想うだけじゃ遠過ぎる


想うだけじゃ物足りない のゆらSide
*ブログネタ
私はもう、そこへは行けないから





こんなに好きなのに、彼は気付きもしない。

誰にでも優しい彼に期待する。

もしかしたら、なんて有るわけ無いのに。


「花開院さん具合悪いの?」

彼が近寄ってきてそう尋ねる。

具合が悪いんじゃない。

奴良君が好き過ぎてどないにもならへんだけや。


「……そないなことあらへんよ」

ゆらが苦笑すれば、リクオの表情が翳る。


「やっぱり顔色悪いよ
保健室に行こう?」

差し出された掌にゆらは迷う。

触れてしまえばそこから想いが伝わるような気がして。


迷っていたゆらを見兼ねたのか、リクオが強引に手を引っ張って立たせる。

珍しくも強引なリクオに、ゆらが戸惑ってる間に、リクオはカナに教師への伝言を頼むとゆらを引っ張りながら、教室から出る。

「ご、ごめんね
花開院さん、具合悪そうなのに無理矢理連れ出して………あ、手のこともごめん///」


申し訳無さそうに少しはにかむ彼に、ゆらは心臓が跳ねるのを感じた。

「……そないなことかまへんよ
このまま、繋いでてもええ?」

「うん、」

優しい、優しい、奴良くん。

ウチのことを友達としか見てないのを良いことに、それを利用するウチに気付きもしない。


温かい掌の温度と熱くなる体温にゆらは泣きたくなった。

気付いて欲しい。
気付かないで欲しい。

相反する二つの思いにゆらは顔を俯かせる。

ウチが想うように想って欲しいなんて我が儘や。

ウチを友達としか見てない優しい奴良くん。

ごめん、ごめんな。


君が私を友達と思っている場所に私はもう、そこへは行けないから


だって、こんなに好きなのに。
だって、こんなに好きだから。


友達には戻れない。

握られた掌さえ、こんなにも愛しいと想う私には、もう君と同じ場所に立てない。


「奴良くんは、」

「な、に?」

「ほんまに優しいなぁ…と思っただけや」

「誰にでも、優しい、わけじゃ…ないよ」

嘘ばかり…優しい、よ。


「そないなことあらへんよ
奴良くんは人にも妖にもみんなに優しいやん」

「僕は……」

ゆらが言えば一瞬だけ困ったように笑う。

「僕は人も妖もそんなに大差ないと思ってる」

痛くない程度に繋いでる手を握り締められてゆらの心臓がまた騒ぐ。


「僕は人も妖も好きだよ
だから、人だからとか、妖だからとか、そんな風に考えられない
まあ、僕が勝手に思ってるだけだけどね」

苦笑する割には強くて純粋な眼差し。

「欲張りやな」

「うん」

無意識に呟いた言葉にさえ、相槌を打たれる。

「そないな甘いこと言っとったら殺されるで?」

「はは、良く言われるよ」

責めるように言ったのに苦く笑う奴良くんにゆらは胸が痛い。

「だけど、そんな奴良くんやからみんなに好かれるんやろなぁ…」

人も妖もみんな奴良くんが好きになる。

彼の空気が温かいからか、彼の双眸が純粋だからか、

人はともかくとして、最初は敵で知り合った妖だったにも拘わらず、気付けば奴良くんを好いてしまう。

そんな妖達を幾度も見てきたゆらは苦々しい思いを無理矢理に飲み込む。

握り締めていた手を解かれたので、ああ、終わりかと考えていたゆらだったが、指を絡められて心臓が煩いほどに鳴動し、体も血が滾るように熱くなった。

きゅ、と少しだけ痛くない程度に力を入れられ、


期待する心がゆらを裏切る。

今抱き着いたら、どう思うだろうか。

優しくしないで、そう思うのに、優しくされれば、心が嬉しさに騒ぎ立てる。


恋心は思っていた以上に深まっていたんだと分かり、ゆらは泣きたくなった。


彼の全てが恋しい。
彼の全てが愛しい。


握られた手を離さないで欲しい。
握った手を解くなど無理だから。


泣きたいのを堪えたゆらは、そう想いながら返すように、握られた手に少し力を込めた。





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