朝か、といつもならため息をついてしまいたくなるところを、今日だけはぼんやりとした意識で昨日のことを思い出す。確かに残っているのは昨日の余韻で、黒子はなんだかまたくすぐったくなった。自分の誕生日だったこと、黄瀬がその辺の女の子よりかわいいメールをくれたこと、赤司がいつもよりすこし長いメールをくれたこと、緑間が高尾に引っ張られてテレビ電話をしてきたこと、桃井が電話をくれたこと、紫原がケーキの写真を送ってきたこと(黒ちんのこと祝って食べるね、とのメッセージつき)、そしてなにより。

「…そうだ」

枕元がふわふわとした空気に包まれている。目を覚ますためにぱちぱちとまばたいてから、すこしだけ横を向けば、そこには、誠凛のチームメイトが写る写真が貼られメッセージが書かれたコルクボードと、それから未だ目覚めない青峰がそこにいた。あくびをひとつしてから、そろりと、黒子は青峰が起きないように布団をでる。冷蔵庫の中には、火神が手作りしたショートケーキが確かに入っている。
なるべく丁寧にそれを取り出してから、黒子は見事なデコレーションに改めて感心した。なんというか、とてもあの容姿から作られるような繊細さではないのだ。似ているはずの青峰にはないような火神の一面が、そこにはあった。崩さないように丁寧に切り分けていく。すこしもったいない気もしたけれど、さすがにワンホールは食べられそうにないので青峰にもあげようと、ふたりぶんを皿にうつす。それから、お湯を沸かそうと蛇口をひねり、ゆっくりと昨日のことを思い出す。



0時をすこしすぎて着信音が落ち着いたあたりに、ふたたび黒子の携帯が鳴った。それは0時ぴったりに電話を鳴らした桃井ではなくて火神だったのだから黒子は驚いた。それから火神の「すこし遅れちまったけど、おめでとう」の声に、思わず頬がゆるんでしまった。

「ありがとうございます、火神君」
「あー、でさ…なんだその、黒子お前、まだ眠くねぇよな?」
「はい。おかげさまですこし前まで携帯が鳴りっぱなしなのだったので」
「…じゃあさ、寒いけどちょっとだけ、外出てこれねぇ?」

その言葉を聞いて急いで外に出ると、ケーキの箱と、先輩達から預かったコルクボードを持った火神がそこにいて、黒子は唖然とした。火神が恥ずかしそうに下を向いて白い息を吐いたのが印象的で、鼻が赤いのは寒さだけじゃなければかわいいなぁと思わず考えてしまったくらいだ。マフラーに埋もれた火神はなんだか、いつもと違って見えた。

「火神君…来てくれたんですね」
「…これ、渡せって頼まれてさ。先輩達とみんなで作ったやつ…と、あと、」
「…ふふ、ありがとうございます」
「ほんとは、ケーキ崩れないように来たら、ちょっと遅れちまった」
「いいんです、時間なんて。すごく嬉しいです。ありがとうございます、火神君」
「…ん、誕生日おめでとう、黒子」

ぽん、と頭に置かれた火神の手が冷たくて、じんわりと瞼があつくなったことを寒さで冷えきった身体が伝えてくるものだから、黒子はなんだか恥ずかしくなってしまったのだ。


お湯が沸いたので、いつものようにココアでいいかと聞きそうになって、未だにぬくぬくと眠っている青峰を見る。そういえば、と携帯をひらいてみれば火神が帰ったあとしばらくして、青峰からの電話があったことを、着信履歴が物語っていた。火神が帰ってから10分後のことだった。

「あー…テツ、ごめん遅れちまったけど、さ。おめでとうな」
「青峰君、すっかり寝たのかと思ってました…ありがとうございます」
「いや、まあそのさ、…お前まだ寝ないのか?」
「おかげさまで今日はまだ目が冴えてます」
「ははっ、そーか。じゃあ鍵あけてくんねぇか?今、もう家の前なんだけど」

そうこうして火神と同じようなセリフをくれてから青峰が入ってきたものだから、ふたりは本当に似すぎていると黒子は実感したのだった。だけど青峰は、火神と違って黒子の誕生日になにをしようかと思い付かない頭で考えているうちに、いつのまにか寝てしまっていたと言ったのだからおかしかった。そうしてとりあえず家に来るなんて、全部が彼らしい。
昨日はきらきらとしたなにかに満ちあふれていた。こぽこぽとお湯を注ぎながら、幸せだなぁと黒子は思った。

「青峰君、ほら、起きてください」

ふたりぶんのケーキとココアを机に並べてから、黒子は青峰をゆっくりと揺さぶる。やっぱり君と火神君は似てますねと、ケーキを食べながら笑い話をするために。

130201

長い そして学校はどうした
テツ君おめでとうございました!
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