617Patroclus


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芯まで溶かして

 住む世界が違うんだと思う。
 だから、本当に出会えたこと自体が奇跡で、何がそうさせているのか俺には全く理解が出来ないけど気に入ってもらえて、ましてや付き合うことが出来るだなんて、夢みたいな話だと思った。あの夜、初めての夜から1ヶ月経った今でも、俺はやっぱり、どこか現実味を感じない。
「タマ」
「っひゃ……」
 露わになった薄い胸板をすっと撫でられて、意識が覚醒する。あれ、もしかして俺、気絶してた?
「大丈夫か」
 ここは什三くんちで、今は真夜中で、俺たちはシーツの乱れたベッドの上に全裸で足を絡ませ合っている。思考がクリアになっていけば、だんだんと恥ずかしさが返ってくる。まさかセックス中に気を失うなんて。
「ご、ごめ、」
「そうかそうか、飛ぶほど気持ちかったんか」
 それでも、什三くんはにこにこと楽しそうにしながら、いろんな体液でカピカピになった俺の髪を弄った。いつもそう。彼は、いつも俺といる時は楽しそうにしてくれてる。
「なんでそんな、楽しそうなの」
 この質問、何回目だっけ? 俺、何回同じことを思って、何回同じことを聞くんだろう。馬鹿みたいだ、呆れちゃうかな。でも什三くんはやっぱり嫌な顔ひとつせず、同じ答えを返す。
「んなの、タマがかわいいからだろ」
「……」
 そう言われてしまえば、俺は何も言えなくなってしまう。言及するのも恥ずかしいし、什三くんが本当にそう思ってること、わかってるから否定も出来ない。でもそういうのって自惚れているみたいで。いや、自惚れているんだろうけど。
 什三くんは自惚れろ、俺がタマを好きだってことを自覚しろ、特別だってことを忘れるなって何度も言うけれど、難しい。それを俺の言葉なんかにしてしまうのは勿体ない。
「かわいいよ」
「う……もう、わかったから」
「本当にかわいい」
「も、もういいです……!」
 完全に覚醒した俺の思惑は彼に知られることなく、小さなキスの音に消えていった。唇への軽いキスは、すぐに深くて欲に塗れたキスに変わっていく。どくん、と什三くんのものが俺の中で脈打って、繋いだまんまにしてくれてたことを知った。
 什三くんとのキスは安心する。彼とこうなってから、触られること全てがどきどきしてどうしようもなかったけれど、口付けだけはどきどきの傍らで安心できた。お互いの息を奪い合うみたいな、長くて苦しいもの。什三くんの体温。唾液。直に感じる吐息。震える喉。味わえば俺も、食い尽くされていく。それがおかしなくらい落ち着く。
「何が不安? タマは、どうして欲しい。どうしたい。何が知りたい? 何を考えてる。オレの事、どう思ってる」
「……、おれ、は」
 俺の言葉なんかにしてしまいたくないよ、自分のこんな汚いもの。
「オレはタマの全てが知りてえよ。全部ほしい。くれるんだろ」
「……俺は、什三くんの好きなように、してほしい……」
 やっぱりそれが、多分一番幸せだから。
 そう言えば、什三くんははあ、と大きいため息をついた。俺の中で什三くんのものが大きくなるのがわかって、肩が揺れる。このまままたセックスするとしたら、何回目の絶頂を迎えるんだろう。浅ましい期待が一瞬で膨らんでしまって、彼の顔が見れない。
「はー、っとに、かわいい」
「っ、あ」
 うなじを甘噛みされて、声が漏れる。そのまま什三くんの舌は肩口に滑っていく。シャンプーの香りが汗に混ざって香って、エロい。
「どこもかしこも真っ赤になって、熱くて……」
「じゅ、ぞくん」
「また乳首も膨れててさぁ、かあわい」
 肩口を噛まれながら緩く胸の先を擦られる。もっと強い刺激がほしくなるけど、什三くんはたぶんわざと、先端を避けながらもどかしい触り方をする。自分の欲望がどんどん高まっていく。
「たぁま、オレの目見ろよ、ほら」
「うう……」
 俺の胸を触っていた手が頬に伸びてきて、無理矢理顔を上げられる。切れ長の瞳から覗く光が俺を捉えてから、満足そうに笑って。その唇が弧を描いて、今から喰われると思った。それでもいいと、思った。
 ゆるゆると抜き差しをされ始める。中はまだ緩くて、簡単に揺すられる。でも、良いところには当ててくれない。もどかしくて腰が揺れて、さっき中に出された精液がぐちゅりと音を立てるのが羞恥心を煽っていく。
「眉下がってるの、かわいい。泣きそう?」
「わ、わかんな……」
「じゃあ、気持ちいいか?」
「もう、ちゃんと触って……!」
「ちゃんとって、どんなふうに?」
「ううう……」
 今日の什三くんはいじわるだ。俺が恥ずかしがる様子を楽しんでいる。什三くんが楽しいなら、いいんだけど。
「かわいいなあ、タマは」
「も、もう今日、どうしたの……!」
「んー、そうだなあ」
 什三くんは今度は軽くキスをしてから、俺の耳元に顔を寄せた。
「かわいがってかわいがって、めちゃくちゃにしてえんだ」
「……ッ」
 そのまま耳朶を食まれて囁かれれば、什三くんの低音が響いて、彼を締め付けてしまった。
「ん……っ、タマ、緩めろ」
「だって、もぉ、やだ」
 奥が期待でひくつくんだ、乳首だって触られなくてもぴりぴりする。焦らされてたまらない。
「おねがい、じゅうぞうくん」
「っとによぉ……」
 そのまままた噛み付くようなキスをされる。咥内をまさぐられるみたいな乱暴なキスに夢中になれば、激しく突き上げられて声が漏れた。
「ひ……っあ! ん、う」
「そういうクソかわいい顔、絶対外ですんなよ」
 気づけば触らなくても完全に勃ち上がっていた俺の性器に什三くんが触れて、擦られる。こんなの、こんなふうになるの、什三くんだけだよ。
「前と後ろ、同時にされんのが好きなんだよな」
「っあ、あ、やぁ」
「やじゃないだろタマ、ほら」
「ん、うぅ、きもち、い……っじゅ、ぞくん」
「うん、きもちいーな」
 うわごとのように、『気持ちいい』を繰り返す。俺たちは、貪欲にそれを喰っていく。抽挿も性器を擦る手の動きも、どんどん激しくなっていく。耳元で吐かれた什三くんの吐息が空気を震わして、心臓が痛い。やっぱりこの感覚を表すなら、什三くんに殺されてしまうみたいだと言う他ない。
「……っすき、什三くん、好き……っ」
「オレも、タマ、すき」
 は、は、と荒い息を繰り返して、俺たちは射精した。俺のは什三くんの手の中に、什三くんのは、俺の中に。自分のものじゃない熱で奥がどんどん熱くなる。
「っは、ァ、……っはは」
「ん、ぁ」
「あーー、きもちいー……タマん中、もうオレのでいっぱいだわ、ほら」
 什三くんは楽しそうに腰を揺らして、わざと卑猥な音を立てて見せた。
「ぅ、今、うごかないで、ぇ」
「あー、かわい。後でちゃんと掻き出してやるかんな」
 ゆっくり抜かれた什三くんのものも俺のものもすっかり力はなくて、代わりに精液塗れになっていた。俺の後孔からもどろりと溢れてくるのがわかる。その液体が大腿を伝っていくのを、什三くんは嬉しそうに眺めていて、俺はそんな彼をぼーっとしながら見つめていた。もうダメだ、全然力が入んないや。頭も回んない。
「……もう俺の中、什三くんの形になっちゃってるね……」
「もうそういうのやめろ、さすがにこれ以上ヤったら明日マジで立てねえぞ」
「んん……」
 キスで口を塞がれてしまえば何も言えない。俺の陳腐な言葉さえ、彼に飲み込まれて溶けていく。そのまま全部食べてもらえたらいい。そうしてまたぐずぐずになるまで舐めて、溶かしてもらえたら、もっと深くまで分かり合える気がする。
 手を肩に伸ばして抱きついたら、什三くんはまた満足そうに息をついた。そういう顔、俺だって誰にも渡したくないよ。やさしい体温が急に愛おしく思えて、もう一度俺たちはキスをした。

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