act.4 (4/9)



まだまだ戦えるとは言ったものの、体は正直だったみたいで、これまで戦い続きでスピリットも私も疲労が募っていたらしい。重たくなってくる身体に集中力を維持出来ない頭、上がってくる息に早くもこの四本足で立っているのも苦痛になってきた。だからと言って空を飛ぶ訳にはいかない。ベルゼブモンは飛ばない。飛べる翼を持っていないのだ。何が言いたいかと言うと、飛んで攻撃をするという卑怯なやり方はしたくなかった。
いや、これはただの言い訳になるだろう。普段から戦闘慣れしていないこの戦いに、普段からあまり接近戦という物をやった事がないからこそ今、これだけ苦戦していた。

ヴィータモンの額にある角は何の為にあるのか。ヴィータモンの体に纏っている甲冑は何の為にあるのか。ヴィータモンの爪は?この尻尾は?デジモンの事を分かっていたつもりでも、結衣はあの仲間達の中でまだ気付けていない部分があった。
だからこそ、今ここで真剣勝負の中でデジモンらしく、ヴィータモンらしい戦い方を学んでいる。

相手に角を掴まれて動けないならもがくのではなく、自分の長い尾を振るい叩き付ける。
瞬時に相手の攻撃が防げなかったら、遠慮なく自分の体へ当てていく。
素早く動けるように、自分の尾を軸に動きバランスを取りながら間合いを付いて、角を突き上げる。
更に相手の隙を突いて、前足の爪を立てるなり切り裂くように振り下ろす。
それだけで、ヴィータモンは空を飛ばずともこの陸上で十分に戦う事が出来た。

「ほぉ…ようやくデジモンらしい戦い方が出来るようになったな」
『私一人じゃ気付けなかった。拓也達皆が教えてくれた。時の闘士が教えてくれた』
「へぇ、そりゃ良かったな。でもまだ、お前の力はデジモン「もどき」だ。完璧なデジモンじゃない。俺達本物のデジモンに敵う訳がねぇんだよ」
『そうかもしれない…。だけど、力は力でも、私達はお互いに違う力を持っている。それに本物も偽物もない』
「はんっ言うようになったじゃねぇか」

生意気にな、とベルゼブモンの口元が歪む。まだまだ余裕だと言っている証拠だった。これだけ戦っても、ベルゼブモンの息を乱す事すら難しいだなんて。
分かっていたのだ。だけど、それでも無意味で無謀な戦いの中で「彼」を見つけたかった。

『私は、仲間達と成長したこの力で、「貴方」に勝つ。ただただ力を求め続けた貴方なんかに負けない。一人ぼっちだった、貴方に』
「はっ――」

ただ力を求め続けた俺なんかに負けない?何を言ってんだ、こいつは。俺の――俺の何を知ってそんな口が利ける。
ふつふつと、ベルゼブモンの中から煮え切らない感情が増幅してくる。ベルゼブモンはその感情をよく知っていた。怒り、恨み、嫉妬、そして悲しみ。それらが全て一気に襲い掛かってくる感情だった。その感情が増大すると共に、彼の中で「魔王らしい」感情が一緒に溢れ出て来た。

今この瞬間をもって、こいつを滅茶苦茶に、跡形もなくぐちゃぐちゃにしたい。
真っ黒な感情がドロドロと溢れ出してくる。その感情はベルゼブモン自身止められないし、止めたくもない。僅かに浮かべていた笑みを引き攣らせ、自分の顔を手で覆う。

「おいおい…。おいおいおいおいおい!!」
『…!』
「仲間達と成長した力?そんなちっぽけな力で俺に勝てると思ってんのかお前?俺が手に入れたこの「魔王」の力に、ただのデジモン「もどき」が勝てるってのか?
そりゃあ、笑える冗談だ!最高に笑えるな!!けどよ…」

ベルゼブモンは手に顔を覆うのを止めて、こちらを虚ろな目で見る。光もない、まさに黒しかないその目の色は言わずもがな、絶望のような色をしていた。

「お前に何が分かるってんだ?お前に…お前に俺の!!何が分かるっていうんだ!言ってみろ!!どうせアイツらの事仲間って言っても、上辺だけの仲良しごっこだろうがッ!本当の事も言えない、本気でぶつかった事がねぇ癖に何一著前に語ってんだッ!」
『ッ!』

乱れていく感情に、ベルゼブモンにもどうしようもなく、ぶつける事しか出来ない。彼は一瞬消えたかと思うと、一瞬にしてヴィータモンとの間合いを詰めてはその鋭利な爪を向ける。勢いよく振り落した瞬間、ザシュッという嫌に生々しい音が響いたと共に、その音に似合う血飛沫と、強烈な痛みがヴィータモンの体を襲った。
散るのは自分の体に流れる血と、白い羽――

何とも言えない激痛が襲い掛かり、声も上げる暇もなくベルゼブモンは貫通したヴィータモンの翼をそのまま掴んではまるでボールを投げるように、軽々と体を持ち上げては向こう側へと放り投げる。
何度か地面を跳ね、体を引き摺り、木々に体をぶつけてようやく勢いは止まった。

「なァおい。何とか言ってみろよッ!!」
『ッ!あぁぁああああ!!』

早く起き上がろうと前足に力を入れるも、予想以上の激痛に思ったように動かせない。それを見て、ベルゼブモンはヴィータモンの翼を踏み付けては貫通した個所を地面へと強く擦り付ける。
更に痛みが走ったヴィータモンはそこでようやく叫ぶ事が出来た。痙攣する脚がどうしようもない痛みに耐えられていない証拠で、それでもベルゼブモンは擦り付けるのを止めなかった。
何か言わなきゃ、何か言わなきゃと頭では分かっているのに、痛みが頭を支配して中々言葉が口から出てきてはくれず、ただただ痛いと叫ぶ事しか出来なかった。

『わ、わ…たしは…』
「あぁ?」
『私、は…ツカイモンが、羨まし…かった』
「はあ?」

出て来た言葉は、「彼」に向けての言葉だった。激痛のせいで、何も考えられない中、その言葉が出てきたのだ。ベルゼブモンはもちろん、また意味の分からない事を言いだしたと言わんばかりに首を傾げる。だが、そのおかげで彼は翼を擦り付けるのを止めて、ヴィータモンの涙が浮かぶ瞳を見る。

『自分の、思ってる事…素直に相手に言える…事…』

声は掠れて、よく聞き取れないが、それでもベルゼブモンの耳にはよく聞こえており、彼はただ黙って彼女の声に耳を澄ます。

『確かに、私は…友達や、家族に…本気で、ぶつかった事、なかった。本気でぶつかった時に、切れてしまう縁が、分かってたから…っ』

今までの自分は、その縁が切れるのが怖かった。だから、敢えて自分の気持ちを抑えつけて、その場の空気に合わせて、こう言った方が良いだろうって嘘の言葉も並べた事もあった。
苦しい時もあったけど、そうした方が良いって自分を殺して――

『だから、自分の思った事言える…ツカイモンが羨ましかった…そりゃ、時々素直じゃなかったりしたけど…――だけどッ!』
「ああ悪い。半分くらい聞いてねぇわ」
『ッ!』

ガシッと、視界が歪みだし、ヴィータモンは翼が軽くなったと同時に、体が重くなるのを感じた。
その原因は、顔を覆われた甲冑により一瞬分かりづらかったが、ベルゼブモンは翼を踏み付けるのを止めて、ヴィータモンの顔を鷲掴みにするなり片腕だけでヴィータモンの体を持ち上げる。
虚ろになるヴィータモンの目を見てもベルゼブモンは何を言う訳でもなく、見つめる。そして、ぐっとヴィータモンを持つ手に力を入れると同時にまた別の方へと投げ飛ばした。

『がッ!』
「誰の話してんのお前」

俺はもう、お前の知ってる「使い魔」ごときじゃないんだよ。





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