act.6 (6/7)



バキンッ、と何かが砕ける音と、炎がパチパチと火花を散らす音が攻撃を放っている中、聞こえてくる。
ベオウルフモンの剣が砕け、アルダモンの放っていた炎と共にそれぞれ抑えていた方の手で掻き消すなりその残骸と火の粉を吸収。二人はそのまま跳ねのけられてしまった。
デュナスモンの両手に埋め込まれている石が反応を示し、赤い光と青い光が帯びる。あの色は――炎の闘志と光の闘士の力が感じられる。
その力のある光線が放たれ、くねくねと蛇の様に攻撃を打ち続けていたロビスモン達へと迫っていった。
そして、その攻撃は全員に当たった。
攻撃を続けるのは不可能。ロードナイトモンに迫っていた攻撃も消え失せてしまい、ロードナイトモンは真直ぐ山の方へ――
気絶も免れる程のダメージを受けた子ども達はそのまま地面へと体を打ち付ける様に落下していったのだった。

「フンっ、力こそ正義…。ん?」

「―“ブラフ・マシル”!」
「“ズヴァイ・ハンダ―”!」

跳ねのけられたアルダモンとベオウルフモンが立ち上がり、自分たちに背を向けたデュナスモンへと攻撃を仕掛けた。デュナスモンもまた油断をしていたのか、食らうも直ぐに笑いを上げた。

「その程度の技で歯向かうつもりか!“ドラゴンズロア”!」

自分達の放った技を返される様に、アルダモン達はその攻撃を受けてしまう。
反撃も失敗し、ただ強力になったその技を食らうと二人はそのまま落下していきデジコードへと包まれる。彼らもまた、進化が解けてしまった。

そうこうしている間にも、ロードナイトモンはデジコードの在り処を見つけてしまったのか、奥の方で森がデジコードの色に染まっていくのが見える。
あの大きな森が、スキャンされてしまう。それを自分の目で見て確信してしまった時、森はやがて縮んでいく。
ただ見ている事しか出来ないのか。いや、まだ子ども達は進化出来る。

『「「「「「スライドエボリューション!」」」」」』
「カイザーレオモン!」「シューツモン!」「ブリザーモン!」「ボルグモン!」『ヴィータモン!』「ヴァイルモン!」

獣型へと進化。ロードナイトモンの背中が見えた時、すぐに攻撃の構えを取る。
カイザーレオモンの黒い気弾、シューツモンの風の刃、ブリザーモンの伸縮刃、ボルグモンの最大雷弾、ヴィータモンの結晶気弾、ヴァイルモンの空間の爪。
それぞれの技がロードナイトモンへと放たれるが、ロードナイトモンはそれを見ても動揺せず寧ろこちらへと攻撃を避けながら迫ってきた。
全てを避け切った時、彼は不適な笑いを漏らした。

「“スパイラルマスカレード”!」

彼の体から伸びる四本の帯刃が襲い掛かる。逃げる事も防ぐ余裕すらも与えず、順番に子ども達へとダメージを与え、彼が子ども達の間を抜け切る頃には、膝が崩れ体からはデジコードが浮き出ていた。

「思ったより手強いぞ…!」
「迂闊な戦いは出来ない、」

進化が解け、岩陰に隠れながら様子を伺っていた拓也と輝二。ルーチェモンの配下なだけあり、二人は自分の進化したデジヴァイスを手にしては力強く頷いた。

「このままじゃ、やられちゃう…」
「俺たちのスピリットを、拓也と輝二に…!」

まだ、まだ希望は絶えていない。岩へと寄せていた体をゆっくりと起こし、自分のデジヴァイスを持つ。二人が此方へとデジヴァイスを掲げている姿が見えた。
それを見て、子ども達もまたデジヴァイスを目前に掲げた。二人に自分たちの力が届く様に。

「風は炎に!」「氷は炎に!」『時間は炎に!』
「雷は光に!」「闇は光に!」「空間は光に!」

デジヴァイスの画面が輝き、スピリットたちが拓也と輝二のデジヴァイスへとそれぞれ入って行く。

「「ハイパースピリットエボリューション!!」」
「カイゼルグレイモン!」
「マグナガルルモン!」

「おぉ…!十二闘士のスピリットが…!」

十二闘士の意思が一つになる瞬間を、バロモンは目の当たりにした。
これが、オファニモンが力を与え、子ども達とスピリットたちの気持ちが一つになった新たなる進化。その進化を見て感心する様に息を吐く。
感服、と言わんばかりに呟くバロモンを見て、ボコモンもまた誇らしげに彼へと向かって行った。

「どうやぁー!驚いたか!カイゼルグレイモンとマグナガルルモンはな、ケルビモンさえ倒した最強の闘士じゃぁー!」
「…しかし、」

何故お前が威張るのやら、という視線を送りつつバロモンの不安は拭い切れなかった。十二闘士の心が、スピリットが一つになろうと、バロモンが曇る顔を晴らす事が出来ないのはやはりあの予言あってこそか。彼はすぐに視線を二人の闘士へと戻し、様子を伺う。

「ふんっ、面白い。これで我らも本気を出せる」
「美しき汗、流させてもらおう」

カイゼルグレイモンとマグナガルルモンが顔を見合わせ、頷き合う。二人はそれぞれの相手をしようと立ち向かって行った。

「――負ける。到底敵う相手ではないのだ」

バロモンの呟き。それでも子ども達は諦めなかった。自分のスピリットと拓也と輝二を信じ、バロモンの後ろへと回る。デュナスモンへカイゼルグレイモン。ロードナイトモンへマグナガルルモンがそれぞれ攻撃を仕掛けていく。そんな二人の姿をただ見つめるしか出来なかった。

カイゼルグレイモンの剣の突き。何段突きかした後、一回りしてからの“炎龍撃”。
炎の刃がデュナスモンを襲い、距離を開けた。炎に包まれていくデュナスモンはそのまま地面へと墜落。その姿はまるで隕石の様に見えた。

マグナガルルモンもまたロードナイトモンのスピードに付いて行けており、弾を乱射。自分の手に持つ盾で防ぐが押している姿は見られた。
なんて激しい戦いなのか、随分と暗い場所に慣れた目はその光を受け付けず、更に激しい炎の熱さにも耐えられない。吹き飛ばされそうな思いで耐える子ども達だが、密かに勝利を見据えていた。
しかし、この戦況を見ても尚、バロモンの表情は晴れない。

「この程度では…。――!」

激しい戦いの最中、炎に包まれていた二人のデジモンが陽炎として姿を現す。
そして、彼らは変わらず笑うのだ。足掻き、もがき、勝利を夢見る子ども達を見て嘲笑うかのように。

「い、いかん!」

バロモンの予想は的中した。姿を現したデュナスモンとロードナイトモンはそれぞれに攻撃を仕掛けてきた相手へと向かっていく。

「“ドラゴンズロア”!」
「“アージェントフィアー”!」

「! 早い!」
「バカな!?」

炎の闘志の力を持つデュナスモンの技はカイゼルグレイモンへ何度も撃ち込まれ、瞬時にマグナガルルモンの懐に入り込みゼロ距離から右腕のパイルバンカーで衝撃波を撃ち出され鎧を破壊されてしまった。

「予言通りに…!」

攻撃をまともに食らい、高い場所から墜落する二人。仲間たちの声援も虚しく落ちていく様は言葉に表すのも簡単だろう。

「負けた…」
「そんな…」

これを敗北と呼ばずに、何というべきか。
カイゼルグレイモンが、あのマグナガルルモンまでもが、容易く負けてしまったのだ。
それ程までにあの二体のデジモンの強さは圧倒的で、スピリットたちの力も通用しない。
バロモンの言った通り、やはり勝つ事は出来なかった。更に彼らが慕うはルーチェモンという世界を滅ぼしかけたデジモン。
バロモンは苦い想いを抱きながら自分の額の石に念を込める。

「大宇宙の精霊たちよ、力を!――“メテオダンス”!」

「煩い!」「醜き仕草は…許さない!」

マントを大きく靡かせ、宇宙に呼びかける。やがて隕石が降り落ち、デュナスモンとロードナイトモンへと向かっていく。だが、その足掻きも敵わず片腕一振りでその隕石は消失。
それだけでなく、その消失による衝撃破が子ども達に向かってくるのが見えた。
抉られていく地面は色を失い、それは徐々に迫ってくる。
あの衝撃波に当たってしまえば、子ども達はただでは済まない。
結衣は悠太を抱き込み、友樹は純平へと抱き着く。守ってくれるカイゼルグレイモンとマグナガルルモンはあの場で倒れたきりで、動けないだろう。

バロモンは迫る衝撃波の波に子ども達へと振り返った。

今では希望こそ絶望へと変わり果てている。しかし、あの時の希望を密かに期待した自分も居た事は事実。

―だったら、倒すよ!
―予言も、その先の出来事は映さなかった。それって、私たちにも倒せる希望がまだあるって事でしょ?
―前の伝説の闘士が出来たんだ、ボクらだって出来る筈だよ!
―そうだ、俺たちはやるしかないんだ!

ふと脳裏に子ども達の姿が浮かび上がる。それは何度も何度も敗北を叩きのめされても、立ち上がり、失われた大地を見ても絶望せず、前を見つめ続ける子ども達の強き目と勇姿――
予言の先の出来事に、もし続きがあるとしたら…もしかするのかもしれない。

「!――精霊たちよぉ!この子たちを守り給えぇぇーっ!!」
『! バロモ――』

これはバロモンの予言ではない。個人的な、“予想”だった。
だが、バロモンは予言よりも自分の予想を力強く抱き、そして子ども達を想った。
バロモンの最期の言葉は子ども達を信じてマントを大きく拡げ――庇った。
その姿を結衣はよく知っていたし、見てきた。
バロモンの断末魔が耳に残り、庇いながら姿を失って行く様子を見つめた。

タマゴが飛んでいく。
一体、この大陸で何体ものデジモンが葬られてきた事か。
ただ涙を浮かべながら見守るしか出来なかった結衣はそのまま意識を手放した。





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