act.3 (3/7)


「あ!ここ、僕がいつも遊んでる公園だ!」

声を上げたのは友樹。彼の見つめている映像には友樹意外の子ども達には見覚えのない公園だったが、友樹にとっては見覚えのある公園だったらしく、食い入るように見つめる。暫くその映像が流されると、次にはその公園に一人の女性が映り込んだ。

「ママだ!」

その言葉に、子ども達は友樹の見ている映像を見ようと集まる。
友樹のお母さんがどういう人なのか興味を惹かれたのだ。そして、映っている女性の姿を見て子ども達は関心した眼差しで見つめた。

「へぇ、友樹のお母さんて美人ね」
『友樹はきっと、お母さん似だね』
「ママ…」

友樹も、他の皆も、もう随分と自分の家族に会っていない。友樹はその会っていない月日が今友樹の家族に会いたいという気持ちと、帰りたいという気持ちが溢れ出していく。
雲が流れる。空の方の風が強く吹いたのか、月を覆っていた暑い雲は流れていき、テレビを映していた木はもうただの木となってしまい、友樹のお母さんを映していた木もまた映像を見せるのを止めた。

「ママァ!!」

『……、』

友樹のその悲しくて会いたくてたまらない叫び声は森の中に響いた。
伝説の闘士と崇められていても、そのデジモンに進化をしているのはただの普通の子ども。あんな映像を見せられてしまえば、皆が皆ホームシックになってしまうだろう。焚き火を前に、子ども達一人ひとり思い浮かばせる自分の家族の事。

「あたしのママも、心配してるだろうな…」

「友樹、元気出せ!ミートボール味すっげー旨いぞ!」
「うん…、」

落ち込んだ空気の中、拓也が自分の食べていたミートボール味の肉リンゴを友樹に差し出し、元気が出て貰うよう促す。友樹もそれを受け取ると頬を濡らしながらも一口頬張る。泉はその光景を見て、「まるで兄弟みたい」と呟く。拓也は確かに友樹を自分の弟のように思い関わっている。そこで思い出されるのは、あのおもちゃの街での出来事。思えば、拓也は友樹に気遣ってばかりだったな、と小さく笑った。

「輝ニもこっち来いよ!」
「俺は一人が好きなんだ」
「何だよその態度!気に入らねぇな!」
『一人が好き…』

自分の、父親も母親との喧嘩の時、そう言っていた。あの時は本当に好きなのかな、じゃあ何で今まで家族と一緒に暮らしていたんだろう、そう思っていた。どうして、あんな事言うんだろう。輝ニの姿を見るなり、結衣は少し困ったような表情をして見つめる。

「良いじゃないの、ねえねえ純平!得意の手品皆に見せてよ!」
「そんなの、出来んのか?」
『純平って意外と器用なんだね、』
「しょうがない、じゃあやるか」

渋々、だけど顔はちょっと嬉しそうだった。きっと泉に自分は手品が出来る事を褒められているように思えたからだ。純平は拓也達の前に立つとコホンと咳払いを一つしてみせた。

「いえーい!!」
「いいぞ!いいぞ!」
「ええ〜それでは皆さん、ご静粛に〜」

そこで始まった純平の手品ショー。最初は赤と水色のハンカチを一枚ずつ取り出し、それを両手で包み込むとそのままぐしゃぐしゃと丸める。すると、次に出てきたのは小さく沢山繋がったハンカチが出てきたのだ。
それを見ると子ども達はおお、と驚くような声を上げる。

「こんなの手品の初歩の初歩!元に戻すのなんて…ほらね!」
「す、すごすぎるぞい…」
「お前のポケット、何でも出てくるんだな!」
『チョコも入ってたよね確か!』

自分の近場でやって見せた純平の手品に歓喜の声を上げては、ボコモンは手品自体見るのが初めてらしく、どうなっているのか興味津々に見つめていた。
この世界での手品なんて、デジモン達の出す必殺技に比べたら小さな事だと思われるが、それでも子ども達はその事を忘れるくらいに盛り上がり、友樹も気付けば泣き顔からにこやかと笑顔になっていた。
そんな彼等と純平の手品を交互に見て一人離れた場所に居た輝ニは「手品よりよっぽど不思議だ」と小さく微笑みながら呟いた。

さあ、次の手品は何かと拓也が急かし、純平はそんなに出来ないと主張しつつ物が見つからないと焦る。
それには手品よりもっと面白かったのかもしれない。

すると、ひと笑いすると、友樹は一度拓也達から離れてまだ焼いている肉リンゴを取りに立ち上がった。

――ナイトメアシンドローム…

木の影から目だけを光らせたデジモンが口から何やら黒い靄のような物を吐きだし、友樹の体に絡みつくように這い上がると彼の耳にその靄は入り込む。
途端に、友樹の目は虚ろになっていき、持っていた肉リンゴを手放してしまった。






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