617Patroclus


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きみはかわいい

糖度高めのナワマサ。




「……ふ、ぅん……っ、ナワーブ、ちょっと、っねえ」

お互い今日の試合の傷も癒えないうちに深いキスをしている。荘園に帰って、自室の部屋の扉を開けた途端にこれだ。部屋に寄りたいと言われたときからなんとなく察せてはいたけども。扉を背にして逃げ道を失われている状態。
重ねた口の端から零れる唾液をもったいないと言わんばかりに舐められ、舌を吸われ、歯列をなぞられ、理性を奪おうと必死になっている彼の息は既に荒い。声とも違う音が喉の奥から鳴る。乱暴なキスなのに、頬を撫でる手つきだけは柔らかかった。
呼吸が苦しくなって、トントン、と胸を叩くがやめてくれる気配はない。少し強めに叩いても反応は一緒だった。

「……ッいい加減、しつこい……!」
「っでぇ!!」

しまった、思い切り殴ってしまった。彼の頑強ぶりはよく理解しているとはいえ、さすがに容赦なかったかもしれない。でも、余裕があるうちに釘を刺しておかなければならない。そうじゃないと、この先どうなることか。

「っの、怪力女!」
「悪かったわね」

ナワーブは殴られた胸を擦りながらブツブツと何かを言っている。でも、「するならちゃんとベッドでして」と続けた私の言葉に気を良くしたのか、徐ろに手を引き早足でベッドに向かった。

こういうことは、よくある。何度も救助に行ったり、チェイスには難しい場所で追われ続けたり、攻撃をギリギリで避けたり、そういったスリルを越えて勝った時の興奮が冷めないのだ。そういうときは決まって袖を引かれ、部屋に寄りたいと誘われる。ナワーブの部屋はダメらしい。何故なのかは分からないけれど。
それにしても男性にしては小柄とはいえ自分よりも大きい男が子犬みたいに誘ってくるのは、なんというか、断れないでしょう。彼は私がそういうのに弱いって、きっとわかっててやってる。本当に狡い人。

ベッドに連れてこられたあとは流れるように押し倒されて、キスの続きをする。獣みたいに荒々しくて、決して丁寧とは言い難い彼との口付けは、案外嫌いじゃない。

「は、んん、ふ」

断続的な声と、吐息と、水音が混ざる。もうそれがどちらから発されているものなのかは分からなかった。
ナワーブとは、恋人という立ち位置にいながら、相棒みたいな近さで戦闘訓練をするし、友人みたいな気軽さでキスをして、食事を摂るように隣にいる。だけど身体を重ねたのは数回しかない。大体は私が断ってしまう。セックスは嫌いじゃないけど、誰かに咎められる気がして怖いから。
だから、我慢させているんだと思う。そういった意味でも、こんなふうに興奮冷めない状態で上に被さるナワーブのことを拒絶できないのだ。逆に言えば、こんな機会じゃないとセックスできない。それくらい、私は弱いんだってことは、彼と付き合ってから初めて知った。

「今日、我慢できそうにない。いいか」
「……うん。今日は頑張ってたから、労ってあげる」

ていうかこうなってるあなた、我慢できたことあったかしら。それは言わずに、髪をまとめていたヘアゴムを取った。



まずキスで呼吸を奪われてしまうと、酸欠になった身体は言うことを聞いてくれなくなる。反射的に抵抗のつもりで肩を掴むと、逆に引っ張られ、身体が密着する。心音が早い。でも、それもどちらのものだろう。
最後に唇を舐められるとそのまま口付けは下に降りていく。首を辿って、鎖骨、乳房、その先端へ。どのタイミングで脱がされたのかは正直、覚えていない。でも私もナワーブも気づけば上半身は裸だった。

「ンッ……ぁ」

鼻から抜けるような自分の声が、まさに「女」って感じがして、気に食わなかった。だからできるだけ声は出したくないのだけど、ナワーブはそれを許さない。

「もっと声聞かせて」
「っやだ……」
「労ってくれるんだろ」

そう言いながら乳首を引っ掻かれると、「ひゃあ!」と大袈裟な声を出して跳ねてしまった。満足気に笑う彼も気に食わない。後で覚悟しろよと心の中で思って睨みつけたら、またキスをされた。今度は啄むようなキスを繰り返しながら愛撫をされる。思考が追いつかなくなって、どんどん馬鹿になっていくみたいだ。
瞬間、太ももに擦り付けられた重量に一瞬身体が強ばった。ナワーブはそれに気づかないまま、愛撫を続ける。
彼の興奮は、違和感だ。私に興奮してくれるのは嬉しいのだけど、やっぱり正直理解できない。だって私、こんなだし。筋肉質で、傷だらけで、女の子らしくもない。
ぽた、と頬に落ちた何かではっとする。彼の汗だった。見ると、余裕なさそうに顔を歪めて、荒い呼吸をしていた。

「っねえ」
「……ああ?」
「もう、余裕ないんじゃないの」
「んなの、最初からねーよ」
「なら……」
「でもあんたを大事にしたいから」

普段肩を並べて一緒に戦っているのに、彼だって私を認めてくれているのに、こういう時はやっぱり男の人なんだなあって実感する。見上げる身体の肩が案外広くて胸が高鳴る。

「いつも怖がってんだ、理性トんでもらわねえと後々キツいだろ」

なるほど、やっぱり気にしてたのね。そしてそういう理屈で、しつこかったのね。

「だから……」
「勘違いしているようだけど」

普段の誘いから逃げているのは申し訳ないけど、今回は違う。だって私だって獣みたいに興奮しているし。だから訂正しなくちゃ。

「私は抱かれているんじゃなくて、抱かれてあげてるの」

だから遠慮なんかしないでよ、と続ければ一拍置いて大爆笑された。なにそれ。

「はは、はーー……ほんと、大好き」
「なっ」
「好きだ。可愛い。そういうところがたまんない」
「ちょ、何よいきな、り……」

何度だって言うけど、こういうのに弱いの、私。
普段、その身体に見合わないくらい頼もしくて、強い彼は、戦場を経験しているからか時折とても冷たい顔をする。でも、笑ったときはとても幼く見える。頬を赤らめて、目を細めて、ちょっと間抜けな感じ、それがかわいい。これが所謂ギャップってやつなのかしら。何を言おうと思ったのかも忘れてしまった。

「じゃあ、遠慮なく」

そう言うなり、ナワーブの指が下着の上から割れ目をなぞった。またはしたない声が漏れたけど、聞こえないふりをしておこう。

「……濡れてる」
「いわ、ないでよ」
「や、つい」

下着の上からでも水音が聞こえるほどだった。彼が指を動かす度に音が鳴る。二人とも着ているものを全て取り払うころには恥ずかしくて死にそうだった。

「ひ、うんん、っ」
「隠すなって」

顔を見られたくなくて被せていた腕をどけられる。そのまま右手は彼の左手に絡め取られた。声を出したくなくて唇を噛んでいたのを見かねてか、また口付けられた。ちゅ、ちゅっとわざとらしく音を立てられて意識は自然とそちらに向く。ダメだ、どんどん絆される。

「強情だな」
「っ、どっちが、」

くちゅくちゅと至る所から水音がする。身体を重ねる度に思うけれどこれが自分の身体からでる音なんて到底信じられなかった。
息の奪い合いみたいな激しいキスをしながら下も触られて、頭は回らなくなっていく。何も考えられなくなっていく。

「ぅ、ふあ、は、ぁ」
「ん……は、やっと声、出せてきた」

もう我慢なんてできなくて、自然と漏れ出てしまう声に、彼はご満悦のようだった。舌なめずりをする様子は酷く扇情的で、ナワーブの癖に、とまた心の中で悪態をつく。本当に、終わったらなんて言ってやろうかしら。

「なあ、もう入れて、いいか?」

フーフーと肩を揺らして呼吸をするナワーブは汗だくだった。もちろん断れるわけもなく、でもyesというには恥ずかしかったので、目線を逸らしながら頷いた。それでも彼は満足したみたいで、小さくありがと、と耳元で囁いてから挿入の準備を始める。

別に初めてじゃないし。私もいい歳だし。セックスが怖くないっていうのは嘘じゃない。ただ、こんな私が誰かと肌を合わせていることを誰かに怒られてしまいそうで、怖い。例えば、今はもういない婚約者とか、私に道を強いてきた両親とか、……事故を見ていた、神様、とか。ここは荘園で、私の部屋で、今は試合後で、絶対にそんなわけないのだけど。

「ねえ、ナワーブ」
「ん」
「私、その、可愛げもッ……ないし、女の子らしくもなくて、ぇ、全然、よわくないから」
「だから?」
「あなたの、好きにしていいわ」
「……余裕だな」

でも却下、と言われながら足を開かれ、突然挿入されて、一際甲高い声が漏れた。最早叫び声に近かったかもしれない。

「っ、なんで、ぇ?」
「っはぁ、あんた、本当に、なんにもわかっちゃいねえ」

それはずぼずぼと浅いところの抜き差しを繰り返す。固くて十分に大きくて、先走りで濡れていた。もどかしくて、入口がじんじんとがひりつく。そのまま、早く指で広げられた空虚を満たして欲しかった。

「あんたの身体だけに興奮してるんじゃ、ねえよ、俺」
「ぁ、んッ、……え……?」
「誰とも比較なんかできない。女らしいとからしくないだとかで見たこと、一度もない。それに、あんたは可愛い」
「な、」
「かわいいよ、俺にはそう見える」

可愛い。
可愛い?私が?
普段受け取ることもない言葉を反芻しようとしたら穿たれた。また不意打ちに声が漏れる。ナワーブはそれに気を良くして、また笑う。睨みつけてやったけど表情筋が言うことを聞かないので、本当に睨めたのかは
分からない。

「〜〜、っ、いきなりはぁ、やめ、っあ」

断続的に繰り返される律動は、最初からラストスパートみたいに早くて、彼がどれほど余裕がなかったかを思い知らされる。上に被さる彼の長い髪からぽたっとまた汗が落ちた。それだけで心音はどんどん加速する。目の奥がチカチカして、これこそ星が回るってことなんだなって思った。

「あんた、っそーいう、直接的なの、ほんと弱いよな」
「ぅえ……?」
「かわいい」
「……っ」
「っ、ほら、また締まった」
「〜〜!やめ、てよ!」

ナワーブは上半身を倒して肌が密着するように抱き締めてきた。首元からちゅ、と音が聞こえたかと思ったら、耳元で延々とかわいいと囁かれる。掠れたテノールは普段そうは思わないのにとても色気があって、ゾクゾクした。
自分の体のことを他人に知られているのが悔しくて、苛立ちのままに耳に噛み付いてやった。思い通りになるとは思わない事ね。いてっと声が聞こえるが、揺すぶりは止まらない。お互い限界が近いみたいだった。

「なあ、あんたのこと、大事にしたいんだよ」
「ぁんっ、ふ……うん、ん……っ」
「だから、あんまり、自分を下げるな」

な?と掛けられた声は優しくて、生理的な涙とは別に泣きそうになってしまった。本当に、なんなのよ。ナワーブの癖に。
あ、あ、と声が我慢できない。腰を掴んだナワーブも動きを止めない。目の奥の光が近くなってくる。

「なわ、も、んぁっ……い、きそ」
「ああ、おれも、っく」

追い打ちのようにさらに強く早く抜き差しされて、私は呆気なく達してしまった。足の先がピンと伸びてガタガタと身体が痙攣する。それでも彼の動きは止まらない。

「まっ、いっ、た……ばっかぁ……!あっ」
「もうちょい、我慢、して」
「やっ、……は、あ、あぁ」
「……っしめ、んなッ」

無意識に締め付けていたみたいで、ナワーブは苦しい顔をする。眉を寄せて、呻き声のような苦しげな声を出して身体を震わせた。直前で中から出したみたいで、お腹の上に白濁が溜まっていた。

二人とも汗だくになって息が整わないまま、横たわる。シーツの洗濯が大変そうだわ。
隣にいる恋人と目が合って、どちらからともなくまたキスをした。必死に、縋るように、夢中になって貪った。

「……眠い?」
「……ええ」
「あんたは寝てていい、後は俺がやっておく」
「でも」
「いいから」
「……うん」

ナワーブが優しい手つきで撫でてくるので何も言えなくなってしまった。じゃあ、お言葉に甘えるとして。心地よい虚脱感。迫り来る眠気に委ねて、瞼を閉じた。

目が覚めたときも隣にいて欲しい、なんて思うときが来るとは思わなかった。私、あなたの傍にいるとどんどん弱くなるみたい。角がぽろぽろと取れて丸くなっていくように、ごく自然に恐怖心も薄れていく。自分の身体も、意識も、言うことを聞かなくなる。
明日からはまた頑張るから。だから今くらい、いいわよね。
未だにうるさい心臓の音に安心して、意識を手放した。

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