act.3 (3/6)




「やったやったぁ!あのファングモンがいなくなったぁ!」
「ありがとうございますぅ!伝説の闘士の方々!」

ファングモンの襲撃が見事アグニモン達の勝利と分かると、隠れていたシープモンや避難していたシープモン達が村に戻ってきて喜びの歓声を上げていく。
アグニモン達もまた、ファングモンを倒した事により元の人間の子どもの姿に戻り、此方へと戻ってくる。戻ってくる拓也達の周りにすかさずシープモン達が集まっていき、すごい凄いと褒め称えるシープモンの素直なお礼に各々照れ臭そうに頬を掻いていた。

「いいっていいって、けどもう少し早ければ犠牲は出なかったのにな、」
「一人食べられちゃってたね…」
「いえ、これ以上犠牲が無くて良かったですぅ。貴方がたは私たちの命の恩人ですぅ」
「人助けならぬデジモン助けは当然の事だぜ!」
「純平ったら、デジモンに進化出来る様になってから積極的ね?」

『――、』

何故か、目の前の光景は見ていられず呆然と見つめる。
まるで画面の外からその景色をぼうっと流し見ている様な、そんな感覚に襲われるのもきっと、自分が除け者の様だと自分で罵っているからだろうか。あまりにも居たたまれない光景に、結衣は思わず持っていたデジヴァイスをポケットの奥底に仕舞う。最初から持っていなかったと言わんばかりにぐいぐいと奥に仕舞って行く中、そんな彼女の前にザっと誰かが近づいた。
そして、

「結衣達もシープモンの避難ありがとなっ」
『拓也君、』
「お前達のお蔭で俺たちは広々と戦えたんだ。助かったよ」

お前のお蔭で。彼は少し照れたように、そう口にした。
まるで自分も役に立っていたとそう言ってくれたような、そんな感覚に自然と結衣の内側にあったドス黒いもやもやがほんの少しでも晴れていく気がしていた。
結衣という人間もこの戦いでは必要だった。その事実に、少しでも結衣は笑みを浮かべる元気が溢れた。

『拓也君たちも無事で良かった、あのデジモン手強そうだったのに。』
「あーまぁ、一人じゃなかったからなっ」
『心強いね、でも無理しないで。皆戦い通しだったし』

上手く、笑えているだろうか。心配は心配だったのだ。
傷つくのが自分ではなく、こうして自分を気にかけてくれる仲間たちというのが。
何より、彼らのお荷物になるのが何より嫌だったのだ。
心配されている、と拓也は察したのか少し照れ臭そうに頬を掻きながら「おう!」と元気よく返事をして見せた。

ピピッ、ピピッ、

「ん…?」

ふと、拓也のデジヴァイスに反応があったらしく、電子音がその場に響く。何事かと、子ども達が拓也の周りに集まり、集まってきた所で拓也もまた自分のデジヴァイスのボタンを押した。
するとたちまちデジヴァイスからデジコードが溢れ、先程途切れてしまっていた線路が現れだした。

「ふむ、どうやらファングモンがあそこのデジコードを食べていたようじゃな」
「本当にありがとうございましたぁ、あそこの線路が無くなってしまったせいで、トレイルモンも通らずファングモンが私たちを狙いに来やすくなってたのですぅ」
「狙いに来やすくって…今までずっと狙われてたって事?」
「はい、ファングモンにとって私たちシープモンは好物なのでしょう、毎日の様に仲間たちが食べられておりましたぁ」
「「「「ま、毎日ぃ!?」」」」

シープモンから語られるその衝撃的な話に、子ども達は思わず声を揃えて驚きを表す。しかしその対象にシープモンは何故かみんなおっとりとした口調で語る故に、更に困惑を呼ぶ。

『そ、そんなに襲われてて…何でこの村を離れないの?』
「何せ逃げるにも私たちは足が遅く…」
「技も相手を眠らせる技のみなのですぅ…」
「それにこの村には思入れがあるのですぅ。簡単に離れられません」
「そんな事情が…」

まるで檻の中で飼育されている羊の様な扱い。子ども達はあまりにも悲惨過ぎる生活を送るシープモン達に同情した。
弱肉強食とは言うが、これではあまりにも理不尽なのでは、と。
恐らくトレイルモンが少しでも通っていればシープモン達もまだ平和に暮らせていたのだろう。

「ま、まぁ線路も元に戻ったし、そのファングモンも俺たちが倒したからこれからは平和な毎日を暮らせるだろ」
「…だと良いのですがぁ、」
「何かまだ問題があるのかよ?」

歯切りの悪いシープモンの言葉に、純平が腰に手を当てながら尋ねる。
するとシープモンは傍にいるシープモン同士顔を見合わせると、困惑の表情を浮かべたまま子ども達を見上げた。

「ここでは少しお話しづらいので、此方へ…」

そして、その表情のままその言葉を口にした。説明しにくい事、なのだろうか。子ども達もまた子ども達同士顔を見合わせるなり一匹のシープモンのその後を追って行った。
そんな子ども達の後ろ姿をシープモン達はただ見守っていた。

―――――――………
――――………

「で、移動した訳だけど…」
「あの場から移動しなきゃいけなくなる程の話って?」
「…実は、この村にはもう一匹――ファングモンが潜んでるのですぅ」
「「「「『え!?』」」」」

とあるシープモンの民家。そこでシープモンはその重い口を開き、更に衝撃的な真実を話す。
勿論その真実に子ども達は驚かない訳もなく、声を揃えて驚きを表せばシープモンに「しぃーっ!」と静かにするように指摘をされる。
その指摘に子ども達はハッと我に返り自分の口を自分の手で塞ぐ。何の為にこのシープモンは場所を移動してまで話をしているのだと理解すれば息を潜める。

『…どうしてそう思うの?』
「…一週間ほど前です。トレイルモンが我々と同じシープモンを連れてきました。どうやら引っ越しに来たようで、我々は快く受け入れました。その次の日、トレイルモンの線路が消えました。
そして、その線路が消えた日の夜。我々の村にやってきたシープモンが食べられた瞬間を見たという情報がありました。」

ファングモンというデジモンに食べられてしまった他所のシープモン。
村の長である私は至急シープモン達を集め、何か情報は無いかと共有しようとしました。
しかし、得られた情報は他所のシープモンは夜に食べられてしまったというだけ。
そして――

「その日の夜を境に、毎晩毎晩、シープモンが二匹づつ消えていきました。その度に会議を開き、消えていったシープモン達の関係性等を調べ、もしかしたらこの村に、シープモン達の中に、ファングモンが紛れ込んでいるのでは、と結論づいたのです」
「まるで人狼ゲームだな…」
「人狼ゲームって?」

それも現実味のある人狼ゲームである。リアル人狼ゲームとでも言うべきか。しかし、人狼ゲームの意味が分からなかったのか、友樹(と同じく分からなかったであろう拓也と泉)が純平に首を傾げながら見上げた。
その様子に純平は苦笑を浮かべると同時に、どこか年上で今後輩たちに頼られていると誇らしげになっていた。

「ふふん、人狼ゲームってのは市民側と人狼側に分かれて、市民側に扮して人間を滅ぼそうとする人狼を会話の中で推理して、処刑することで平和を守るゲームだよ」
「…もっと砕いて言うと」
「がくっ」

どうやら説明が上手く彼らの頭に入っていかなかったのか、誇らしげに胸を張りながら説明をしたにも関わらず拓也のその理解出来なかったという言葉に、思わず項垂れる。
その様子に苦笑しつつ今度は結衣が口を開いた。

『要するに、裁判ゲームみたいな物だよ。この中に犯人がいる、だけど誰か分からないから一人ひとりの台詞から違和感や矛盾を指摘して犯人を見つけるっていう。それが狼側と人間になったってだけ。テーブルゲームRPGって呼ばれてるよ』
「つまりその潜んでいる狼を見つけて、追放とかするの?」
「人間って怖いゲームするね」
「恐ろしいわい…」
「いや、ゲームだから。リアルにやらないから。」

噛み砕いた説明で漸く事の重大さに気付いたのか、ボコモンとネーモンは子ども達を恐ろしい物を見る様な目で見る。
すかさず純平も否定をするも、妙なゲームを思いついたのも人間故に二匹はそれでもその目を止めなかった。

「なるほどねぇ、じゃあつまり今のシープモン達は…」
『裁判の最中…ううん。一匹やっと吊れたって事でいいのかな?』
「はい、そういう訳なんですぅ…」
「え、なになにどういう事?」
『つまり、』

拓也君達が戦っていたファングモンはこの村の中に潜んでいたシープモンの内の一匹だったという事。

「我々シープモン達の情報を整理した際に、一匹だけ妙な行動をとっていたシープモンがおりまして…貴方がそうなのでは?と暴いた所、やはり当たっておりましたぁ。」
「ひぇ…何このサスペンスドラマ…」
「本当にこういう事あるのね…」

おぞましい悪寒。自分達は実際にこの瞬間に居たのだと察すれば一同顔を青ざめる。
更にこの村にはまだもう一匹潜んでいると言うではないか。
その中へ、自分達は足を踏み入れてしまい、何よりファングモンから狙われてしまう立場に立ってしまった。

「伝説を受け継ぎし子ども達よ、どうか私のお願いを聞いてもらえないでしょうかぁ…」
「…と、言うと?」
「…今晩、また狙われてしまうであろうシープモンの為に…この村の為に、助けてくださいまし!我々は力が弱く、何卒…!」

目の前のシープモンが深々と頭を下げる。
その様子に、拓也達は困惑の表情を浮かべながら仲間たちと顔を見合わせる。
確かに彼らは力が弱い所か、逃げる事も難しそうなデジモン。一匹のファングモンを倒した所で、自分達は逃れられない運命だったのだろう、渋々子ども達は頷いた。

「今晩で片を付けよう。この人狼ゲームを」

目の前のシープモンは嬉しそうに笑みを浮かべた。





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