act.4 (4/6)


今晩、子ども達はこの村の中に潜んだ狼を倒す為村へと停泊する事に。
しかしこれはあくまで秘密時の事。他のシープモン達の前では建前で「ファングモンを倒してくれたお礼として村でおもてなししよう」という事になった。
それまで子ども達も何ら疑われる事なく、シープモン達のおもてなしを受けご馳走やら歓迎をされていた。

「あたしお風呂はいりたーい!」
「お風呂でしたら露天風呂が。そこのすぐ近くに温泉がありますので、どうぞぉ」

これだけ歓迎してくれるのなら、と泉が手を挙げて訴えれば案の定シープモンは用意してくれていたらしく、案内をしてくれた。
どうやら男性女性とちゃんと区切られていたらしく着替えの際は拓也達と別れた。

『気持ちー…』

御馳走を食べ終わった子ども達は改めて疲れて泥まみれになった体を癒し綺麗にする為、お風呂へと入浴。
冒険をして初めてのお風呂は、広々とした銭湯のような物。外も開放的だが、しっかりと覗き防止もされており、子ども達は満足していた。

「おい!飛び込むなよ!」
「固い事言うなよ〜」

「はぁ、お風呂ぐらい静かに入れないのかしら」
『拓也君らしいね』

純平や拓也の他にももちろん、友樹やボコモン、ネーモンの声が聞こえてくる。女の子は泉と結衣しかいない為、男の子の方よりかは静かに入浴を楽しんでいた。
満点の夜空を見上げならのお風呂。この村に来たのは偶然で、滞在する理由が理由なだけに気が休まらないと思われていたが、そうでもなくそれこそ聞こえてくるのは男子達の騒がしい声だったが、それでもこの雰囲気は悪くはなかった。

「…そういえば、結衣と二人で話すの初めてよね?」
『確かに…今までゆっくり話す機会なんて無かったもんね』

目を閉じて思い出されるのはこの世界に来てデジモン達と戦っていた様子。一人ずつスピリットを手に入れて、その戦っている姿を眺めているしかなかった結衣。正直、見ているだけはとても心苦しかったがこの世界に来てデジモンという物を知れて良かった事もあった。
だからこそ、こうして誰かとゆっくりと話をするのは初めてである。そう思うと妙に意識してしまい徐々に緊張が呼ぶと共に途端に居たたまれなくなる。そもそも、である。何度も言うがこの榎本結衣という少女は織本泉という少女が苦手なのである。
自分より綺麗な容姿に、物事をハッキリと言う性格彼女は素晴らしい女性とも言える。結衣が憧れてしまう存在でもあった。だからこそだろうか、苦手なのである。
このお風呂に入る流れになる時も、「あたしお風呂入りたいから入るけど結衣はどうする?」『なら私も入ろうかな』「ふぅん」という会話でやってきたのだ。
泉はどこか人に合わせられるのを苦手としているのだろう。その事にもう少し早く気付いて上げられれば良かったのだが、

『あの…泉ちゃんはイタリア語が話せるの?』
「え?」
『ほら、度々出て来る言葉。そよ風村でイタリア語の事話してたから』

何か話題をと思い出した事は、ここまで来るに至って彼女が時々口にしていた言葉の事だった。そよ風村ではとても美味しいという言葉をイタリア語で話していた。もしやと結衣が口にすれば隣で湯に浸かっていた泉は目を見開かせるも直ぐに瞼を伏せ「まぁね」と小さく呟いた。

「イタリアからの帰国子女なの」
「そうだったんだ!そっか、だからイタリア語が話せるんだね」

すごくかっこいい。と楽し気に笑う結衣は小さく拍手する。そんな彼女の姿に泉は横目で見るもすぐに逸らし背もたれに凭れかかる。
地雷を踏んでしまったのだろうか、泉の表情は晴れることはなく結衣は拍手するのを止めてしまい静かにお湯に浸かる。気に障る事を、言ってしまっただろうか。

「…あたし、他人に合わせるの苦手なの」
『え?』
「物事はハッキリ言うし、それが裏目に出るんでしょうね。気に食わないって、あたし学校では孤立してった」
『泉ちゃん、』

不意に語られる彼女の思わぬ過去。他人に合わせるのが苦手で、物事をハッキリ言う性格だとは思っていたが、それを理由に彼女はきっと学校で孤立していた。
何となく彼女の言いたい事は分かった。
結衣もまた、自分から離れていくのだろう。恐らく彼女はそう感じている筈。

「だからね、そう褒められた物じゃないのよ。あたしって」
『…私は皆に合わせてきた。今まで。でもこれからもそうだと思う。だからと言ってね、他人に合わせる事も合わせない事も正しいとは、思わないよ』
「え、?」
『合わせない方が楽だって思うかもだけど、…合わせる事もたまには良いと思うな。だって、一人で見つけた楽しい事や嬉しい事でも、皆と見つけた楽しい事や嬉しい事の方がもっとキラキラしてて素敵だなって思うもの』

あ、これはあくまで「私は」の意見だから皆が皆そうって訳じゃないよ?
慌てて訂正しては、自分を飲み込むお湯を眺めながら口を開く。

『でもね、自分の意思を持ってて、それを突き通す事が悪い事だとは思わないし、…寧ろ私からしたら、泉ちゃんはかっこいいよ』

自分を信じて自分を大切にして、誰かとぶつかる事があっても、己を突き通そうとする自信は結衣からしたらかっこよかった。目を細め泉へと顔を向ける。

『それに、泉ちゃん優しいよ。そよ風村ではフローラモンのお手伝いに一番先に何とかしなくちゃって発言してくれたり、私の事もマッシュモンから助けてくれた。コクワモンの時もいいよって助けようとしてた。』
「…そんなの、あたし一人だけでやる訳じゃなかったから、」
『そうかもしれないけど…。泉ちゃんはね、泉ちゃん自身も周りの人達も気付いてないだけで、沢山優しいよ』

泉の手を取り目元を緩めては小さく微笑む。そんな彼女の姿を見て泉は更に目を見開かせる。誰もそんな事を言ってくれた事なんて無かったし、泉自身聞こうとも思わなかっただろう。
何故自分の過去を話してくれたのかは結衣も泉自身も分からない状態だろう。しかし、話てくれたのなら、それに応えられる様に結衣もまた言葉を選んだ。
泉は一度顔を伏せるも、すぐに顔を上げて笑みを浮かべた。

「…ありがとう、結衣。あたし貴女の事勘違いしてたかもしれない。」
『?』
「周りに合わせて、自分の意見を持たないで流されるままのうじうじしたか弱い女の子だと思ってた」
『うっ、そこはハッキリ言わなくても…』

ぐさぐさと言葉の刃が刺さっていく結衣を側に、泉は小さく可笑しそうに笑っては「ごめんね?」と謝罪を口にしてから言葉を続けた。

「でも、違った。結衣は口にこそあまりしないけど、合わせる事もあるけど…ちゃんと強い意志を持った女の子だった。」

そして何より優しい。自分の目指すべき女の子像を結衣は持ち合わせていた。それは泉は口にこそはしなかったが、密かに結衣という少女を認めつつあった。
褒められてるのかなぁ、と結衣は複雑そうな顔をしてお湯に浸かっていたが、今の泉との関係は言われて気分は悪くはない。泉の中で何かが変わったのなら喜ばしい事である。
握っていた手を離し笑いあった後、次には泉はにたりと悪戯な笑みを浮かべた。

「ところで、結衣」
『ん?何?』
「結衣って、拓也と輝ニ君。どっちがタイプ?」
『…ん?……えぇっ!?』

拓也君と輝ニ君?何で今その二人が?!と泉の不意打ちのように来た問いかけに思わず目を見開く。目の前の泉はにまにまと口元を吊り上げており、どうなのどうなの?と興味津々に詰め寄ってくる。先程のしんみりとした空気とは一転した空気にお風呂の熱でか、それとも別の事でか結衣の顔は真っ赤に染まっていくのが本人でも分かる程…。
だが、対して泉ははぁ、と溜め息を吐き、

「まあどっちにしろ趣味悪いけどね」
『…あ、ははは…』

趣味悪い…のかな、二人って。と、泉のやれやれとお手上げと言わんばかりに呟く泉に苦笑の笑みを浮かべるしかなかった結衣。
拓也は単純バカで協調性のなっていない。輝ニは無愛想で気取っている。
泉の中では二人の印象はその二つで固まっていた。

『で、でも拓也君、リーダーみたいだよね。さっきも皆を引っ張ったりちゃんと皆の事考えてるし、戦ってる姿は本当にかっこいいよ』
「そう?買い被り過ぎじゃない結衣?」
『そ、そうかな』
「じゃあ輝二はどう思ってるの?」
『んー輝二君かぁ…』

なるべく言葉を選んで自分の中の印象を口にしたのだが、どうやら泉にはどれも当て嵌まらない様子。そこからは、泉の拓也と輝ニについて溜まっていた愚痴のお披露目となっていた。隣に拓也達居るのに大丈夫か?と思われたが、気付いたら男子風呂からは拓也の声は聞こえず純平の「俺の話しはないの泉ちゃん!」という声しかしなかった。

―――――…………
―――………

「……」

―でも拓也君、リーダーみたいだよね。さっきも皆を引っ張ったり、ちゃんと皆の事考えてるし、戦ってる姿は本当にかっこいいよ
―そう?買い被り過ぎじゃない結衣?
―そ、そうかな

「…かっこいいよ、か」

お風呂の中での女の子達の会話は聞こえていた。というより、聞こえていないフリをして、途中から抜け出していた。だけど、ちゃっかり自分に関しての話しは気になって聞いてしまったが、輝ニの話しになった瞬間、何故か聞きたくなくて直ぐに上がってしまったが。
正直泉の自分に対しての意見はもう聞かないフリをしたが、結衣のフォローの言葉であろう、自分に対してのプラス面を聞いて、歓喜してしまっている自分がいた。更にかっこいい、という言葉を聞いた瞬間、自分の顔に熱が集まるのを感じる。
そもそも拓也自身「かっこいい」という言葉は中々自分に向けられず、女の子に直接ではないが、影であんな風に思われてた事にどんどん羞恥を感じてしまう。そう、つまりは、

「照れてるの?拓也お兄ちゃん」
「んなぁぁああっ!?とと、ととと、ともッ!?」

不意に自分の思考とリンクして聞こえてきたのは自分の次に上がってきたのだろう友樹が拓也の背後に居るではないか。思わぬ登場に拓也は驚き過ぎて友樹の名前すらまともに言う事が出来ず、後ずさるだけ。そんな動揺を明らかに隠せていない拓也に友樹は思わず苦笑の笑みを浮かばせる。

「じゅ、純平は…?」
「あ、まだ入ってるよ。結衣さん達が上がるまで入ってるって言ってた」
「そ、そうか…結衣達がな、ふーん」

なら、話しの内容…純平に詳しく後で聞こうか、と密かに考え始める。別に、変な意味なんてない。自分の話しがされていたら気になるのがそもそも人間の性だろう。自分にそう言い聞かせるように、うんうんと頷いて見せる拓也。友樹は拓也のそんな姿に泉の話していた問いかけを拓也にぶつける事に。

「拓也お兄ちゃんは結衣さんが好きなの?」
「っぶ!」
「拓也お兄ちゃん!?」

恐らくシープモンの心遣いだろう、近くに置いてあったミルクを飲もうと口に含んだ瞬間、拓也は友樹の不意打ちのように来た問いかけに、ミルクを吹き出しそうになった。吹き出す事は無かったが、噎せてしまったらしく暫く咳き込んでいた。

「なな、何でそんな事…ッ、結衣は俺達の大事な仲間だ!す、好きとか…そんな事考えた事ねぇっていうか…」
「そ、そうなんだ…」

後半は小声になっていて聞こえづらかったが、好きというのを軽く否定しているように見える。だが、友樹は好きじゃない、という事にどこか違和感を覚えた。それは、今までの拓也の行動を見ていれば少し分かる。
初めてこのメンバーと顔を合わせた時、拓也は結衣を見た瞬間僅かに頬を染めていた。結衣を見守る目は、友樹を見つめる時とはまた違った、「特別な物を見る目」をしていた。それはきっと、結衣だけスピリットが無く戦えないから守ってあげなきゃ、というのもあるかもしれないが、拓也はきっと、結衣を守りたいから守っているのだろう。それがどういう想いで、どういう気持ちでそう思わざるを得ないのか本人にも分かっていないらしいが。

「あら、拓也達上がってたのね」
『早いね』
「あ、泉さんに結衣さん!」
「え?!」

ふと、背後から足音。そちらを向けば泉と結衣が少し火照った顔でこちらに集まってくるではないか。友樹が二人の名前を呼べば拓也は分かりやすく大袈裟に驚いてくれた事に友樹は困ったように微笑むしかなかった。
そして何より今正に話題にしていた結衣を見た所為か、再び顔を赤くしていく拓也。

「な、何よ。そんなに驚く事ないでしょ」
『大丈夫拓也君?顔、赤いよ?のぼせた?』
「え、あ、いや…!何でもない!そ、それより純平達は?」
「純平?ああ、」

多分のぼせてるんじゃないかしら、と平然と言って見せる泉の言葉により友樹と拓也は急いで男子風呂へと直行した。そして、そこにはボコモンとネーモンが一生懸命に純平を湯船から出そうと必死になっているのが見られたそうだ。





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