エピローグ (2/3)


拓也は学んだ。みんなの勇気を、みんなの優しさを。そして今、家族の温もりを。

人と合わせる事が最初は嫌いだった泉。けれど今はみんなと一緒にいる事が愛おしくて仕方ない。

今はみんなの気持ちが分かる。純平自身は今、みんなの中にいる。みんなと共に居る。

自分の母親になってくれた人を初めて「母さん」と呼べた。もう一人ではない、輝二は輝一と共に歩んでいく。

自分の幸せは、母の幸せ輝一はもう一人じゃない。輝二と共に歩んでいく。

もう泣かない。友樹の中には勇気がある。兄や拓也達に貰った大切な勇気が。


それぞれが自身の抱えていた問題と向き合い、未完成で不完全だった物が少しずつ形になっていた。
それは一人では決して見つけられなかった物。それは、仲間がいた事で見つけられた事。

そして、この二人の姉弟もまたそうだった。

『忘れ物はない?ハンカチは?』
「もう!お姉ちゃん大丈夫だって言ってるじゃん!」
『そんな事言ったって…最終チェックは?』
「今朝何度もしたってばぁ…!」

朝、アパートの前で並ぶ四つの影。
大きい荷物を背負い、母と隣に並ぶ小さな影へ執拗に確認を取るは少し背の高い影。すれ違う人たちはさぞ微笑ましい光景に思えるだろう。
これが本人たちにとって、最後になるであろう姉弟喧嘩ともなる事も。最後になるであろう「家族」としての姿になる事も。
誰も予想はしていないだろう。

母と弟が帰宅後、結衣は改めて父と暮らす事を選びそれを母とそして父にも告げた。
「俺の事は気にしなくてもいいんだぞ」と父。
「私も着いて来てほしいな」と母。
けれど、決心していた結衣はそれを曲げる事は無かった。

その日の夜は、別々のベッドで寝ていた悠太と一緒に寝た。
2人して、迫る別れに涙を流しながら――

『…寝ぐせは、よし。大丈夫』
「んもう!お姉ちゃん!」
「…ふふ、結衣も。ここが跳ねてる」
『あれ、…あはは、やらかした』
「やーい!」
『こら悠太!』

からかう弟に拗ねる様に軽く注意をすれば、母が触れたであろう髪に軽く触れる。
もう大丈夫だと笑う母に、安心したように頬を緩ませれば小さく頷く。

『…じゃあ悠太、お母さんの事お願いね。』
「!…うん、任せて!」

踵を返し母と共に元気よく返事をし背を向ける悠太。去り際に見えた小さな光はきっと彼が最後に見せる涙と笑顔なのだろう。
大丈夫。悠太なら上手くやっていける。
そんな淡い希望を抱き、手を振り返した。

「それじゃ、俺も仕事に行くな」
『うんっ、行ってらっしゃい!』

別の方へ踵を返す父の背中。その背中を見て以前よりも元気よく見送り出した。
結衣もまたランドセルを背負い直し、足を一歩踏み出した所で思い出したように「あっ」と声を上げれば再度父へと振り返る。

『お父さん!家事は当番制だからねー!!』

少し離れた父の背中に投げかける言葉。その言葉は届いていたのか、父はその腕を軽く挙げた。
よし、と拳を作り密にガッツポーズをすれば自分もまた学校があると父とはまた別の方へと足を踏み出し見えた友の姿を見て笑みを浮かべた。
そして――

『ヒカリちゃん!おはよう!』

赤いランドセルを背負う少女が驚いた表情になりながら振り向く。
そして、少し間を置いて笑みを浮かべだ。

「おはよう、結衣ちゃん!」



かつて未完成だった自分を恥じていた少女がいた。
いつまでも完成しないのは自分のせいだと、自分を押し殺し闇の中で必死に完成する事だけを望んでいた。

そんなある日、彼女は選択を迫られた。
それは彼女にしか変えられない未来への選択。

数々の困難が彼女の前に立ちはだかり、何度もめげそうになっただろう。何度も諦めかけただろう。
けれど、そんな時自分を支えてくれたのは、そんな自分を照らしてくれていたのはいつだって傍にいてくれる存在だった。
延々と闇しかなかったその道に、選択肢に光が差した。

――光を差した事で闇だと思い込んでいたそれらは、ただ広がる夜空なのだと気付いた。

白み出した星空は徐々に前を照らす。
そしてようやく気付いたのだ。
未完成だからこそ広がる可能性の無限大に。
完成ではなかったからこそ見つけられる答えに。
一人では決して見つけられなかっただろう答え。一人ではなかったから、答えに辿り着けたのだろう。


――私たちは、巡り逢いそしてここに全てが始まった


昇る太陽を目指して未完成な開拓者は最前線を目指し、今日も可能性を選択する。


それは、とある少女が歩んできた物語であり奇跡である――



END




×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -