ちりっとした小さな痛みが走る。すこしだけ髪の毛が引っ掛かったことで、今日もそれは高尾にしめしめと笑わんばかりに存在を知らせた。ずいぶんと馴染んでいるような気がして、ほんの一年前のことなのにとても昔のことに感じる。こんなものひとつでずいぶん女々しくなれるものだと、高尾は苦笑しながら、ひとりぶんの食材を片手に歩く。


「真ちゃん!お揃いでピアスあけようぜ」

その高尾のひとことで左の耳たぶにあけられたちいさなちいさな黒いピアスは、いとも簡単にふたりを細く、しっかりと結んだのだった。その辺のカップルがしてそうだなぁなんて、冗談で言ってみたことを緑間がすんなりと了解したので高尾は少なからず驚いた。だけれどきっと卒業が近くて、お互い違う大学はとっくに決まっていて、だからその時の緑間は受け入れてくれたのだろうと高尾は今でもその考えだけを鮮明に思い出す。確かにあの時同じ気持ちだったことを忘れたくはなくて。

大学の環境に慣れて来た頃、偶然緑間にあったのはその頃だった。緑間に似合わないような、とても自分とでなければ歩かないであろうような街中に、緑間はいた。そして隣には確実に高尾の知らない女の子がいて、ああそうか、とぼんやりと、けれど確実に現実へと引っ張られたような気分がした。連絡を取らなくても繋がっていけるような関係ではなかった。思い返せば、高校の時だってそうだったのかも知れなかった。緑間と自分を完全に繋げていたバスケを取り上げられたら、繋がりがなくなるのは当たり前だったのに。「俺の彼女だ」なんてたどたどしく笑う緑間なんてひどく似合わなくて、真ちゃんさぁ年上好きじゃなかったっけとか、その子は誰なのとか、真ちゃんに似合わず可愛い彼女だねとか、そういうことは一切浮かばずに、高尾はただ緑間の左耳に。

「じゃあ、またね、真ちゃん」

そこに、ピアスがないなぁ、と思っただけだった。ひとつのきらきらした、その言葉にしない約束なんてどんなに儚いか。


がらんとした部屋に足を入れたってそこには自分以外なにもない。いつか、当たり前のように遊びに来てよと笑っていた自分すらなんだか面倒くさかった。緑間がいなくてもちゃんと歩けるし食べれるし息もしている。それでも忘れたくないのは、きっと大切にしたかったからだ。
あっけないなぁと、左の耳たぶにするすると手を伸ばすのに、やはり高尾はその小さなピアスを外せないでいる。

130222

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テーマ「人外ファンタジー」
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