自分を慈しみ育ててくれる「兄」のギルベルトが、自分とは違った存在だと知ったのはルートヴィッヒが十代半ばの時だ。

ある時幼馴染みに「お前の兄さんは全然歳取らないんだな。俺達が小さいときから全然変わらない。」と言われた。
何時までも若く見える得な人達というのは存在する。
ギルベルトもその一人だと思っていた。しかし、帰って中年のベテランメイドにその話をしたところ「あたしがまだ少女だった頃から変わっていません。ギルベルト様は特別な方なんですよ。」と教えられたのだ。
ギルベルトはこのプロイセンの国の化身だという。

その時はその意味をあまり深く考えなかった。兄が特別だと知って尊敬の念が増しただけだ。
何よりメイドが冗談を言っているのだと心のどこかで思っていた。





その秋、ギルベルトの体に異変が起きた。
外傷はないのに体が痛むのだという。医者にも見せたが彼の体に異常は全くなかった。
ギルベルトは気を失うこともなく苦しみ続けており、夜になると近くはないルートヴィッヒの部屋までギルベルトの呻き声が聞こえてきた。
冬に入った今も症状は回復していない。

ギルベルトを救おうと子供ながらに奮闘していたルートヴィッヒに「諦めなさい。」と言ったのは、ギルベルトの昔からの知り合いで、彼と同じ様にルートヴィッヒを可愛がってくれたローデリヒだ。
最近知ったことだが、彼はオーストリアの化身だという。
化身同士、兄の症状についてルートヴィッヒが助けを求めたところ言われたのがその台詞だった。
「どういうことだ?」
震える声でルートヴィッヒが尋ねる。
ローデリヒは悲しげな顔で「仕方のない事なんですよ。」と話し始めた。
「このプロイセン国の上層部が中心となって、ドイツの小国を纏めあげ、帝国を造ろうとしています。私たち国はあくまで元人です。私達の命は、国そのもの…。つまり国土なのです。新しく帝国を造れば、今ギルベルトの命が宿る土地は新しい国のものになります。」
「…だから?」
先を促さなくともルートヴィッヒは理解していた。それをわざわざとぼけるのは自身の考えを否定して欲しかったからだ。
「ギルベルトは命の礎を失って死んでしまうのですよ。」
「………。」
私は生憎その話に誘われませんでしたがとローデリヒは弱々しく笑った。
幾度か国の死を見、そして助けようとしたのだと言う。
「でも我々体現者は在るだけであって、影響は受けても与えることは出来ないんです。時代の流れには逆らえない…といったとこでしょうか?」


兄を助けたいのに手だてはない。命の礎が無くなろうとしている事に苦しんでいる兄を見ていることしか出来ない。
そのことにルートヴィッヒが絶望していた時、それは彼の部屋へ現れた。
不思議な形をして人語を操る白い獣。
それはキュウべぇと名乗った。



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