大学生に入ってから数ヶ月がたった今でも、もやもやしたなにかに包まれたように緑間はどこか違和感を感じていた。バスケを辞めたこともあるが、新しい環境に慣れないせいだと思っていたのに、ここにきてどうやら違うと気づく。時間がたてばたつほど違和感は強くなっているのだ。だんだんと、それを消すかのように勉強に打ち込むようになった。

昼になるとたいぶ暖かくなってきたので、最近は、講義が早く終わればどこかのカフェや図書館へと足を運ぶ。今日はどこへ行こうかと考えていれば、不意にレジュメを大講堂へ置いてきてしまったことに気づいた。しかし大学へ戻るにはバスに乗らなければいけないので、時間の無駄になるのは明らかだ。
こうなればおとなしく帰ってしまおうと踵を返した。こういう時にでも、緑間は足音を立てずに歩く。それはいつからか身に付いた自身の性格から来ているもので、例えば中学の時、黄瀬や青峰や紫原のように、足音でわかると言われたことはなかった。それが当たり前だった。だからまさか自分の前を歩く人が立ち止まって、振り返って、緑間、と名前を呼ばれるなんてこれっぽっちも思ってもいなかったのだ。

「やっぱ、真ちゃんだ…」
「…高尾」
「久しぶり!偶然だなー」

一気に懐かしい感情が込み上げてきて、それを抑えるように緑間は眼鏡を軽く触った。しかしそれすら「その癖なおってねーな!照れてんだろ?」と変わらないトーンでからからと笑われたので、やり場がなくてどうにもむず痒い気持ちになる。
どうやら高尾は今でもバスケを続けているらしい。大学が二駅離れているところなのは知っていた。それを聞いて、何も変わらないことに緑間はどこかで安心する。緑間がバスケを辞めたと告げると、高尾はすこしだけ悲しい顔をしたけれど。

「たまにあそこの公園に練習しに来るんだよ。今日もそれ」
「そうなのか」
「真ちゃんとバスケしてぇな」
「そうだな。息抜きにぴったりだ」
「もったいねーよなぁ、まあでも、医学部は勉強が大変か」

足が向くままに歩きながら、今までの時間を埋めるかのように高尾は話をつらつらと並べていく。緑間だってそれが嬉しかった。練習をしに来ているなんて、もしかしたら定期的に会える口実かもしれない。高尾が自分を繋げてくれているものは、今だってやはりバスケだと実感する。

「高尾、靴ひもが取れているぞ」
「あ、ほんとだ。真ちゃん先歩いてて」
「ああ」

さっきとはうって変わって、今日は泊まっていくだろうかと考えながら歩いていると、高尾が後ろから笑うので緑間はなんだろうと思わず振りかえって立ち止まる。

「それ。その歩き方で俺、真ちゃんかもしれないって思ったんだよなぁ」
「…俺は驚いたのだよ」
「すごいだろ!さすが俺だわ」

なぁ、バスケしてなくても、真ちゃんが変わってなくてよかったよ、と高尾が嬉しそうにそう言ったので緑間はもう。

130125

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