外がまだ暗いうちに佐助は布団から起き上がる。
昨晩は久々に城の警備から外されこうして自室の布団で眠れたというのに、妙に落ち着かなくて早々に目が覚めてしまった。
二度寝する気にもなれず自室の土間にある水場へ移動して歯を磨く。

歯ブラシの音だけが響く朝の静寂は突如破られた。

「Good morning!」

佐助は歯ブラシを動かしながら首ゆっくりとを巡らせ、静寂を殺し玄関を塞ぐ馬上の人を見上げた。
奥州筆頭伊達政宗である。
敵国の大将が乗り込んできたというのに城の警備は何をしているのだろうか。もっとも、自分か主の幸村でもなければ相手は務まらないが。
「おはようございます独眼竜の旦那。警備の者は如何なされたのですか?」
朝の爽やかな気分を壊された腹いせに丁寧な挨拶をしてみるが、そんな細やかな嫌がらせが効く人物でもなく「独眼竜は伊達じゃねぇってことだ。you see?」と返された。
理由になっていないがここに訪れるまで不穏な音は全くしなかったのだから、無事ではあるのだろう。

「とりあえず忍び。俺と結婚しろ。」
「え?なんで?」
政宗の突然の申し入れに動じることなく佐助は質問する。
突拍子もない発言は幸村のお陰で慣れっこだ。
下馬した政宗は面倒臭そうに目を細め「小十郎が煩くて敵わねぇ。」とぼやく。
年頃の主を気づかった腹心が、最近やたらと縁談を持ちかけてきて頭にきているのだという。
「俺は今天下取りが一番なんだ。他のことに構ってる暇はねぇよ。…で、だ。小十郎を黙らせる為に結婚してやろうと思ってな。小十郎が大っっ嫌いなお前と。」
「うわー腹立つー。」
要は小十郎に対する嫌がらせだ。
佐助、かすが、小太郎の忍び達はいずれも小十郎から嫌われていた。
恐らく正々堂々と戦わないところが気に入らないのだと思われる。職種上仕方ない問題で戦の度に小十郎の集中攻撃を受けているので、彼の存在は若干トラウマだ。
幸村と政宗がよく戦う都合上特に佐助に対しての風当たりは強かった。非常に優秀な人物だと思うが好きではない。
「まぁいいけどね。」
面倒事は嫌いだが、あの鉄面皮をからかうのは楽しそうだと佐助は了解の返事をする。
「oh,thank you!」
「いいえー。じゃあ結婚するわけだし一発ヤリますかね。」
はっはっはとにこやかに言った発言は、続・朝から人の家に乗り込んできた仕返しである。
佐助の脳内脚本では南蛮の言葉で罵ってくる筈だ。
しかし政宗からの暴言はなかった。顔を青くして若干後退っている。
「えぇぇ…そういうもんなのか…?」
「…………はい?」
「え…?」
予想外の政宗の返事に佐助は間抜けな表情で、青ざめている政宗と見つめあってしまった。
その間にも佐助の脳が急ピッチで事態の理解に努める。

幸村もそうだが、この若さでこれ程強くなるには才能だけでなく日々の努力が重要だ。加えて政宗は将来一国の主となる子供だったのだから勉学その他諸々もこなさねばならないし、見た目から厳しそうな小十郎が側に居れば遊び呆けることもなかっただろう。

弾き出された答えは、「伊達政宗は箱入り」だった。

「……うん!そういうもんだよ!」
「really!?」
ガラの悪い見た目をしているのに実は純粋培養なのがなんだか可愛らしくて、思わずときめいてしまったのは佐助一生の不覚だった。


佐政は佐助が散々悩んだあと結局ふぉーりんらぶすればいいと思ってます。
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