act.3 (3/5)


「「故郷が消えてしまったぁ〜!」」

数秒前までは残っていた故郷に安堵して喜び合っていたボコモンとネーモン。しかし、今この瞬間、二人の抱擁は故郷を失ってしまった悲しみにより上書きされてしまった。
その大地を消したのもロイヤルナイツではなく、別のデジモン。データを大地の真下に落とした所を見る限り恐らくロイヤルナイツと繋がりはあるのだろう。
敵は、ロイヤルナイツだけではない。そう思い知らされた瞬間だった。

「泣かないで!」
「ピヨモン!」

泣き喚く二人に呼びかける声に二人は一度泣くのを止める。ピヨモンと呼ばれたそのデジモンは己の手を大きく広げ此方まで飛んできた。

「泣いたってどうにもならないよ。もうこの町もお終いだ…」
「「「お終いだお終いだ!」」」

恐らくあの森に居たデジモン達が此方に避難してきたのだろう。もうダメだと諦めるピヨモンのそばらに同じく他のピヨモン達も集まり、気付けばターミナルの中はデジモン達が徐々に集まってきていた。

「今度はこっちの炎の町のターミナルがスキャンされる番だよ!」
「「「番だよ番だよ!だからみんな逃げちゃったよー!」」」
「あんたの仲間もね」
「エレキモン…」

同じく避難してきたエレキモンと呼ばれたデジモン。赤毛に青の模様。尖った耳も尾も立てながら子ども達の方へと歩み寄ってきた。

「残っているのは僕たちだけさ」
「「「僕たちだけ」」」
「あーあ、お前らだったら何とかしてくれると思って、俺達残っていたのに…。頼りにならねぇな!」
「「「頼りにならねぇ!!」」」

エレキモン達に続き、そんな憎々しい言葉を随分と上空から投げかけるはいつしか純平と友樹を追いかけまわしていたパグモン。
彼らからのその言葉は、まさに子ども達に希望を抱いていたから、のように聞こえる。デジモンに進化する子ども達なら、伝説を引き継いだ人間の子ども達ならこの町を救ってくれるのではと期待と希望、そして理想を抱いていたからこそなのだろう。
しかし、現実はそう簡単にはいかない。人間たちの数々の敗北を耳にしていたパグモン達は、文字通り残念だと失念していた。

「パグモン、人間を責めてもしょうがないよ」
「そうだよ、ルーチェモンがよみがえるのは じかんのもんだいなんだ」

そんな怒りを露わにするパグモンを宥める様にピヨモンとポヨモンが彼らに言葉を掛ける。
しかし、そんな二人の言葉で納得が出来る程パグモンは諦めてはいなかった。フンッと鼻を鳴らすなり、二匹の間を抜けその大きな耳で浮遊しながら子ども達の元へと降り立った。

「こいつらが伝説の十二闘士のスピリットを手に入れた時は、みんな期待してたくせに!」

吐き捨てる様に語られるその言葉に賛同するように、デジモン達はそうだそうだ、と声を揃える。
子ども達の前を横切るなり、ホームへと降り立ったパグモンはそんな期待と希望をすっかり失ってしまい、「俺も、さっさと逃げ出しちゃえば良かったんだ」と皮肉めいた口調で吐き捨てた。

「でもそれは違うと思うよ。せめて故郷の最後を自分の目で見ておきたい。そう思ったから、僕たちは残ったんじゃないか!」
「俺は違う」
「え?」
「いつか必ずボコモンたちが、伝説の十二闘士を連れて来てくれる。そしてこの町を…デジタルワールドを救ってくれる!そう思ったからここにいたんだ。どうせどこに逃げようと、平和に暮らしてはいけないからな…」

『(――、)』

あぁ、知っている。彼らの小さな姿を見て、結衣は密かに少し前の自分の姿と重ねていた。
力が無い、力が通用しない。そんな敵がいつも相手だった。
だから、彼らのその気持ちを知っている。だからこそ痛い程理解していた。戦えない、戦う事を恐れている。それがデジモンであろうとなかろうと、関係ないのである。
しかし、結衣は見てきた。
この旅を、冒険を通して、沢山の想いを、デジモンを見てきた。
戦を好まないデジモンでも、強くなれないデジモンでも、彼らは仲間と力を合わせて戦ってきていた。

「―パグモンの言う通りだ。逃げても何も解決しない」
「そうだ。この町を救う、そして全てのデジタルワールドを救う。その為に、俺達は戻って来たんだ」
「みんなで戦いましょう!」
「そうだよ、みんなもそれぞれ戦う技を持ってるはずだ!」
「持ってるよ!でも、あんな強い奴に敵うわけがないんだ…」

そうだそうだ、と再び賛同する周りのデジモンたち。
しかし、それは子ども達も重々承知だった。スカルサタモンがどんな力を持って、どれくらい強いのかは分からない。ロイヤルナイツと無関係ではないだろうデジモンだ、そう簡単には引いてくれるとも思わない。
恐らく、ヒューマン型、ビースト型でも敵わないだろう相手。しかし、それでもみんなで力を合わせれば――

「あなたたちの故郷でしょう?何であなたたちの手で守ろうとしないの?」
「故郷を愛する気持ちが無いのか?こんな素晴らしい故郷に誇りを持ってないのかよ?」
『泉、純平…それはちょっと言い過ぎかな』
「結衣、」
「責めないで…。力の無いデジモンじゃ、仕方ないんだ…」

確かに自分の故郷の為、戦う事を選んできたデジモンもいる。しかし、それでも選べなかったデジモン達もいる。
結衣も思わず泉と純平に制止の声を掛ける。ネーモンもまた、自分の事を示している様にも感じる言葉を二人に伝えた。
泉も純平も悪気があって発言した訳でも、責めている訳でもない事は理解している。泉のハッキリ言う物言いも、純平の正義感強い言葉も今では裏目に出てしまい、このデジモン達からしたら責められている様に捉えてしまう。
そして何より彼らの中にあるこの町への思いまで否定はしたくない、否定してはいけない。

「責めてる訳じゃないけど…」
「仕方ないことか…」
「でも、たとえ力が無くても勇気の心を忘れちゃいけないんだ」

友樹が一歩前に歩み寄り、デジモン達に呼びかける。
思えば彼が一番弱い人の心を知っている。彼の口から出て来る勇気程、説得力のある言葉は無いだろう。

『少し前にね、戦う事を望まないデジモン達がいたの。でもね、そのデジモン達は…仲間たちを信じて、仲間たちの力を信じて、自分より強い敵に立ち向かって、自分の家族を守り切って見せたよ』
「…始まりの町でも、泡を吐く事しか出来ない赤ちゃんたちでもロイヤルナイツと立ち向かってたんだ、君たちだって力を合わせれば出来る筈さ!」
『うん。倒そうと思わなくてもいい。キミたちの力は何も倒す為だけの力じゃないよ。一人で戦う訳じゃない、あなた達にはこれだけの仲間がいるんだから』

それは、この冒険を通して教えて貰った事。いつだって、自分の側には誰かが居てくれた。
それだけで、どれだけ安心したか、どれだけ救われてきた事か。
結衣はどこか自信の無さげな表情を浮かべるパグモンを抱き寄せ、その頭を撫でる。
一人じゃない、大丈夫だよと安心させるように。パグモンの目が少しでも緩んだ様に思えた頃、デジモン達は気付けば子ども達の周りに集まっていた。

「十二闘士の力は、みんなのパワーを集めて強くなる。小さくても、みんなのパワーを集めればきっと勝てるさ」

希望を失っていたデジモン達に、再び希望の光が宿った――




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