無想有声
「嫌いや」
リクオに抱かれたままゆらがポツリと零す。
「ゆらさん?」
不思議に思ってゆらの髪を梳きながら彼女の顔を覗き込む。
「ウチ、リクオくんが嫌いや」
いつの頃か、ゆらは昼のリクオをリクオくん、夜のリクオを奴良くんと分けて呼んでいた。
「ええっ、何で!!?」
行為を終わらせたばかりの甘い感覚を味わっていたリクオは恋人からの言葉に愕然とする。
「……聡いと思えば鈍いし優しいかと思えば意地悪やし、誰かの為やなくて、みんなの為に怪我ばっかりするんやもん!
ウチを頼ろうともせぇへんし!!」
「う、ん……ごめん」
睥睨してくるゆらにリクオは困ったように謝る。
「それに……ウチを置いていこうとするとこも嫌い」
「ゆら、さん…」
リクオの体に擦り寄ってゆらは呟いた。
小さな声でも密着してる今でははっきりと聞こえたリクオは呆然とする。
「分かってるんや、ウチにはウチの、リクオくんにはリクオくんの道がある
同じ道には行けんし、行こうとも思えへん
けど、分かれ道になっとるままなんが嫌なんやリクオくんのこと嫌いになれたらええのに、嫌いになるどころか好きになるばかりや」
だから口にしてみた
言葉にすれば嫌いになれるんじゃないかと思ったんだと付け足されてリクオはゆらを抱き締めて口づける。
「……何やの」
離せば不満そうなゆらにリクオは苦笑する。
「僕は置いていったりしないけど、待ってて欲しいとも言えない」
「待っとる気なんてさらさらないわ」
「うん、だから……そんなゆらさんが僕は好きなんだよ」
「…………」
でもね、とリクオはゆらを押し倒して再び口を開く。
「嫌いと言われて傷付いたんだよ?」
「そんなの嘘やっ! いつも余裕があるやんか!!」
「余裕なんて無いよ、ゆらさんに関しては特にね」
困ったようにリクオは苦笑する。
「愛しい彼女に嫌いと言われて僕の繊細な心は傷付いたので、ゆらさんが二度とそんなタチの悪い事を言わないように、」
一度、言葉を止めたリクオはにっこりと微笑んでゆらの耳元に口を近付ける。
「お仕置きさせてもらいます」
優しい声音で甘く囁いた。
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