act.4 (4/5)


拓也を囮にして崖を登り始める子ども達。全員が途中まで登っている中、キャンドモンが拓也を見つけたのだろう、声を上げて仲間を呼ぶ声が聞こえた。思わず反射的に振り向きその光景を目にするが、拓也は川から上がった後もまだアグニモンへと進化しておらず、キャンドモンの追手から逃げていた。やはり自分のタイミングで進化する事が出来ないのか、拓也はデジヴァイスを弄っていた。全員で逃げるべきだった、再び子どもたちに焦りが見えてくる。

「“ボーンファイア”!」
「進化しろ!」

拓也の足元ギリギリに炎が弾ける。こちらとしては登る事よりも、あの攻撃が拓也自身にいつ当たってしまうのかと肝が縮まる。
しかし一番肝が冷えているのは拓也であり、後方ではキャンドモンの追手と攻撃、すぐ近くにはただの子ども達が逃げている。なんとしても進化しなくてはというプレッシャーが襲いかかる。進化しなくてはという気持ちだけが先走った結果か、睨めっこしていたデジヴァイスが手から滑り落ちてしまった。更に焦りの表情が浮かぶ中、ふとキャンドモンへと振り返り距離を見計らい持ち前の運動神経により直ぐにデジヴァイスを拾い上げた。
その時何も反応を示さなかった拓也のデジヴァイスの画面が点滅し、やがて“火”という文字が浮かび上がった。

「進化しろぉーっ!」

再び、デジヴァイスが輝きだす。

「スピリットエボリューション!

―――アグニモン!」

「やったー!」
「アグニモーン!」
「戦えアグニモン!」
『頑張ってアグニモン…!』

何度目の正直か、漸くしっかりと進化が出来た拓也はアグニモンとして踵を返しキャンドモンへと立ち向かう。子ども達も安堵からか崖を登りきり歓喜の声を上げた。

「“バーニングサラマンダー”!」

火の闘志故にこちらも炎の技を繰り出し、キャンドモンへと攻撃を当てていく。しかし炎のデジモン同士の攻撃はあまり効果がないのかキャンドモンはダメージを受けていないどころか、頭で灯っている炎が大きくなっていった。

「どうして…?」
「キャンドモン達に炎攻撃は効かないんだわ!」
「アイツやっぱりバカだ!皆ここから離れよう!………いてっ!」

最早危機的状況なのは先程と何も変わらず最初に戻ってしまった以上、先に逃げようと声を上げる純平。しかしその純平の姿がいきなり消えてしまう。下から何やら痛みを上げる声が聞こえ其方へと視線を落としていく…前にはもう、振り向いた時には辺り一面に広がっており、理解するなり肌寒さを実感した。
氷漬けなのである。崖の上は下と全く違う光景が広がっており、一面氷が張っていた。案の定純平はその氷の地面に足を滑らせ転んだのだろう。
そして不思議とこの氷は奥にひっそりと存在する洞窟から伸びている様にも見える。妙な風が洞窟から吹き頬を凍てつかせる。

「二人とも気を付けて!」
「うん…!」
『純平君、大丈夫?』
「あ、あぁ…いってて…何だこの洞窟…」
「どうして凍ってるの?」

特別この崖の一部だけ凍っている。どういう原理で凍っているのかこの世界ではこういう物が当たり前なのか。息を呑みそうになった時、アグニモンがキャンドモンに押されている声により遮断される。

『やっぱり囮は難しかったんじゃ…!』
「!お願い!僕にもスピリットを!!」
「またかよ、スピリットは伝説の闘士の物なんだぜ?苛められっこの友樹になんかは無理だ。もしかして俺なら!………なれる訳ないよな、」

アグニモンの危機に友樹は自分のデジヴァイスを弄る。必死なその姿の友樹に純平もまた呆れたように言うも、もしかして自分なら進化が出来るのではとデジヴァイスを少しだけ弄る。そんな期待を抱いてみたりするが、我に返るなりすぐになれる訳がないと諦めて弄るのを止める。

「“メルトワックス”!」
「しまった!うわあぁぁっ!!」

お互いに炎を使う技。どちらにも効果が無いのならとキャンドモンは次に自身の体を回転させていき、自分の体である蝋を飛ばしアグニモンへと浴びせていく。溶けかけの蝋が独特の香りと熱を帯びアグニモンの体に付着していく。一瞬の熱と冷えて固まってしまう事によりアグニモンは身動きが取れなくなってしまった。

「あぁ!アグニモン!!」

この世界に来て怯えて線路の上で動けなくなった自分を助けに来てくれた拓也。地下ではレアモンの技が当たらないように身を投げてまで助けてくれた拓也。誰よりも心配そうに声を上げた友樹。
思えば友樹はここにいる自分より年上の人達に助けて貰ってばかりだった。
何も出来ない、苛められっ子の友樹。それが嫌だった。
そしてその思いは友樹の足を動かした。

「僕、足手まといなんか嫌だ!!」
『友樹君!!』
「友樹!」
「よせ!」

登ってきた崖を転ぶ事なく降りきるなり浅瀬の川の中へと躊躇なく飛び込み自分の被っていた大きな帽子をバケツ代わりに水を掬い上げていき、零れ切れる前にそれをキャンドモン達にかけていく。

「やめて!やめて!やめて!やめて!やめてぇっ!!」

まるで、いじめっ子の苛めを止めようと体を張っているような、そんな姿。無我夢中にキャンドモンに水をかけていく友樹。キャンドモンも水を被るのが嫌なのか攻撃を止める。
そんな友樹に共鳴したのか崖の上から見ていた結衣達の背後にある洞窟が強く輝き始め、氷の中から小さな白い熊のような形をしたスピリットが現れた。
一体誰の、と聞くまでもない。あのスピリットはきっと―――…
スピリットは結衣達の間を抜けていくと崖の下まで降下し友樹の目の前で止まるなり彼の浸かっている箇所を中心に一気に川を凍らせていった。
あの洞窟を凍らせていたのは恐らくあのスピリットのせいだったのだろう。
友樹がスピリットと共鳴し、スピリットは友樹の目の前に立った。

「スピリット…?」

誰に尋ねる訳でもなく、そう呟くと帽子を被り直しポケットから先程弄っていたデジヴァイスを取り出し、目の前のスピリットに向けた。

「スピリットー!」

友樹のデジヴァイスの画面に“氷”という文字が浮かび上がった。

「スピリットエボリューション!!

――チャックモン!」

小さな子熊の容姿をした、友樹の面影があるような小熊。だが、背中には銃器らしきものを背負っており可愛いらしい見た目の割に戦士らしい成をしている。

伝説の闘士、氷のチャックモンの登場となった。




×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -