※世話焼き峰シリーズ1


冬なのに、そこは閉めきれば彼らにとっては暑いのだということを、桃井はすっかりと忘れていた。動かずに目を凝らす桃井にとってはひんやりと寒いコートだとしても、彼らはむわむわと渦巻くような熱気のなかで動いているのだ。
しかし何を言われようと、ペンとノートとスコアブックを持ったままそこを動いていない桃井にとっては寒いのだから、コートの中がざわめいて「黒子っち!」「おいテツ!」「おいばか揺らすな!」と、切羽詰まったような声が飛び交ったとき、桃井の心臓はどくどくと波打った。テツ君?まさか怪我?体調不良?ああ、どうしようどうすれば。名前を呼びながらかけ寄れば、青峰に支えられた黒子はたしかにぐったりとしている。

「テツ君!」
「おいテツ!大丈夫か!?」
「うぁ、だいじょうぶ…です、」

黒子がうっすらと目をあける。それから青峰の手を握ってなんとか立ち上がろうとするが、青峰に止められてそのまま支えられた形になった。赤司が黒子に「立ち上がらなくていいよ」と声をかけて、青峰になにかを言ってから外に出ていく。紫原も着いていったのを見ると、すこし離れた医務室に毛布をとりにいったのかもしれない。

「テツ、力抜いとけ。お前を運ぶぐらい余裕だから大丈夫だよ、いいから」

赤司と紫原を見送ったあと、そういって青峰は軽々と黒子を抱き上げてコートの外へと運んだ。緑間が体育館のドアをすこしあけて、青峰はそこに黒子をゆっくりと寝かせる。いくら身体が火照っているからといっても、外気に触れたらこの寒さだ。一気に身体が冷えてしまうのを考慮してか、青峰は珍しく桃井に、椅子にかかった自分のウインドブレーカーを取ってくれと言ってきた。桃井は返事の代わりに走ってそれを取り、そろりと黒子の身体にかける。

「テツ、気持ち悪くねえか?」
「はい…すいません本当に…」
「そっか。ったく…なんか変だと思ったらすぐ言えっていってんだろ?」
「…立ちくらみしたと思ったら、青峰君に、支えられてました」
「っは、なんだよそれ?まぁ頭とかぶつけなくてよかったわ」

青峰はそういって笑いながら、黒子の頬をするりと、まるで腫れ物をさわるかのように静かに撫でる。あちぃな、と呟く青峰は、いままでに見たことのないような顔をしたので、桃井は思わずどきりとしてしまった。
いくら木材だからといって、体育館の床は固いのでしっかりと、青峰は自分の手を黒子の頭に滑り込ませていた。桃井はそれに気づきさらに驚く。もしかしたら自分の知らない青峰の一面が、まだたくさんあるのではないか。

「おい黄瀬、ごめんけど一応赤司に枕も借りてくれって言いに行ってくんねーか」
「わかったっす!」
「んで、緑間は部室行って俺の鞄にあるタオル濡らして来てくれ」
「ああ。薄手のタオルなら俺も持っているのだよ」
「んじゃあそれも。頭と足冷やすからお願いしていいか」
「わかったのだよ」

黄瀬はともかく緑間が青峰の言うことに素早く足を動かすものだから、思わず桃井は感心してしまった。それから、自分だけぼうっと突っ立っているなんてありえないとはっとして、青峰の名前を呼んだ。

「私、顧問の先生呼んでくるね!」
「いやいいよ別に。ちょっとのぼせただけだからすこししたら治ると思うし」
「そっか、えっと…」
「ああ、さつきお前、緑間手伝ってきてくんねぇ?」
「あ、うん!」
「悪ぃな。一応緑間、テーピングで指先保護してっからさ」

ああそうか、と桃井はふたたびはっとして、緑間がいるはずの水道へ向かうためにバケツと、それからテーピングを持って外へ出た。後ろでは「青峰君ってこういうとき、お母さんみたいですね」と黒子がくすぐったそうに笑っている。それに桃井もなぜかくすぐったくなった。今ここで、青峰の知らなかった一面を知ることになるなんて。

130203

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