ほかほか、かぷり



*昼ゆら前提
*首(→)+昼+毛+氷





もうすぐ日も暮れる頃、ゆらとリクオはコンビニ近くの公園にいた。

今は二人だけしか居ない。

いや少し離れた場所にはいるのだけれど。

公園には二人だけしかいないから、恋人になってから稀な時間だ。

「はい///」

「ありがとう///」

リクオがゆらに手渡したのはコンビニの肉まん。

一つの肉まんをはんぶんこ。


付き合い始めてから、友達の延長止まりだった二人は、恋人らしい行為が気恥ずかしく感じる。



そもそも事の発端は毛倡妓の言葉だった。

「リクオ様、あの陰陽師の子とはどうなんですか?」

「えと、陰陽師、って…花開院さんのこと?」

「そうですよ、で、どこまでいきました?」

「どこまでって…///」


恋愛関係に疎いリクオは毛倡妓の言葉に瞬時に顔を赤らめた。

「手は繋ぎましたか?
あ、それともキスはしました?」

「き、キス!?」

「うるさいわよ、雪女」

リクオが反応する前に雪女が反応して好奇心から尋ねていた毛倡妓はその眉を顰めた。

「け、毛倡妓、リクオ様にキ、キスなんてまだ早いわ!!」

「なぁに、言ってんのよ、リクオ様とあの子は付き合ってるんだからキスの一つや二つ当たり前じゃない」

「リクオ様は12歳なんです
いくら付き合っていても清らかな交際なんです
リクオ様にキ、キスなんてまだ早いんですから私は認めません!!」

「何でアンタの許可がいるのよ」

顔を赤らめて熱辯(ネツベン)する雪女に呆れたように毛倡妓は言う。

「ち、ちょっと二人とも」

自分の話なのに、二人の女妖怪にて繰り広げられる会話に流石にリクオも口を挟む。

「はい、リクオ様お茶です
……、どうかしたんですか?」

リクオの為にお茶を煎れて戻ってきた首無が、自分が出ていく前と違い、言い争っている二人を見て、リクオに尋ねる。

「首無、ありがとう
えと、何ていうか…」

困ったように口籠もるリクオに首無は更に疑問を感じる。

「首無!!!!」

「な、何ですか?」

口論していた二人が、首無を呼ぶ。
その鬼気迫る気迫に押され首無は応える。


「リクオ様とあの子がどこまでいったのか聞いたんだけど、雪女が「リクオ様にキスなんて早いと思うでしょ!?」なんて言うもんだからね」

あの子、と言われた時に無意識に首無は眉間に皺を寄せたが続いた言葉に目に剣呑な光を宿す。

「雪女の言う通りですよ
リクオ様はまだ12歳、交際中とはいえ、接吻などと不健全です」

「接吻って、あんた……古いわよ」

首無の熱論に毛倡妓は呆れ果てた声音と眼差しを向ける。

「しかしリクオ様
貴方に限ってその様な不道徳な行為など、してはないと思いますが、あの娘とは、その、どこまで進んでらっしゃるのですか?」

「うぇ、え、と……」

いきなり自分に話を振られて、戸惑うリクオと態度こそは常と変わらないものの、返事を気にしてる首無を一瞥して、毛倡妓は確信する。

「(やけに気にするとは思ったけど…首無、アンタ…最初っから、それが魂胆だったわけね)」


「その、だから………別に何も無いよ///」

下心が見え見えだと呆れを通り越した毛倡妓は次に放たれた主の言葉に瞠目する。

「リクオ様、何も無いって、手を繋いだりも?」

コクンと頷いたリクオに毛倡妓は驚いた。

二人の交際は三週間近くなるのだ、毛倡妓が驚倒するのも無理は無かった。

「や、やっぱおかしいかな?」

「いいえ、リクオ様…理想的な男女の健全な交際です」

「そうですよ、リクオ様…流石です」

恐る恐る尋ねるリクオと素晴らしい程の笑顔で応対する首無に尊敬の眼差しでリクオを見つめる雪女。

毛倡妓は頭痛と眩暈がした。

雪女はロマンチックな乙女心があるからだろうが、首無は完全な下心を持って言ってる。

「健全も健全過ぎるわよ!」

毛倡妓の尤もな叫びが奴良組本家に響き渡った。





リクオはゆらの隣に座って肉まんを食べながら、昨日の会話を思い出す。

思い切って誘ってみたものの、本当に大丈夫だったのか不安もある。

もともと彼女が、この町に来たのは修業の為だし、一人暮らしをしてるから、色々と大変だろう。

彼女とのことは何もかもが初めてなリクオにとってはいっぱいいっぱいな訳で。

「どうしたんや?」

食べるのが止まったリクオを不思議そうにゆらが見つめる。

「いや、何でもない……訳でもないんだけど……」

「何やそれ、どっちなん?」

クスクスと楽しそうに笑うゆらに内心で安堵する。

「いや、今日はいきなり誘ったから大丈夫だったのかな、って」

「そんなん気にしてたんや
嫌だったり無理だったらウチかて断るんよ」

だから気にせんといてとゆらはリクオに告げる。

「それに、な?
……う、嬉しかったんや
奴良くんが誘ってくれて、ウチかて一緒にいたい、とか思うんよ///」

耳まで真っ赤なのは寒いからか、恥ずかしいからか、リクオは顔を背ける彼女に愛しさが込み上げる。

「それなら良いんだ
ねぇ、花開院さん?」

「……な、何や?」

名前を呼んで何も言わないリクオを不思議に思って、恥ずかしくて背けていた顔を彼に向ければ満面の笑み。

「僕ね、花開院さんのことが大好きだよ」

「な!……何を言うんいきなり///」

不意打ちのリクオからの告白に更に真っ赤になったゆらは怒鳴るように返す。

「ん〜何て言うか、好きだけじゃ足りないって感じたからさ、伝えておこうと思って///」

ふわっと柔らかく愛おしむように微笑まれ、ゆらの心臓が煩く鳴動する。

「〜〜っ、ウチも大好きや!!///」

何だか負けたようで悔しいので、けれどもやっぱり恥ずかしくて叫ぶように返せばリクオは頬を染めて嬉しそうに微笑む。

「は、はよう、肉まん食べんと夜になるで!!」

「あ、そうだね……冷めちゃったけれど食べる?」

はい、と目の前に差し出されてゆらはここ最近で身に付いた貧乏性により頷いてしまった。


もぐもぐと食べてるゆらを見ながら、リクオは思った。

間接キスって言うんだよね、こういうの。

首無や雪女はキスなんて駄目だって言ってたけど、これは大丈夫なのかな?


そう疑問に抱きつつも口にしないのは、告げたあとのゆらの行動が目に見えるからだ。


もうすぐ夜になるから寒いし、風も冷たいけど、不思議と温かく感じるから少しは前進出来たのかな、とリクオは内心で喜んだ。





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