違うんだよ、そうじゃなくて
*ブログネタ
*そのセリフは聞き飽きた。
リクオが学校を休み、珍しいと思いつつもゆらは奴良家へと訪れた。
そんなゆらへと注がれるのは妖たちの視線、視線、視線――。
好奇心と嫌忌心が混じる大勢の視線。
好奇心は力の無い妖たち。
嫌忌心はリクオに好意を抱く妖たち。
大事な大事な若様に近付く女+陰陽師である自分が余程、気に入らないのだろう。
「(ほんまに奴良くんは妖によう愛されとるなぁ……)」
内心で呟き案内された部屋へ通されたゆらは半分だけ体を起こしたリクオの姿に瞠目した。
「花開院さんいら「何があったん!?」
リクオの言葉を遮り、ゆらは怒鳴るように問う。
「いや、見た目より大したこと無いんだよ
大袈裟にされちゃっただけで」
真摯に見つめる眼差しにリクオは困ったように微笑む。
「なにが、何が大したこと無い、ですか!!
もう少しで骨が折れるところだったんですよ!!」
襖付近にて控えていた雪女がリクオの言葉に悲鳴のような怒声を上げる。
若干、泣きそうなのは恐らくリクオの側に居ながら守れなかった事を悔いているのだろう。
「氷麗……花開院さんと二人にして」
「ですがっ!!」
「お願いだから」
「〜〜っ、分かりました
………リクオ様に何かしたら承知しないから!!」
雪女は最初こそ食い下がったものの、懇願するように言われては、納得が行かなくても引き下がるしか無かった。
勿論、部屋を出る際に、ゆらに向かい睥睨して言葉を残す。
「ごめんね、花開院さん
彼女も悪気は無いんだ」
「いつものことなんやからかまへんよ
それよりも、ほんまにどないしたん?」
ゆらが再び問えば、やはりリクオは困ったようにして、所在なさ気に視線を右往左往する。
これは話すつもりが無い、と短期間の付き合いであるものの、十二分に理解しているゆらはあからさまに溜息を吐いた。
「言えんなら別にかまへん
だけど、相手は妖なんやろ??」
「うん、まあ……ちょっとした抗争があってね」
リクオの怪我具合は事故でもましてや人に傷付けられるような怪我じゃなかった。
包帯に隠されてはいるが青紫がチラホラと見え隠れする。
「あの妖怪は出て来ぃへんかったん?」
ゆらが思うにそれは有り得無かった。
自身の片割れを大事に思っている夜のリクオが、昼のリクオが怪我させられて大人しく黙っている訳がないからだ。
確かに夜のリクオはその風貌に負けず劣らずの大人っぽい性格をしているが、昼のリクオが関わると子供としか思えないことばかりする。
専らデートの時だとか、良い雰囲気になった時とか。
夜のリクオは小姑ならぬ小舅らしく、散々、邪魔をしてくる。
おかげでゆらとリクオは二ヶ月以上の交際の筈なのだが、未だにプラトニックな関係を続けてる。
思い出すと腹立つことばかりだ。
「真昼だったからね、彼は出て来れないよ」
ゆらが内心で夜のリクオに対して沸々と怒りを滾らせていたが、昼のリクオの声に我に返る。
「そんならしゃーないなぁ
(あんだけ邪魔するくせに肝心の時に出て来ないなんて役立たずめ!!)」
内心とは裏腹にゆらは怪我してるリクオの頬に触れる。
「(役立たずなのはウチも同じや)」
その場に居なかったのだから仕方ないと、第三者が聞いていたら言うのだろう。
しかし、それじゃあゆらは納得しない。
自分は人を守る為に存在すべきだ。
守らなければいけないのではなく、
守りたいから誇りを持って戦える。
自分には才能があると周りも祖父も言う。
幸いなことに自分は妖と戦う術も妖と戦える同等の力も持っている。
守りたい、守りたいと心から思うのに、
守らせて欲しいと心から願ってるのに
「本当に大したことないんだ、大丈夫だよ」
リクオはとても綺麗に笑う。
誰かの為に傷付いても、誰かに心配させないように笑う。
それは本当に綺麗に笑うからこそ、ゆらは切なくなる。
「ほんま狡いなぁ、奴良くんは、ウチは人を、奴良くんを守りたいだけやのに」
「大丈夫だよ、暗くないと出て来れなくても夜の僕も首無たちもいる」
だから戦えるんだと笑う。
ゆらを安心させるように、笑う彼は綺麗で泣きたくなった彼女は彼を抱き締める。
「わわっ、花開院さん///」
慌てるリクオを無視して、せめて涙が零れ落ちることがないように瞼をきつく閉じて。
そのセリフは聞き飽きた。
本当に聞きたかったのはそんな言葉じゃない。
守らせてくれないなら、大丈夫だと言わないで。
戦わせてくれないなら、大丈夫だと笑わないで。
与えるだけなんて嫌。
貰えるだけなんて嫌。
同等で居たかった。
守りたいから、守らせて欲しい。守ってたいから、守って欲しい。
そんなこと、彼に言ったってまた同じことを繰り返す。
だって彼は自身のことはいつも後回し。
怒るように言ったって、
嘆くように言ったって。
どれだけゆらや他の者が心を砕いて告げたって、彼は言葉の本質を理解してはくれない。
心配させたくないなら、安心させたいのなら、
大丈夫だと言わないで。
大丈夫だと笑わないで。
苦しいなら、助けて欲しいって言って、
言えないなら、言わなくても良いから。
手を伸ばしてくれたら、良かった
ただ、それだけで良かったのに。
手を伸ばすことさえあなたはしてくれない。
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