愛をあげる


カナ達が本を片手に騒ぐのをゆらは見つめていた。

「(やっぱり欲しいんやろか)」

付き合い始めたばかりのリクオを、カナ達に気付かれない様に盗み見れば、クラスメートの手伝いをしていた。

ゆらの予想ではリクオは結構な数を貰うだろう。

リクオにとって、自分は世間で言う彼女だけれど。

あげたら喜んでくれるやろうか。

誰だって好きなひとの喜ぶ顔が見たいものだ。

それはゆらとて例外では無い。

「(………頑張ってみようか)」

小さく意気込んだゆらはカナ達とのお喋りに興じた。






**************
2月14日当日――

リクオに渡そうと思ったものの気恥ずかしさからゆらはチョコを渡せずにいた。

今まで陰陽師になるべく修行に時間を費やしてきたゆらにとって色恋沙汰は初めての経験だ。

誰かに恋をするのも、それに纏わる行動を起こすのも初めてだ。

それに、とゆらは教室でのリクオを思い出していた。

想像を超える程にリクオはチョコを貰っていた。

妖怪達から貰うのは当然のように思っていたが、人間からもあれ程貰うとは考えていなかった。

人間から貰っても周囲の者達だけだろうと考えていたゆらにとっては誤算だった。

カナが感嘆の言葉を漏らした時、リクオは全部義理だよ、と苦笑していた。

けれどもゆらがチラリと横目で見た時、義理の中に本命があるのに気付いた。

確かにリクオの言うように義理で渡した女の子達は多いかもしれないが、手作りだと思われるものもあった。

告白をされたような様子も無さそうだから、きっと渡しただけなのだろう。

リクオは下心無く誰にでも優しくするから、その内の一人かもしれない。

ゆらはリクオが人間からも愛されることを思い知らされて、胸を痛めた。

朝は気恥ずかしさから渡せ無かったけれど、放課後の今ではリクオが貰ったチョコに本命があったことが頭にちらついて渡す勇気を持て無かった。

「ゆらさん!」

教室に憂鬱なまま、一人残っていたゆらはリクオが教室に入ってきて驚いた。

いつもならば、まだ、誰かの手伝いをしている時間だったからだ。

「まだ残ってくれてて良かった
一緒に帰らない?」

安堵した様に息を吐くと、リクオはふわりと微笑んでゆらを誘う。

リクオが気付いているかは知らないが、ゆらはこんなリクオの笑顔が好きだ。

「良かった、あ…そうだはいコレ…」

ゆらが頷くとリクオは笑みを深めてから鞄の中から一つの箱を取り出した。

「これ……女の子から貰ったもんやないの?」

「違うよ、ちゃんと僕が作ったやつだから!」

咎めるように言えば慌てたようにリクオは告げる。

「作ったって奴良くんが?」

「うん、母さんや毛倡妓たちに教わってね」

きょとりとゆらがリクオを見れば、照れたらしくリクオは頬を染めていた。

「逆チョコだけどさ……僕からゆらさんに大好きな気持ちを込めてね」

「う、ウチも奴良くんにあげる!!」

ふわふわと柔らかく微笑まれ、ゆらは胸の鼓動が早鐘を鳴らすのをごまかすようにリクオに押し付けるように渡す。

「え、チョコ?」

パチパチと目を瞬かせ、渡されたチョコをポカンと見つめるリクオにゆらは顔を赤らめた。

「ウチだって…奴良くんが大好きなんやから……!」

どんどん小声になっていく言葉でもリクオには聞こえたらしい。

「貰えるとは思って無かったから凄い嬉しい!」

にっこりとリクオに破顔されて、見たかった笑顔が見れたことに胸が高鳴る。

「べ、別にウチがやらんでも……奴良くん……いっぱい貰ってたやん…」

嬉しかったのに口から零れ落ちた言葉は素直ではなくて。

「そんなこと無いよ!
ゆらさんから貰ったのが一番嬉しい」

リクオは一瞬だけ呆然としたものの、ゆらの好きな笑顔で告げる。

「そうだ!
バレンタインはチョコを交換したから、ホワイトデーも交換しよ!」

リクオに愛おしむような眼差しで見つめられ、ゆらは顔を赤くしながら頷くのが精一杯だった。





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