act.1 (1/7)



灼熱の炎を浴びて無事でいられたのか――それは否。
瓦礫の上で体を打ち付け、意識は一度闇の中。そんな中、体中に響く激痛が走り脊髄反射で呻き声が出てしまう。
手足を動かすのすら億劫になる中、視界が開けていく。そしてまず見えた光景は自分の体を這う様に漂うデジコード。一目でこれは自分の体から出ている物なのだと理解出来た。これが、人間のデジコードなのか、と場に似合わずそんな事を考えてしまう。

「――拓也はーん!どこにおるんやぁー!」

ふと、そんなボコモンの呼ぶ声が聞こえた。デジタルワールドで待っている筈の声。彼らは子ども達を追いかけてきたのか、と身を捩りながら起き上がる。
辺りを見渡してみれば、あちこちに子ども達の力尽きて転がる姿に、そんな彼らのデジコードが浮かび上がっていた。
ボコモンの声を聞き、他の子ども達も目が覚めたのか徐々に起き上がり手を取り合いながら起き上がれば浮かんでいたデジコードは消えていった。

「お姉ちゃん…、」
『大丈夫?悠太…』
「うん…ボクたち、負けちゃったの…?」

小さな体を姉に支えて貰いながら起こす悠太のその瞳は哀しみに暮れていた。
その瞳に、その言葉に、事の重大さを思い知らされた。
結衣はその問いかけに何も答えられず瞼を伏せ、ふと顔を上げる。
大きく天井に穴が開いたそこは先程ルーチェモンを追って入った場所。その道中で強力過ぎる技を食らってしまい、こうしてボロボロな姿にさせられた。
ルーチェモンは今頃…そう思考が過った時、予知をした様にその穴から何かが落ちて来るのが見えた。

大きな音を立て、砂埃を立てながら瓦礫の中に落ちてきたそれは、よく目に見覚えがあった。
形は歪み崩れてはいるが、これは――

「エレベーター…?」

子ども達が誰もが乗り込んだ事のある物。

「まさか、もうルーチェモンは人間界へ…!?」

自分達が一瞬の気絶をしている中、ルーチェモンはそのまま人間界へ突き進んでいた。
悔し気な表情を浮かべ、作った握り拳を強く握った後その手を開きデジコードを宿す。
進化をしようとしている。ボロボロの体で、体の節々が痛むのは誰でも同じなのに、彼はそのデジコードをスキャンしようとデジヴァイスを構える。

それを、誰よりも早く輝二が彼の手を掴み制止した。

「無茶するな!」
「でもっ!」
「思い出せ、奴は不死身だ」
「不死身…。」

その言葉で、拓也はつい先程までの戦いを思い出す。
ダブル進化をした輝二と拓也の攻撃も、全員が力を合わせて放った合体技も、ルーチェモンは勢いを止める事なく、攻撃を受けた個所は再生した。

「そう、奴は不死身だった…。」
「どんなにダメージを与えてもすぐに治ってしまう…」
「奴は、不死身…」

もう一度、ルーチェモンに追いついたとしても――現状のままであれば到底敵う筈がない。
拓也の中の炎が、徐々に弱くなっていく。

「でももう一度スサノオモンになれば勝てるんじゃない?」
「バカモン!容易く奇跡は起こるモンじゃないわい!」

バチンッとネーモンの腹パッチンが響く中、拓也の肩が落ちたのが目に見えた。

「奇跡は、起きない…っもう、…!」
『拓也、』

するりと輝二の手から拓也の腕がすり抜ける。
瓦礫の中、覚束ない足取りでふらふらと先程落ちてきたエレベーターの所まで歩みを進めていく拓也。

彼の中の炎が鎮火してしまった今、何て声を掛ければ良いのか分からなくなる。
こんな弱々しい背中を見るのはいつぶりなのか、結衣も思わず強く拳を握る。
拓也は、エレベーターへ自身の両手を押し付け項垂れる。

「俺は…俺たちは何の為に呼ばれたんだ…!デジタルワールドを救う為だ!!なのに何も出来ない…!」

拓也の手からデジヴァイスが落とされる。
自身の頭を、そのエレベーターへと打ち付けた。エレベーターは、微動だにせずその崩れた姿のまま拓也の前に立ちはだかる。

「こんな屑鉄さえ、動かすことも…!」

「俺達は、十二闘士のスピリットと共にここまで来たのに…!」

「デジタルワールドも!!そして人間界も、ただ一つでさえ救うことが出来ないんだ…!!一つでさえ…」

声も体も震え、彼の背負っていたプレッシャーが今重く重く、圧し掛かった。
背負いすぎた、リーダーの姿。

「自分を責めるのはやめるんじゃマキ…。もうようやってくれた…。だからもう…っ」
「嫌だ!俺は、そんなの…嫌だ!そんなの…っ」

よくやった、褒められるものなのかは分からない、しかし自分達は今まで頑張ったとも言える。
デジタルワールドのデジコードを取り戻す為に悪の四闘士とケルビモンを倒した。
デジコードを奪い続けるロイヤルナイツに勝てた。
無理だと、帰れと言われたけれどそれを拒んだ。
輝一という犠牲も出して究極進化になれ、ルーチェモンを一度倒した。
しかし、状況は全くと言って良い程変わってくれず――こうして望んでいない結末に変わった。

これを見ても、よくやったと言われてもその言葉に救われたくはない。

救われてしまった時点で、自分達は本当に敗北し絶望する。
この先に待ち受ける展開にも、目を瞑らなくてはならない。
傷つく友人や家族たち、壊れていく世界を――

ぽたりと彼の落としたデジヴァイスに、何かが落ちて弾く。
それは彼が流した悔しさの涙だろうか。痛々しい姿に、喉の奥がつっかえていき釣られて目頭が熱くなり始めた時――子ども達は奇跡を再び目の当たりにした。

≪押して見ろ、拓也。力いっぱい≫

拓也の背後へと現れたその影。微かな光を灯しながら現したその姿は随分と見覚えがある。
今までずっと一緒に戦ってくれた仲間の背中の姿。彼が、共に戦った戦友の姿。





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