act.4 (4/4)


暗い洞窟の中での探索。最初の内は目があまり慣れず視界も狭く堂々と歩けなかったものの、段々慣れてきたらしく結衣の歩く速度も輝二に合わせられる様に速くなってきた。その間も輝ニは何も言わなかったものの、彼なりの配慮は少しあったのか少女に合わせて休憩を挟んだり等をしていた。会話なんて物は二人の間にはなく、その後もこれといった会話もなく進んでいれば、目の前には格子。その格子の奥にはとある大きな空間が見えた。

『行き止まり…来た道戻る?』
「…いや、この程度なら開けられる」
『えっ、開けられるって』

どうやって、と尋ねる前に彼はもう行動を起こしていた。片足を振り上げると同時にその格子を蹴り上げる。どうやらこの格子を蹴る力で無理やりこじ開けようと言うのだろう。
意外と行動力がある輝二の姿に唖然としていれば、何度目かの蹴りによりその格子は外れた。

「ここは…」

格子の先には予想より広い空間。ホールの様な場所みたいに広く、輝二の呟きですら少し響いて聞こえる。

『…ここから外に出られるかな?』
「さぁな」

洞窟の中での間しか一緒にいなかったが、輝ニの素っ気ない返事にも早くも慣れてきた結衣は苦笑気味に笑う。
ここは一体どういう場所なのだろうか、と状況把握をしようとする中段々どこからか爆発音と誰かの叫び声がこのホールに響きだしていた。

「「助けてぇえええええっ!!」」
『え、あれって…純平君と友樹君…?』

やっぱりここに居たんだ!と喜びの声を上げたかったが、二人の様子が可笑しい。まるで何かから逃げている様な叫び声に二人のボロボロの姿。まさか、またケルベロモンみたいなデジモンが二人を襲っているのだろうか、と嫌な予感。そしてその予想が当たってしまったのか、彼等の後からはこの街に初めて来た時、駅で子ども達を珍しそうに見ていた目付きの悪いデジモン達が数匹で二人を追い駆けていた。

『あ、あのデジモンは駅にいた…でも襲われてるんだ!助けなきゃ…!あの人達なの、人探しっていうの!』
「…行くぞ」
『え、行くってどうやって…』

輝ニの行くという表現は恐らく純平と友樹の方に助けに行くという事で当たっていると思われる。そもそも行くとしても自分の足場は円形に作られているホールの作りのせいかもう足場という足場は殆どない。あるとしたら目の前にある一本の細長い柱だろう。
いや、まさかそんな…過った思考に自分でも思わず苦笑する。しかし、そのまさかは十中八九間違ってはいなかった。
輝二はちらりと結衣を見るもすぐに視線を外し次の瞬間、近くにあった柱へと飛びつき下へと降りていった。

「止めろー!!」
『う、うそ…!?』

本当に行った。行ってしまった。輝二は柱を使い下へと降りていく。先ほどから行動力のお化けである。その姿に唖然とするが、彼の言う行き方以外は後退るしかない。また洞窟の中へと行くのには躊躇する。せっかく二人を見つけたのに引き返す訳にはいかない。
涙目になりながらも、彼がした様に…とはいかず、軽く飛躍してはホールの斜面を利用し滑り落ちながら自分もまた下へと下った。
何とか着地をして見せ、それを見届けた輝二はふっと小さく笑った。

「ただの怖がりではないんだな」
『ふ、二人が襲われてるのに、あんな所でめそめそ出来ないからねっ』

最早自分でも分かる程に開き直りである。一瞬見えた彼の微笑みに見惚れかけるも再度聞こえてきた二人の叫び声に我に返る。輝二もまた其方を気にしつつ今二人で降りてきた一本の柱を自分の足で折り、構える。もともと脆かったようで、もし降りている間に折れていたらと考えてしまった。

「下がってろ。あいつらの事は頼む」
『う、うん。任せて』

パイプを構えた輝ニは結衣へ二人を助けろと伝えれば、すぐにニヤリと笑って見せる。その笑みに再度目を奪われたかの様に視線を離せなかったが、輝ニは直ぐに視線を外し邪魔をするなとこちらに襲い掛かってきたデジモン――パグモンの群れを前に上手くパイプを使いこなし戦う事が出来ていた。
いくら小さいデジモンとはいえ、子ども達より力のあるあの群れに対して互角に戦えている。
何度かパグモン達との激戦を駆使し遂にパグモン達の敗北が見えた時、本当の戦いが始まった。

「このやろぉ〜!溶かしてやる〜!」

輝ニによって弾き飛ばされた一匹のパグモンが、デジコードを自分の体に纏わせる。徐々にあの小さな体から姿を変えていき、次に現れたデジモンの姿は妙な液状の体を持ったデジモン。そのデジモンが現れた途端、このホールを一気に臭くする匂い。
拓也の時みたいにあの小さなデジモンもまた進化をしたのだ。

「食ってやるぅ〜!」
「っ、くそ!」

進化したデジモン、レアモンはそう言うと自分の口から体臭と似た様な臭いの緑色の液体を吐き捨てた。
ただ臭いだけの液体ではない。絶対にあの液体には当たってはいけない、誰もがそう思わざるをえないその攻撃。その場にいた友樹と純平はその攻撃から逃げようと走るもずっと走り続けていた友樹の足は縺れ転んでしまう。それを見た輝ニはすかさず抱き上げ何とか攻撃から避けきる。

『友樹君…!純平君はこっちに!』
「結衣ちゃんは!?」
『私は、…』

吐き出された液体は誰に当たる事なく地面にべちゃりと音を立てる。それだけ気味の悪さは感じ取れるも更にその液体はその形状のままその場に穴を開ける様に溶かしていく。
臭いだけではなく、あの液状に当たったら跡形も無く溶かされてしまう、ぞくりと悪寒が襲えば絶対に当たってはいけない。
デジモンに進化出来る訳でも、輝二の様に上手くパイプを扱える訳でもない。
純平の問いに、結衣は今自分がしようとしていた行動を改めては二人の元に駆け寄ろうとしていた足を止める。
目の前でヘドロから友樹を抱えながら逃げる輝二。標的がそちらに向いている故に純平も結衣も狙われずに済んでいるが…。危機的状態なのは変わらず、ハラハラと緊迫した空気だけが張り詰める。
誰か、誰か二人を助けて――

「こっちから声が…」
『!』

純平と結衣の近くにあった入口から誰かの足音と同時に拓也の声が聞こえてきた。
いた、唯一この事態を何とかしてくれる存在が。
反射的に振り返れば、自分達を捜しに来てくれたであろう拓也と泉の姿がその入口から出てきた。
「拓也君…!」「え、結衣?」声を掛ければすぐに拓也が反応し、急いで此方に足早に駆け寄ると共に、此方も拓也へと駆け寄るなり彼の手を取る。

「なっ、えっ、結衣!?」
『拓也君お願い!助けて!』
「え…?…!」


突然手を握られたと思えばそのまま腕を引かれこれまた女の子の態勢の無かった拓也は頬を染める。そんな彼とは裏腹に結衣は切羽詰まった表情で入口の前で止まるなり、今まさに目の前で友樹を抱えながら走り回る輝二達に視線を向けた。
助けて、その言葉の意味は結衣自身ではなく、二人を助けてほしいという意味だったらしい。拓也はその意味に遅れて気付けば慌ててデジヴァイスを取り出した。

「くっさーい!」
「スピリット!目覚めてくれ…!」

小さなデジモンだったパグモンの進化した姿はいくら輝二でも、子ども達数人かかっても、敵う訳がない。進化出来る拓也が頼りだが…その拓也は手に持つデジヴァイスに呼びかけた。進化をして戦おうとしている様子が目に見えるが、デジヴァイスはターミナルに居た時と同じ様に反応を示さず進化のしの字も表せないでいる。
そうこうしてる間に、輝ニ達はついに追い詰められてしまい、彼の後ろには一際大きな穴。腕には友樹が抱かれている。
絶対絶命の危機的状況となってしまった。

『輝ニ君…!拓也君早く…!』
「分かってる!何で進化しないんだよ!」
「なんだぁ?何だなんだなんだぁい?それじゃあ拓也はん、スピリットを使いこなせないんかい?」
「っ、頼むよっ!」

このままでは二人ともあの穴に落ちてしまう。気持ちだけが焦ってしまい拓也に早くと急かしてしまうが、彼もまた救いたい気持ちばかりが焦りを呼んでしまう。
ボタンを押して反応を待った時、彼のデジヴァイスの画面にほんのりと「火」という文字が浮かび上がった。

「――スピリットォォ!!」

拓也の救いたいという気持ちに共鳴したのか次の瞬間、拓也をデジコードが包み込んだ。

「スピリットエボリューション!!
――アグニモン!」

拓也の姿が変わっていき、やがて彼はもう一度アグニモンへと進化する事が出来た。彼は直ぐ様レアモンへと向かっていき、レアモンと輝ニ達との距離を開ける様に間へと入るなり液状の体を持つレアモンへと突進。
アグニモンに突進されたレアモンは壁にぶつかるなり当たり障りなくホール全体に口からヘドロを撒き散らしていき、ホールは溶けては穴だらけとなる。
無論輝ニ達にもヘドロは飛んできたが、彼らの前に出ていたアグニモンが手刀で弾いて見せた。二人とレアモンの距離を離したアグニモンは次の攻撃が来る前に彼らへと振り返る。

「今の内だ!逃げろ!」

あとはアグニモンが何とかしてくれる。漸く安心できる状況になり、結衣はほっと安堵の息を吐いた。
刹那――アグニモンの体がデジコードに包まれていき、中のホールが一瞬の光に包まれた頃、眩しさに目が眩む。光が収まった頃、輝二と友樹の前に立っていたアグニモンの姿はなく、そこには人間の子どもである拓也が振り向いている姿が見られた。

「―――……ん?ありゃりゃ?戻っちまった…」

「あぁぁ!溶けちまえぇー!!」

あまりにも拍子抜けてしまう事態に、唖然としてしまう空気。故にそれが隙となってしまい再び放たれたヘドロが再度拓也達に襲い掛かっていった。拓也は友樹を庇うように伏せたが、その傍にいた輝ニがバランスを崩してしまい、穴へと落ちてしまった。

「しまった…!」
『輝ニ君!』

慌てて駆け寄るも追いつく筈もなく、落ちていく輝二へと手を伸ばすもその手を掴む事が出来なかった。短い間だったが、自分と一緒に行動を共にしていたが故、彼に助けられていた結衣の表情は絶望の色へと変わる。
何も出来ず、助ける事が出来なかった。落ちていった輝二の穴へ向けて走っていた足はその穴の前で止まり、膝を付く。
同時に、レアモンの技により溶けた壁からいくつかの光が漏れ始めた。一筋一筋の光が輝ニの落ちた穴を照らしていく。まるでその光が何かを導くかのように―――
すると次々と別の穴から漏れていた光がその穴を中心に照らし始めた。

「スピリットォォ―――ッ!!」

「スピリットエボリューション!

――ヴォルフモン!」

穴から突如聞こえてきた輝ニの声と同時に、現れたのはアグニモンとはまた違う男性型デジモンが穴から現れた。
その容姿は一言で表すのなら白い人狼とも呼ぶべきか。長いスカーフを風に靡かせ、狼の仮面の下からでも分かる凛々しく、勇ましく相手を見据える姿はまさしく輝ニらしさがあった。

「俺も、こんな風に?」
「うんうん!まただ!」
『輝二君が、進化…』

拓也と同じ様にデジヴァイスを持ち、彼もまた導かれる様にスピリットと出会い、こうして進化した。結衣達よりも前へと降り立つその大きな背中を見て、目を丸くする。
人間の子どもがまた、デジモンに進化をした、と。

「で、伝説の闘士――光のヴォルフモンじゃ!」
「伝説の闘士…!?」
「光の…」
「ヴォルフモン!」
「溶けて無くなれぇ!」
「“リヒト・ズィーガー”!」

レアモンが再びヘドロをヴォルフモンに向けて吐き散らす。しかしそんな攻撃にもヴォルフモンは怯む事せず冷静に腰にあった刃のない柄を取り出し、ライトセイバーの様に光の刃を生み出す。その光の刃でヘドロを弾き飛ばし一気にレアモンとの距離を詰め光の速さでレアモンの頭を光の刃で刺して見せた。
自分達より遥かに大きく動きの遅いレアモンは何も出来ず、体中から紫色の液体を放出し、やがてケルベロモンの時と同じように体からデジコードが浮かんだ。

「闇に蠢く魂よ。聖なる光で浄化する!デジコードスキャン!」

アグニモンの時と同じ様にヴォルフモンもまたデジヴァイスを手に浮かんだデジコードをスキャンしていく。デジコードを奪われレアモンの姿は卵となってしまい再びどこかへと飛んで行ってしまう。それを見送ると、戦う理由の無くなったヴォルフモンは自身にデジコードを纏わせ、やがては輝ニの姿へと戻した。

「はぁ、はぁ…、」

進化の後はやはり抑えきれない疲労が残るのか、拓也の時と同じ様に輝ニもまた膝をついて肩で息をする姿が見られる。
堪らず彼へと結衣は駆け寄り背中に触れ摩ろうと手を伸ばしかけ、ふとその動作を止めた。確か彼は自分に触れる事を嫌っていた。最初にそう言われた事を思い出し伸ばしていた手を引っ込め代わりに顔を覗き込む。

『大丈夫?輝ニ君…』
「…平気だ」
「大丈夫か?さっきは悪かったな、」

結衣に続いて拓也と友樹も心配そうに輝ニの元へ駆け寄ってくる。
先程進化が解けてしまい助けられなかった所か、穴から落としてしまった事を悔やんでいたのか、謝罪の言葉を口にしつつ手を貸そうと手を伸ばす。だが、人に触られる事を嫌っている事を知っていた結衣は心配そうにその拓也の手と輝ニの様子を見やる。
案の定、彼はあの時と同じように露骨に嫌そうな顔をしていた。

「触るな。俺は他人に触られるのが嫌いなんだ。…だが、助けてもらった事には礼を言うぜ。借りは必ず返す」
「…貸したつもりなんかないよ」

差し出した手を取られず可愛げのない言葉、彼の態度が気に食わなかったのか、拓也もすっかり気に食わなさそうに唇を尖らせた。

「俺は源輝ニ。お前は?借りた相手の名前を知らなきゃ返しようがない」
「…神原拓也だ」
「拓也か…またな」

それだけ言うと、輝ニは一度結衣に振り返ったが直ぐに視線を逸らし拓也達に背を向けて去ってしまった。
変な奴。立ち去る彼の印象は五人の中でその印象となっていた。これ以上、悪化しなかったのも泉のここの空気は最悪だから外に出ようという訴えがあったからだろうか――


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