act.2 (2/4)


二人が城に十分に近付いた頃、デジコードの吸収が止まる。
波動が止まったのだ。それが何を意味するのか、ケルビモンは再び動き出す。
不敵な笑みが二人の耳に届く。

「逃げていれば少しは長く生きていられたものを…」

ケルビモンは城の窓から見える位置から二人を見据える。手には何やらキラキラと光る球体を持っている。それを二人に見せてから問いかけた。

これは、一体どういう物か。

彼は言った。デジタルワールド全体から集めた様々なデータを圧縮した物、と。
つまりはデータの塊。空を飛び、集まっていたデータ。恐らくグロットモン達が集めていたデータもあの中へと圧縮されている。全てのデータが詰まった球体。
ケルビモンはそれを愛しそうに見つめては、更に小さく圧縮し自ら額へと飲み込んだ。

邪なるオーラを纏いながら二人を見据える。
後は子ども達の持つスピリットを奪ってしまえば、更に完璧な強さを持つだろう。
二人はさせまいと駆け上がった。

空に火花と爆発音が響く。
戦いが始まったのだ。

「見て、あれ…!」
「始まったようじゃな」
『頑張って…二人とも、』

ただ勝利へ祈る事と、二人の無事を願うしか出来ない。
どうかスピリットたちよ、拓也と輝二を勝利に導いて――

周りに浮遊していた岩が弾丸に打ち抜かれ砕かれていく。そんな中、より一層大きな岩が崩壊し、直後大きな炎が辺りを照らしながら小さな影を飲み込んだ。
あの影は恐らくケルビモン。彼の断末魔の様な叫びが聞こえてきた。
やったのか、いや…まだ嫌な予感はしている。
先程まで力を蓄えていたケルビモンがこんなにあっさりと負ける筈がない。そして、その嫌な予感は的中してしまう。

小さく見えた影が、大きくなっていくのが見えた。ケルビモンは元の大きさより更に大きく体を変形させていった。
そして再開される戦闘。小さな岩が二人に襲い掛かっていき、大きな岩が二人を挟む。
身動きのとれない二人の頭上に、更に追い込む様に空は逆さまの城を生んだ。

「何あれぇ?」
「お城?」
『どうして、急に…』
「どうなってるの…?」

しかし、城が意味もなく突然現れる訳が無い。
恐らくケルビモンが何かしら用意していたのだろう。そして、お城の落ちた先に二人が居る。
状況から考えても、二人がケルビモンに押されているというのは悟った。

ケルビモンの体に取り込められたそのデータの塊。それはお城のデータも入っていた様で、彼はそのデータを自由に操り二人に攻撃を仕掛けた。
メキメキとゆっくり重力に従いながら落ちていくお城。やがて二人を巻き込みながら城は崩れていく。
更に追い打ちをかける様に、いくつもの赤い雷の刃が城の下にいるであろう二人へと雨の様に放たれる。
その影響により、城は破壊。二人も雷に体を押さえつけられ、身動きが出来ずにいた。
相当のダメージを受けただろう。

これまでなのか、握りしめた拳が更に力を増す。

『だめ、…負けないで、死なないで…っ』

キラッ、と空が一瞬光る。
いくつもの光はやがて稲妻を走らせ、二人へと迫っていく。
それでも、二人の瞳は諦めていなかった。立ち向かっていき、二人は稲妻に包まれていく――

****

チュンチュン、小鳥の鳴き声。
優しい風が吹き抜け、拓也は目を覚ます。眠っていたのだろうか、自分の頭の下にある枕が良い感じに二度寝を決め込もうとされていた。
身を捩り、顔を真上と向ける。すると、そこにはこの枕を貸してくれているであろう結衣の顔が見えた。彼女は拓也が目を覚ましたのに気付くと正面に向けていた顔を拓也へと移し、目元を緩めた。

「結衣…!?」
『うん、おはよ』

あまりに近すぎる顔に思わず体を起こしてしまう。その様子が可笑しかった様で、結衣は小さく笑いながら答えた。

「こ、ここは…それに俺…っ」
『まだ寝ぼけてる?ほら、泉と約束したでしょ?一日デート』
「…あ、そ、そっか。俺たち勝ったんだ…」

聞き覚えのある約束。決して彼女から提案した訳ではないが、自分は今想い人である結衣とデートをしていた。
戦いは終わった。そのことに安堵してか、息を吐く。そんな彼の頬に何かが撫でる。
手の様な感触にぴくっと、肩が思わず跳ねてしまい、自分に触れているであろう結衣へと視線を送る。

『お疲れ様、頑張ってくれてありがとう』
「結衣…っ」

「――ばか!やめろって!」

良い雰囲気ともいうべきか、拓也の頬に熱が集まる中、誰かの声が遮る。
其方へと視線を送れば、そこには友樹と純平、泉、ボコモンとネーモン、パタモンが束になって輝二を追いかけまわしていた。
彼らもまた約束の頬へキスを実行中なのだろう。しかし柄ではない輝二はそれらから逃げている。離れたベンチの所では輝一と悠太はクッキーを食べているのが見える。

「…輝二も無事か。」
『うん。…疲れてるでしょ?拓也たち、精一杯やったんだからもっとゆっくりしていいよ』
「…あぁ、そうだな。ちょっと張り切り過ぎたみたいだ。もう少し眠る事にするよ」
『んっ』

ぽんぽん、と自分の膝を叩く結衣。その姿を見て更に頬を染めその頬を掻く。
今度は帽子を外し、彼女の太股へと頭を乗せる。そして、そんな彼の髪を結衣がそっと撫でた。
それがあまりにも心地が良く、安心して眠りそうになる。その時だった。

『ねぇ、拓也?』
「ん…?」
『好きだよ』
「えっ、」

木々で様子を見ていた小鳥たちが一斉に羽ばたいた。





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