act.6 (6/9)


拓也達を見送った後、結衣はスワンモンに始まりの町でやる事の説明と材料等の用意をしていた。
ある程度用意を終えたところで、改めて実際にやってみながらの説明となった。

「赤ちゃんたちが起きてくる前に、栄養を与える為の肥料と水やりを済ませなくてはいけないんです。」
『本当に大変ですね、こんなに沢山のタマゴ…』
「えぇ…。最近やたらと増えてきて…あ、それが悪い事ではないんですけど…」
『っていうと…?』
「…その、スキャンされてしまったデジモン達がそれだけ多くいたという事になるんです」
『…、』

ああ、そうか。新しい生命が始まるこの町の事情はそういう意味でも捉えられるのか。最近になってやたらと増えてきたというのも、ロイヤルナイツがルーチェモンの為に集めた大地のデータの上で死んでいってしまったデジモン達がいたという事。それだけデジモン達はこの世界で死んでしまった。
まだ孵っていないタマゴはこれだけあり、増え続けている。
なんて残酷な世界に成り果ててしまったのだろう。目の前のタマゴに水を与える中、そんなもどかしい気持ちに襲われた。
タマゴが増える事は悪い事ではない、しかしそれと同時に――と察してしまう事実が出来てしまう。

『スワンモンは、すごいね。』
「え?そんな事は…この世界を平和にしようとしてくれる皆さんの方がすごくて、素晴らしい事です」
『ううん。スワンモンも、すごいんだよ』

どちらがすごいとか優劣をつけてはいけない。どちらもすごいのだ。スワンモンは目を見開かせるもすぐに嬉しそうに微笑んだ。
一通り説明を聞き、スワンモンは反対側をやってきますと別々に分かれる。
トレイルモン達の説得は出来ただろうか、結衣はそんな事を呑気に考えながら水を与えていた。

そんな時だった。

丁度スワンモンが反対側に行って数分後だろうか、この場に似つかわしくない彼女の悲鳴と爆発音が響いた。
ただ事ではない。じょうろを置き、慌ててスワンモンの方へと駆け出す。

『スワンモン…?どうし――』
「おや、まだいたか」
『ッー!』
「ッハ、誰かと思えば人間の子どもではないか」

ボロボロで傷だらけのスワンモンが無惨に地面に転がっている。そして、そんな彼女の目の前にはあのロイヤルナイツが佇んでいた。
まさか、この始まりの町にもこの二人は来るなんて。…いや、自分達の常識をこの二人のデジモンは持ち合わせていない。この始まりの町もきっと――
考えるよりも先に足が動き結衣はスワンモンの前に立ちふさがった。

「何の真似だ?」
「お前が居るという事はあのガキ共も一緒か」
『(勝ち目なんて無い、負けるに決まってる。だけど、だけど――)』

目の前で生まれるデジモンを見た。新しく生を受けたデジモン達を見てきた。小さな命を守っていたデジモンを見てきた。
そんなデジモン達が自分の目の前で死ぬ所は、二度と見たくないとそれだけの一心で結衣の足を動かすには容易だった。

『この町を、どうする気』
「愚問だな、その質問」
「スキャンしてルーチェモン様の元へ送るだけだ。小さな命でもルーチェモン様の力に加わるのだ。光栄に思うだろう」

ほらね、やっぱり。
このデジモン達は自分の正義をどんな手段を使ってでも貫いて、その正義の為ならここがどういう場所かなんて関係なかった。
結衣はデジヴァイスを握り締める。拓也達が戻ってくる間まで、耐えきれるかどうかは分からない。しかし、それでも時間稼ぎをして少しでも長くデジタマ達を守らなければならない。

「まさかお前ここを守る為に一人が我々と戦うと?」
「ッハ!笑わせるな、敵う訳がないだろう」
『私は…確かに弱い奴だ。拓也みたいに誰かを導く事も、輝二みたいに強い志を持つ事も出来ない。守られるばかりの存在だった。友達も守れない、友達の事も本当に知ろうとも思ってなかった。こんな行動も、意味ない事なんて分かってる!――でも、』

握り締めるデジヴァイスを構える。
がばりと顔を上げた時、大樹の側で怯えるドドモンの姿が見えた。
あの小さな命を、命たちを――もう二度と失いたくない。

『でも、だからと言って、あの子たちが傷ついて良い筈がない!!』

「―!」

『お願い、時間の闘士!あの子たちを救う為に力を貸して!

スピリットエボリューション!――ヴィータモン!』

カイゼルグレイモンとマグナガルルモンみたいに進化が出来る訳ではない。しかし、戦わなければ小さな命も、タマゴたちも、スワンモンも守れやしない。
せめてもの時間稼ぎでも、多少のダメージを与えて拓也達が戦いやすい様にする。ヴィータモンは自分の額の角を向ける。

「フンっ、負けると分かっていても歯向かうか」
「潔いが、我々も暇ではないのでな。すぐに終わらせてやろう」

『―“クロノソルス”!』

体に埋め込まれる石から光が帯び、攻撃がロイヤルナイツに迫っていく。しかしロイヤルナイツは避けるどころか受け入れた。それでも良い、その攻撃により巻き起こる砂埃に突っ込んでいき、自分の角を突き刺す様に突進。
しかし、それは読んでいたのか、突き刺すよりも先にデュナスモンの腕がその角を掴む。

「くだらん小細工を…」
『!』

掴まれた角は微動だにしない。力強い握力に、もがくがデュナスモンは構わずまるでボールでも投げる様に地面へとヴィータモンを思い切り叩きつけた。

『ぐぁっ、…っく、まだ、』

瞳に光を帯びさせ、時間を止める。その際に二人から距離を置きその隙に球体を生む。

『“エアロカノン”!』
「!何…?」

時間を止めたまま技を発動しそのまま解除。攻撃は命中し、再度砂埃が舞う。不意打ちは成功した。しかし、これだけでどれ程ダメージを与えられたかは分からない。
油断を一時もしてはいけない。砂埃が少しでも動いたら警戒するべきである。見間違えてはいけない。逸らしてはいけない。息を乱しては――

「“スパイラルマスカレード”!」
『ッ!そんなっ――あぁぁあっ!!』

微動もしていないのに、砂埃の先から4本の帯刃が襲い掛かり、ヴィータモンの鎧を粉砕し、石を砕き、翼を貫いた。
再び味わう激痛に声を張り上げるしか出来ない。しかしロードナイトモンはそれだけでは飽き足らず、そのままヴィータモンの体にその帯刃を巻きつかせ放り投げる。
放り投げられた先は大樹の幹。あまりの衝撃にヴィータモンの体は幹に埋め込まれ、ロードナイトモンの帯刃がゆっくりと離れる。

痛く、そして、自分の無力さに視界が揺らぎ自分の体にデジコードが浮かぶ。

『…ぅ、だめ…生きなくちゃ、…みんなを、まも…』
「“生きなくちゃ”?久しく聞いたなその台詞」
「フンっ、あの子竜か」
『こ、りゅ…?』

留めに来たか、デジコードをスキャンしに来たのか、幹に埋まるヴィータモンの元まで飛んできたロイヤルナイツが不意にヴィータモンの口にした台詞に思う所があったのか、そう口にする。
子竜。その名前には結衣もまた聞き覚えがあった。それはよくドルモンの事を指して言われていた名前。
まさか、この二人…ドルモンと何か関係が…?

「ガァッ!」

不意に目の前に何かが飛んで行く。それはヴィータモンとロイヤルナイツの間を割く様な粒。
三人の視線が其方に向かった時、そこには小さな姿が。
あの姿を知っている。
誰とも慣れ合おうとしなかった、小さなデジモン――ドドモンの姿だった。

『ドド、モン…』
「何だあのガキ。」
「まさか、こいつを助けようとした訳ではないだろうな」
「だとしたら生意気だな、まあいい。お前からタマゴに戻してやる」
『!だ、だめ!させない!――』
「うるさいぞ、小娘」
『あぁぁっ!!』

幹に埋め込まれる体を無理やり動かし戦おうともがく中、それを阻止せんばかりにロードナイトモンの帯刃が再度ヴィータモンに襲い掛かり、翼二枚が貫通してしまう。
更に体に激痛が走り、動くという事を封じられる。
そして、ドドモンにデュナスモンが向かって行きそうになった時、声が響いた。

「結衣―!!」
『たく、や…?』

拓也の声が聞こえてきた様に思えた。聞こえてきた方へと視線を送れば、そこには傷ついたスワンモンに駆け寄る仲間たちの姿と、此方に駆け寄る拓也の姿。
あぁ、良かった。時間稼ぎは成功したらしい。
安堵の表情を浮かべると体の力が抜けたのか、そのままヴィータモンの体はデジコードに包まれていき元の結衣の姿に戻り、大樹の中から抜け出してはそのまま落下してしまう。

「結衣!」
「ガゥッ!」

落下する結衣を受け止めようと拓也が駆け寄った時、小さな影が動く。
その影は自分の体にデジコードを纏うなり姿形を変えていく。小さな足が生え、更にその体は徐々に大きな尾すらも生やし、その体を大きくしていきながら結衣の体を受け止めた。

「お前は、」
「結衣、久しぶり」
『…、ドルモン?』

かつて少女が友達と呼んだ、子竜のデジモン――ドルモンがまた、この世界に息を吹き戻した。





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