージ
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -