「僕と契約して国になる気はないかな?」 「国?」 国。 今のルートヴィッヒの神経をささくれ立たせている単語だ。眉を寄せる。 「国の化身のことだよ。ギルベルトと一緒さ。国の体現者となってその国を良い方へ導く手助けをするんだ。」 「知っている。」 ローデリヒから国となった経緯は聞いていたが、まさか自分の元にその機会が訪れようとは思ってもいなかった。 ローデリヒと話してもまだ半信半疑だった国という存在がルートヴィッヒのなかで現実味を帯びてくる。 「知ってるなら話が早い。君にドイツになって欲しいんだ。」 ルートヴィッヒは目を見開いた。 ドイツという国名、ローデリヒから聞いたギルベルトの不調の理由が頭のなかで結び付く。 自分が兄を殺すことになる存在になれといっているらしい。 「お断りだ。ドイツの成立なんて許さない。」 ルートヴィッヒがドイツに選ばれたのなら、自分が契約さえしなければギルベルトは生き長らえるだろう。 無言のキュウべぇを無視し、ギルベルトの様子を見に行くためにルートヴィッヒは廊下へ出た。 しかしキュウべぇの次の言葉に振り返る。 「嫌なら他の候補を当たるだけだよ。ギルベルトはどうしたって滅びる定めなんだ。それは変えられない。」 「他に候補が居るのか…?」 「国になるのは大変なことだからね。君みたいに拒否する人もいるさ。」 今いる国のなかには補欠候補だった者もいるという。 補欠が契約を飲んでしまえばルートヴィッヒが拒否したところで意味がない。 「でもね…」 キュウべぇの目が不気味に輝いた気がした。 「その代わりに一つ、なんでも願い事を叶えてあげるよ。どんな奇跡だって起こせる。」 ルートヴィッヒを見上げるキュウべぇの瞳は得体が知れない。危険だ。関わらない方がいいと本能が告げる。しかし、 「…何でも?」 「というと?」 「兄さんが死なないようにすることも出来る?」 キュウべぇの言葉をはね除けることは今のルートヴィッヒには出来なかった。 ギルベルトが助かることはないと頭は納得していたからだ。ルートヴィッヒにできるだけのことはしてきたつもりだ。ローデリヒ以外の国達も頼った。だが皆言うことは同じだった。 あとはルートヴィッヒの心が納得すれば済むだけの話だ。 「君が望めばもちろん可能だよ。契約するかい?」 翌日、不思議そうな顔をしたギルベルトが久しぶりに朝食の席へ姿を表した。 → |