想うだけじゃ物足りない


*昼→ゆら/ブログネタ
君が来てくれたらいいのに―― 。





好きだと気付いたら、誰よりも優しくしたいと思うようになった。

「花開院さん具合悪いの?」

最近、俯くのが多くなったゆらをリクオは心配していた。

「……そないなことあらへんよ」

苦笑して否定するゆらにリクオは胸が痛む。

彼女が好きだと気付いたのは京都での一件が片付いた後だった。

気付いたら、誰よりも彼女に優しくしたくなって、誰よりも側に居たくなった。

けれども守られてばかりの僕なんかより、彼女はずっと強くて。

夜の僕だったら頼られていたかもしれない。

考えたくなくても、そう考えてしまい、リクオの胸が痛む。

「やっぱり顔色悪いよ
保健室に行こう?」

手を差し出せば、彼女は逡巡するように視線を彷徨わせた。


何かに堪えるようなそんな表情するのに、彼女は弱いことを嫌がるように頑張るから。


リクオは動こうとしないゆらが更に心配になって、無理矢理にゆらの掌を掴み、席から立たせるとカナに先生への連絡を伝えるようにお願いしてから教室を出る。


リクオの突然の行為に驚きつつも大人しくついてくるゆらにリクオは内心で安堵した。

「ご、ごめんね
花開院さん、具合悪そうなのに無理矢理連れ出して………あ、手のこともごめん///」

不意に自分がしてることに自覚して、片想いをしてるゆらと手を繋いでることに照れてしまった。

「……そないなことかまへんよ
このまま、繋いでてもええ?」

柔らかくゆらが微笑んでリクオの心臓が高鳴る。

「うん、」

心臓の音が聞こえませんように…

内心でそんなことを思いつつ、ゆっくりと歩き出す。


チャイムの鳴る音が響いて、ああ授業が始まったんだと頭の奥で思った。

チラリとゆらを見れば、やはり何かに堪えるような顔で、俯いていた。

「奴良くんは、」

「な、に?」

不意にゆらが口を開き、見ていたのがバレたのかとリクオは緊張したまま、返事をする。

「ほんまに優しいなぁ…と思っただけや」

「誰にでも、優しい、わけじゃ…ないよ」

どこか哀しそうに微笑むゆらがリクオは悲しくて仕方なかった。

「そないなことあらへんよ
奴良くんは人にも妖にもみんなに優しいやん」

「僕は……」

ゆらは陰陽師だ。
だからだろうか、哀しそうに微笑んで告げるゆらにリクオは心臓を鷲掴みされたように痛んだ。


「僕は人も妖もそんなに大差ないと思ってる」

痛くない程度に繋いでる手を握り締める。

「僕は人も妖も好きだよ
だから、人だからとか、妖だからとか、そんな風に考えられない
まあ、僕が勝手に思ってるだけだけどね」

「欲張りやな」

「うん」

「そないな甘いこと言っとったら殺されるで?」

「はは、良く言われるよ」

「だけど、そんな奴良くんやからみんなに好かれるんやろなぁ…」


「(……それはどうだろう)」

自嘲するように笑うゆらにリクオは内心で思う。

リクオ自身、本当に自分が愛されているのか分からなかった。

一部を除き奴良組の妖達は優しい。
でもそれは、ぬらりひょんの孫だからだし、みんなに愛されて必要とされているのは夜の僕だ。

甘いと言う。
情けないと言う

側近は貴方は貴方のままで居れば良いと言けれど。


だから、ゆらの言葉にリクオは曖昧に笑うしか出来無かった。


それでも第三者から見れば愛されているように見えるのだろう。

確かに側近は過保護だし、父さんが死んで以来、おじいちゃんも僕を一人で出掛けさせることを止めた。
側近たちに聞けば、夜の僕は気付いたら外に出掛けているらしい。

大事にされているのも分かっているから、リクオが何か言ったことは無い。


与えられてばかりだから、欲しがることは今まで無かった。


でも今は欲しくて仕方ないものはある。

君が欲しい、と言ったら君はどんな表情をするだろう。

君を想ってる分だけ、
僕を想ってくれたら。


僕が君を想っているように、
この想いのところまで、君が来てくれたらいいのに―― 。


そう紡げる勇気もないから、握り締めていた手を解いて、彼女が大人しくされるがままなのを良いことに指を絡める。


きゅ、と少しだけ痛くない程度に力を入れれば、彼女が返すように握り締めたので、リクオは戸惑いながらも嬉しさに頬を緩めた。





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