act.1 (1/3)



残るエリアは3つ。残るエリアである光のエリアと時のエリアは共にどこにデータが隠されているか謎とされているらしい。
だとしたら、ロイヤルナイツが狙いに来るとしたら、まだ入手が簡易的な――ここ、氷のエリア。
子ども達はそう推測を立てると、急いでそのまま氷のエリアへと向かい、氷のエリアの中心であるアキバマーケットの真下にあるデータを守る為、各々作戦を立てた。

ナノモンとセピックモンに協力を申し込み、拓也と輝二、輝一、友樹は雪原でロイヤルナイツの現在位置の確認。
友樹はナノモンとトーカンモン達と一緒に、雪玉を投げる装置を製作。大きな雪玉をロイヤルナイツにぶつける為の機械。何もしないで見ているだけでは、友樹自身も嫌だと感じ始めており自分から動き始めた。
泉、結衣、悠太、ボコモン、ネーモンはターミナルで並ぶトレイルモンへアキバマーケットに来ていたデジモン達を順番に避難させる為に声かけをしている。
純平はこの町が実は動く事が出来るという事実を元に、アキバマーケットの建物を地面事動かし、地層を変え下にあるデジコードをバラバラにさせロイヤルナイツのデータ回収を防いだり時間を稼いだりしようという訳だった。

純平はコクワモン達の村で、大きな機械を動かすのに慣れていたり、船作りやロケット作りの際本格的な図解を自分で書いていた。そんな彼が地形を動かす役目を担うのは妥当であり、純平も自らやるよと名乗り出てくれていた。

『貴方で最後ですね』

デジモン達の避難と誘導に忙しなく動く足は、自分の手を掴むデジモンで漸く止めた。
ターミナルまで、そのデジモンに合わせて急ぎつつそれでもゆっくりと歩いていき、街も動き出す。
どうやら動き出したようだ。それを横目に確認出来れば、自分の手を掴むデジモンの手の握力が強まった。

「あんさん達、元気でやってたんだねぇ」
『え?』
「ほら、ババモンの館。覚えとらんか?」
『…っあ、あの時の!』
「どうやら抱えていた悩みは消えている様だねぇ」

見た事のあるデジモンだと思っていたが、この世界は意外と広い。と同時に似ているデジモンや個体は違うけれど同じデジモンもいる。ババモンというデジモンを知らない訳ではないが、どうやらこのババモンは、かつて結衣が友樹と共に時の獣型スピリットを探す際にウィッチモンが乗っ取っていた出店のデジモンだった。
それを思い出して見せれば、ババモンは口元を緩める。抱えていた悩み―――ババモンの口から出てきた言葉に目を見張る。

「一目見て、あんさんが悩んでますって顔、してたからねぇ。でも、その心配もいらない訳だ。」
『…あの時、気付いてたんですね』
「人間ってのは分かりやすい作りしてるみたいだからね。誘導ありがとうさん、後は大丈夫さね。…頑張るんだよ」
『…はいっ』

思い出される、あの時の情景。
あの時の思い出は決して良い思い出ばかりではないが、こうして手元にはヴィータモンのスピリットがあり、時のスピリットは拓也達の力になっている。
それを見て、あの時の悩みは消えているのだとババモンも悟ったのだろう。ババモンは結衣から手を離し列へと並ぶ。

向こう側の車線では、丁度ケトルが発進する所。よく見たらケトルの体に張り付くデジモン達も見られたが、それも生き伸びたいと起こした行動だろう。止めはしなかったが、自己責任という所か。
列を崩すワーガルルモン黒と、ドッグモンに泉が注意の言葉を掛ける姿が見られた。怯えた表情で縋るような目を向けるその二匹のデジモンはトレイルモンレースの時とは考えられないが、泉とボコモンの励ましにより、何とか列へと戻って行く。

「こっちも満員!発進するよー!」

悠太の声かけにより、此方側のホームにいたトレイルモンが発進し始める。
それを見てこちらも列が進む様に誘導を行う。
全員が乗れる様に。この繰り返しをひたすら行っていた。

――――――…………
――――………

トレイルモンも徐々に減っていき、一台になった頃残るデジモンは拓也や友樹たちの手伝いをしてくれているナノモン、セピックモン、トーカンモン達となった。
結衣達はデジコードをバラバラにし終えた純平と合流し、雪原で子ども達の手伝いをしてくれていたデジモン達を呼ぶ為、一度その場を離れた。

「おーい」
「あと残ってるのは、アンタ達だけよー!」
「そうか、こっちももう直ぐ終わる」
「急ぐじゃハラ!」

随分と設計図通りに出来ている物を見て、早い内に完成しそうな機械。これも協力してくれたトーカンモン達と、ナノモンのお蔭だろう。
良かったね。結衣は泣きじゃくる友樹の姿をふと思い出した。トーカンモン達に騙されて丁度ここで泣きじゃくる友樹を抱きしめた。あれ以来――友樹の涙は見なくなった。
強くなったのだ、友樹も。
トーカンモン達とも敵として対立した時もあったが、不思議と今はこうして協力し合う関係になれていた。それも友樹の勇気のお蔭だろう。

「…おや?」
「どうしたんだ?」

空を見上げ、何かを見ていたセピックモン。どうやら彼の持っていたブーメランで離れた場所でも様子を見る事が出来るらしく、そのブーメランでロイヤルナイツの行動を眺めているらしい。
そこでずっと見ていたセピックモンが不思議そうな声を上げ、すかさず拓也が尋ねる。

「何かが…ロイヤルナイツに…」

ブーメランを通して、セピックモンの目に映る光景――
ロイヤルナイツの目の前に何やら幾つかの影が現れた。

「向かってくる、」
「何かって?」
「ええっと…、デジモン…何体かデジモン達が向かってきた」
『どうしたの?』
「…ロイヤルナイツに向かうデジモン達がいるたしい」
『!…ロイヤルナイツの仲間なの?』
「それは分からない」

緊迫した様子に、結衣が拓也達に尋ねれば拓也はセピックモンの言葉をそのまま答える。
ロイヤルナイツに向かってくるデジモン。仲間だとしたら分が悪い、ただでさえロイヤルナイツで手を焼いていると言うのにこれ以上仲間が何体も増えるとしたら、流石にバラバラにしたデータも水の泡となってしまう。

しかし、次に出たセピックモンの言葉に、更に目を見開かせた。

「あ…ロイヤルナイツと戦う気だ!」
「え!?」
「無茶だ!」
「助けに行こう!」

ロイヤルナイツの仲間ではない事実は分かったが、それでもそのロイヤルナイツと戦うのはあまりにも無謀過ぎる。
そのデジモン達の強さを軽んじている訳ではない。しかし、ロイヤルナイツに関わったデジモン達のほとんどは、タマゴにされてしまっている。
伝説の闘士のスピリットを集めた拓也と輝二ですら苦戦し、何度も負け続けている。その立ち向かうデジモン達が敵う筈は――
結衣達は慌ててデジヴァイスを取り出し、それぞれスピリットを二人に託した。

「ハイパースピリットエボリューション!――カイゼルグレイモン!」
「ハイパースピリットエボリューション!――マグナガルルモン!」
「みんなは守りを固めてくれ。」
「ああ!」
「ナノモンたちの避難も頼む。」
「任せて!」

二人の支持に、誰もが頷きそれを見届けた二人は颯爽とセピックモンの見上げる方へと飛行。
飛んで行く二人の小さくなる背中を見送った後、子ども達は顔を見合わせた。

「じゃあ、ナノモン、セピックモン、トーカンモン達!駅に行きましょう!」
「頑張って!」
「負けんなよ!」
「すまねぇな…!」
「頼んだぞ!」

『友樹たちは雪玉の作成を。なるべく多めに作って、拓也達の補助をしよう』
「「あぁ/うん!」」

残る子ども達に励ましの声を掛けていくデジモン達。泉を先頭に、デジモン達は駆け出し最後を結衣が追い、駅まで彼らを見送る。

「――君たちの死は決して無駄にはしないよ。マイフレンズ」
『――、』
「っさ、乗って乗って!」

駅に辿り着き、順番にデジモン達が乗っていく際、セピックモンがぽつりと慈しむ様にそう言葉を漏らした。
その言葉が聞こえてしまった結衣はぴくりと肩を跳ねさせる。空を見上げるセピックモンを泉が押し込み、トレイルモンに乗せてしまえばそのまま発進。

恐らく、先程ロイヤルナイツに向かって行ったデジモン達の大半がやられてしまった。
それだけだった。セピックモンが教えてくれた情報からまだ数分しか経っていない程に、ロイヤルナイツの力は、強力な物だったと語っていた。
結衣は空を見上げ、タマゴになってしまったであろうデジモン達の為、静かに手を組む。
ありがとう。顔も姿も知らないデジモン達。共に戦おうとしてくれて、ありがとう。

「ふぅ、…結衣」

見知った顔しか残らなくなった頃、トレイルモンの後ろ姿を見送った泉はふと結衣の姿を見ては眉を下げる。
泉は決してセピックモンの言葉が聞こえなかった訳でも、セピックモンの言葉の意味を分からなかった訳ではない。だからこそ、こうして結衣の表情を見て遅れてショックを受けている訳だが…。

「戻りましょう、結衣。あたし達に出来る事、やりに」
『うん。…大丈夫だよ、泉。そんなに心配しないで。…慣れた訳じゃないし、未だにショックは受けるけど。前みたいにうじうじしない、もう弱いまんまの私じゃないよ』
「結衣…。何言ってんのよ、ずっと結衣は強いわよ。――あたしが、憧れるくらいなんだから」
『えっ、それって…』
「ほ、ほら!行くわよ結衣!」
『あ、ま、待ってよ泉!』

ほんのり染まった頬は、照れ隠しの様に長い金髪の髪が風に靡くのと同時に隠していく。
それでも、耳までは隠せなかったようで結衣はほんの少しだけ、彼女に心が救われたのだった。






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