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日曜の約束

ある二月の昼下がり、チョロはカフェでいつもの席に座り、ある人を待っていた
毎週日曜のこの時間は、あの子と過ごすのがチョロにとっての鉄板だった


「チョーロ君!」


だーれだっのイントネーションで、後ろから目隠しをしてきたのは“あの子”だ


「メグでしょ、声だけでもバレバレだってば」


あったりーといいながらその子は、チョロの前の席に腰かける
今日は日曜日、その女の子、巡の休日だ
休日だから、いつもの制服姿ではなく、女の子らしい服装をしている

2人とも見た目がよく似ている


「メグもその髪型が馴染んできたねー」


チョロは巡の黄色い毛先をつまんでクルクルしながら言った
チョロと巡が会ったばかりの頃は巡の髪は白一色だった
でもいつだったか、巡はチョロの真似っこをして同じような髪型にした
最初は違和感を感じていたチョロであったが、今では上で言うように馴染んできた


「チョロ君と一緒に居たからかなー…、一緒にいると似るっていうじゃない?」


「だったらかなり似てきてるだろうねー、もう初めて会った時から3年くらいだっけ?」


チョロと巡は、巡がまだお母さんと2人で暮らしていた頃からの知り合いだ
出会いはかなり鮮烈で、巡の大切な思い出の一つだ

―――――――



「あんたの顔なんか、見たくないのよ!!!!!」


そう母はヒステリックに叫ぶと、私をベランダに押し出した
季節は真冬、雪こそ降ってはいないが、降りそうなくらいに雲は重たく、空気は堅い
私は素足のまま冷たいベランダの床に立つ
母は世間体を気にして、外に出すにしても、この塀のあるベランダにしか出さない
ここは、三階だから人目につくことはまずない


(寒いなー・・・、今日はどれくらいかなー・・・・)


むしろ、今日中に家に入れてもらえるかもわからない
ベランダに佇んで少女は手をこすり合わせ、温かい息を吹きかけた


「これ着けてなよぉ」


急に目の前に紫色の手袋が差し出された
え? と思い顔をあげる
するとベランダの幅の狭い塀の上に綺麗なひとが居た
ここは三階だというのに、いったいこの人はどこから来たのだろうか・・・


「というより、貴方薄着すぎです これも着てください」



そういうとその人は自分の着ていた服を女の子に羽織らせた


「あ、あなた・・・誰?」


女の子は驚きと疑心でいっぱいな表情だ
それを見て、にっと笑うと


「さあ、誰でしょうねぇ? 貴方はなんというんですか?」


女の子は、小さな声で 巡 といった
それを聞いて今度は優しく微笑むと 私はチョロです と彼も名乗った





それから、チョロは巡の辛いときにどこからともなく現れて、巡の気持ちを軽くしてくれた
チョロが居たからこそ、巡は今までの辛い日々を耐えることが出来たのだともいえる

巡にとって、チョロはスーパーマンのような存在だった

そして、円に本格的に助けてもらえることになったとき、巡はもうチョロに会えなくなるんじゃないかと不安になった
チョロは巡が辛い思いをしているときに来てくれていた
だったら、巡が幸せになってしまったら・・・
もう辛い思いをしなくていいというのは嬉しかった
しかし、もう会えないんじゃないかと思うと、寂しかった






「チョロ君、今まで辛い時でもチョロ君が一緒に居てくれたからメグは生きてこれたんだと思うの・・・、今までありがとう」




円と一緒に住むことが決まった時、ベランダで巡は一生懸命涙を堪えて言い切った
チョロと巡の間にしばしの沈黙が流れる





「まるで今生の別れみたいですねぇ…、私はこれっきりでメグとお別れする気なんてないですよ?」



チョロは当然のように、巡が一番言ってほしかった言葉を言った
巡は堪えきれなくなって、思いっきりチョロの胸に飛び込んだ、そして泣いた



―――――――


 
その時に、チョロが提案したのが日曜ルール
毎週日曜日は、このカフェで2人一緒に過ごす

お互いのくだらない日常とか、最近はまっていることとかを、ケーキを食べながら話す

とってもありきたりな、でもとっても幸せな時間


巡は正面でオレンジジュースを美味しそうに飲んでいるチョロを見ながら思う






チョロ君との日々がメグの幸せであるように、
メグとの日々がチョロ君の幸せですように・・・





日曜の約束
かけがえのない、二人の時間





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