※世話焼き峰シリーズ


「俺は出来ないのだよ」

しまった、と思ったがもう遅い。クラス全員がぴりりとした空気に包まれたのを肌で感じ、緑間は後悔した。とっさに「真太郎はあいつと一緒でたまに言葉が足りないね」と赤司に言われたのを思い出す。底知れないなにかがぐるぐると腹の底で笑う。そんなのは、とっくの昔にわかっているのに。
どうすればいいのかと悩んでみても、今は何を言おうとただの言い訳にすぎないことは分かる。だから緑間は吐き出そうとした言葉を静かにのみこんだ。今までこういう時に助けてくれた人なんて数知れていて、当たり前にここには居ない。視界には困り果てているクラスメイトと、自分の目の前でいつものように机に伏せて寝ている青峰だけだ。

緑間がこっそりとため息をついたのと同時に、ひときわ大きなあくびをしながら青峰が起き上がった。ぐうっと伸びをしてそれから、青峰は黒板を見つめて首をかしげた。そこには緑間の名前と、それから到底喋ったことなどないであろう女子の名前が書いてあるだけなのだから、当然かもしれない。

「…なぁ、緑間、なにこれ」

予想通りとでもいうか、青峰はぐるりと後ろを向いて緑間に問いかけてくるものだから、緑間は素直に「クラス委員を決めているのだよ」と答えた。

「え?あー、いつのまに」
「お前が寝ている間にな」

いつのまにかクラスメイトは青峰と緑間の会話に耳を傾けている。それに気づいた緑間はすこし気が引ける思いがしたが、青峰はなにも気にすることなくそのまま話を続けるのだから仕方ない。

「んで、お前クラス委員になったの?」
「…見事に当たってな。ちなみに寝ていたお前のくじを引いたら外れだったのだよ」
「ああ、サンキュ。ふーん、クラス委員ねぇ、なにすんだっけ」
「日直のようなものだ。…それから、毎週水曜の放課後に全学年で会議をするのだよ」
「は、会議?水曜の放課後に?それ出るのか?緑間が?」
「…いや、俺は、」
「無理だろ?毎週水曜はお前、赤司とミーティングじゃねーか」
「…あ、ああ、」
「ったく…もしかして断れねーとか?赤司に何言われても知らねーぞ」

とどまることなく青峰が言葉を投げ返すので、断れないのではなくて言い方が悪かっただとか、よくそれを大声で言えるなとか、いつものように反論するタイミングを緑間はなくしてしまった。しかし今日はよく会話が続くなぁと緑間はぼんやりと思う。そういえば青峰はいつもタイミングよく会話を掬ってくれるような気がする。そうしているうちに教室にざわざわと活気が戻れば、さっきの誤解がとけるまでに時間はかからなかった。


「…助かったのだよ、青峰」
「あ?あぁ、緑間さ、たまに言葉足りねーのな。まーいいけど。お前と赤司のミーティングがねーと俺らが困るし」

まさか青峰にまでそれを言われるとは。体育館に通じる階段をリズムよく降りていく青峰の後ろ姿をみながら、緑間はふたたび赤司の言葉を思い出す。真太郎はあいつと一緒でたまに言葉が足りないね。

「…感謝している」
「おー、なんだ珍しいな」

赤司の言った「あいつ」とは誰なのか、緑間はきっと知らないままでいようと、なんとなくそう思っている。

130207

途中から起きてた青峰 どこか似ている
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テーマ「人外ファンタジー」
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