君が足りない


あとどれくらいなんや?
まだ足りないんやろか?

ゆらは念じるように心の中で呟く。

「ゆらさん?」

「な、何や!?」

くるりと振り向いたリクオにゆらは内心で焦る。

「いや、何かぼーっとしてたから、」

どうかした?と視線で尋ねられて、ゆらはう、と視線を彷徨わせる。

「ゆらさん?」

「なん、わっ!!?」

頬をリクオの両手に添えられて、交差する視線にゆらは熱が上がる。

リクオのこんな表情がゆらは苦手だ。

心配そうな表情で、けれども真剣な眼差し。

ドキドキと胸が高鳴る。

普段は感じさせないけれど、男になる瞬間、と言うのか、それを時々、感じさせる。


今は誰もいない。

まだ黄昏時ではないから夜の姿にはならない。


触れて欲しい、触れていたい

求める願いが懇願のように見えても。

「ゆら、さん…」

意識しているのはウチだけなん?

躊躇してるんは学校やからか?

真面目な彼のことだから、学校ではしたくないと思っているのかもしれない。


誘うように目を閉じれば、恐る恐る触れた熱。

「……ん」

ちゅ、と軽く触れた口づけは簡単に離れていく。

いつもそうや、奴良くんはいつも優しい。

怒って拗ねても、哀しんでいても、優しく触れて、宥めるように口づけるだけ。


だけど次は?
これ以上は?

――ねぇ、それから?

どうして、先に進もうとしてくれない。

強くなるために、誰かを守るために。

真っ直ぐ、自分の信念を貫くくせに。

どうして、恋人なのに。

その先に進もうとしてくれない?

触れて欲しい、触れてたい。


心も体も熱くて苦しくなるくらいに。

溺れ合ってたい。
溶け合ってたい。

君の熱と混ざり合えるように。


でも自分からは言い出せなくて。

彼に飽きられたら泣いてしまう。

だから、ねぇ?

もっと、もっと。
求めて、欲しがって。

ウチはもう望み過ぎて狂いそうなんや。

ゆらがリクオに抱きつけば、リクオはゆらの髪を優しく撫でる。

少しぐらい欲張って。

ゆらは泣きそうになりながらもそう思わずにはいられなかった。





[*前] | [次#]
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -