act.1 (1/6)


暗闇に、一人立ち尽くす。
ぼうっと立ち尽くす自分の意識はある。しかし、これは夢なのだと気付くには時間が必要だった。
辺りを見回し、仲間を探すがどこを見渡しても誰もいない。
自分は、どうなってしまったのか。あの爆発に巻き込まれ死んでしまったのか、

ふと、爆発音が聞こえる。
重く、激しく、劈く様な音。その音によく聞き覚えがあり、ハッと振り向いた。

――あなた方は逃げて下さい。ここは私が
――デジタマを、セラフィモン様をよろしくお願いします
――オファニモン様を…頼んだよ、結衣。だから、生き残るんだ
――諦めないで下さい。彼はまだ、間に合いますよ
――ここまで来てくださって、本当にありがとう。貴方たちの勇気に感謝しています。

まるで場面場面での再生されたビデオレター。しかし流れて来るは子ども達を守って命を絶ったデジモン達。
セラフィモン、ソーサリモン、ウィッチモン、キュウビモン、オファニモン、ドルモン。
それだけではない。ピピスモン、ゴートモン、牢獄の間にいたデジモンのデータたち。

次の瞬間、デジモン達は花火が散る時の様に弾けて消えていった。
順番に消えていき、目の前には数あるタマゴだけ。

『…っ、いや…、』

そのタマゴたちはそんな彼女の悲痛な声を合図に上空へと消えていった。
そして次に現れたのは、彼らの命を絶ったであろうこれまで戦ってきたデジモン達の姿――
悪の闘士だったグロットモン、メルキューレモン、ラーナモン、アルボルモン、ダスクモン。
更にファングモン、サングルゥモン、メギドラモン、ケルビモン、デュナスモン、ロードナイトモン。
そして――

――死んでくれないか?

倒した筈のベルゼブモン――

随分と冷酷な目で、酷く歪んだ笑みを浮かべて結衣の首を絞めるのだ。
あまりの息苦しさにその首を絞める彼の手にそっと手を添える。
ベルゼブモンの表情に、動揺の色が伺えた。

これは、ベルゼブモンであり、「彼」ではない。
恐らく自分のデジヴァイスの中で眠るベルゼブモンのデータが見せる夢なのだろうと察した。
力を入れずとも、ベルゼブモンの手を離させるのは容易かった。それだけ、彼は動揺をし――恐れていた。
だからこそ、結衣は彼を受け入れる様に彼を抱きしめる。
彼の姿は、知っている。
テレビの森で見せられた友樹の悪夢。
ヴリトラモンの制御が出来ず仲間に攻撃をしてしまった拓也。
ケルビモンの影響で悪いデジモンになっていたキュウビモンや、マッシュモン。
その全てが共通している事は――

『…ずっと、怖くて…悲しくて辛くて寂しかったんだよね――ツカイモン』

ずっと、ずっと。彼は孤独と戦ってきた。胸に抱く彼が徐々に震えを帯びる。
ベルゼブモンの瞳から涙が一筋零れた時、彼の傍にはいつぞや自分を助けてくれたドルモンの姿が現れる。
彼もまた、一人だった。
ドルモンは結衣に続く様にベルゼブモンへと抱き着いた。

九本の尾を持つデジモンは言っていた。
本当に不幸なのは、無差別に殺される私達の方ではなく、本当に悲しいのは――
その言葉の先の意味を、今度こそ理解する事が出来た。
本当に不幸なのは、本当に悲しいのは、闇に食い尽くされる光などではなく――

いつだって、周りを傷つけて誰にも愛される事なく悪としか消えるしかない、ひとりぼっちの闇の方に違いなかった。

―――――…………
――――………

『――…、』
「!お姉ちゃんっ、」
「結衣!」

重く閉ざされた瞼を開ける。そして次に視界に入ったのは、自分の弟と、拓也の顔。
どうやらあのロイヤルナイツとの闘いに巻き込まれ、仲間たちと一緒に気を失っていたようだ。
しかし見覚えのない天井である、というよりも自分達は野外に居た筈。目を覚ましてみたは
良いが、ここは一体どこなのだろうか。
体を起こしてみれば、更に自分は妙な機械で寝ていた様で結衣の他に、いくつもベッドの様な機械が並んでおり、そこには他の子ども達が寝ていた。
どうやら目を覚ましたのは自分を含め悠太、拓也、そして離れた場所に輝二のみ。

「お姉ちゃん、すごい魘されてたんだよ?」
『え、…』
「起こそうか悩んだんだけどさ、輝二が」
『輝二?』
「…無理に起こさなくとも、結衣は大丈夫だ」
「って、」
「そしたら、お姉ちゃんのデジヴァイスが光って…」
『…私の?』

思わず手元にあるデジヴァイスを見つめる。驚いた、気を失った後でも落とさず持っていたのか、と。だが、驚くのはそれだけではなかった。まだ、光を帯びるそのデジヴァイスの画面を見つめていれば、時のスピリットたちが姿を見せると同時に画面が切り替わっていき、次に現れたのは自分が今までスキャンしてきたデジモンのデータたちと――ドルモンのデータ。

『!…ドルモン、』
「なに?」
「ドルモン?」

勿論、スキャンした覚えはない。何よりドルモンが死んでいた事すらこの大陸に来てからである。
しかし、ここにあるドルモンのデータは間違いなく、自分が出会ったドルモンのデータ。
思わず口にしてしまえば、輝二も驚いた様に此方へと近寄り、その画面を見た時僅かに目を見開かせた。

「このデジモン…」

悠太もまた、見覚えがあった。姉が一人で行動をし再会した時に出会った小さな竜の子ども。姉の方を見ては困った笑みを浮かべていた。
しかしあの時はすぐに消えてしまった為、お化けか何かかと思っていたが…。

――ねぇ、結衣。ツカイモンと一緒に僕も正しい道に、戻してね。

彼は、結衣を元の世界に戻すと同時に消えてしまったと思われたが、しっかりと彼女のデジヴァイスの中で付いて来ていたのだ。
正しい道に。結衣はデジヴァイスを胸に抱きしめ小さく微笑んだ。

『一緒に戻ろう、』

ツカイモンと共に。





×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -